翻訳|golden share
株主総会や取締役会で重要議案を否決する権利を与えられた株式。拒否権付株式ともいう。1980年代にイギリスのサッチャー政権が国営企業の民営化を進めた際、空港や通信などの国防上重要な事業が外国企業に買収されることを防ぐために、政府保有株に拒否権を付与したのが始まりとされる。ほぼ100%の株主が賛成した議案でも、1株で決定を覆すことができる絶大な権限をもつことから黄金株とよばれ、通常、黄金株は1株しか発行されない。経営陣に友好的な株主に黄金株を割り当てておけば、敵対的買収者に株式を買い占められた際にも買収者を退けられることから、黄金株発行は企業の買収防衛策として有効な手法の一つとされる。なお広義には、1株で複数の議決権をもつ複数議決権付株式も黄金株に含めることがある。
黄金株は配当や議決権が普通株式とは異なる「優先株」「劣後株」「譲渡制限株」などと同じ種類株式の一種であり、発行する場合には会社の定款に明記しなければならない。ただし黄金株は特定株主に大きな権限が集中するため、株主平等の原則や「一株一議決権原則」(会社法308条1項)に反するとして、株式市場に上場する企業で採用されることはほとんどない。日本では、2004年(平成16)に上場した国際石油開発(現、国際石油開発帝石)が外資による買収を避けるため、政府(経済産業大臣)が同社の黄金株を保有している1事例のみである。上場企業以外では、UFJ銀行が三菱東京フィナンシャル・グループと経営統合する際、三井住友フィナンシャルグループによる買収を避けるために黄金株を発行したことがある。また、上場前のベンチャー企業が資金調達のためベンチャー・キャピタルに対して発行するケースがあった。なお、上場企業については、友好的株主に発行した黄金株が敵対的株主に譲渡される恐れがあったため、2006年(平成18)施行の会社法第108条では、譲渡制限をつけて黄金株を発行することが認められた。当時、東京証券取引所は黄金株導入企業の上場を拒否する意向を示していたが、経済界の反発もあり、上場を条件つきで認める方針に転じた。
アメリカでは、グーグルやフェイスブックなどインターネット企業の創業者らが上場前に普通株の数倍から10倍の議決権のついた複数議決権付株式を保有し、上場後も経営権を確保する例がある。ただしアメリカの主要株式取引所は上場後の黄金株発行を禁止しており、ヨーロッパ連合(EU)も域内各国の取引所に黄金株制度の廃止を求めている。
[矢野 武]
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(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)
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