事業譲渡(読み)じぎょうじょうと

日本大百科全書(ニッポニカ) 「事業譲渡」の意味・わかりやすい解説

事業譲渡
じぎょうじょうと

会社が一定の事業目的により組織づけられた有機的一体としての機能的財産の移転を目的として行う債権契約。

[福原紀彦]

意義

従来から、商法上、営業という語は、二つの意義で用いられており、一つは、主観的(動的)意義において商人の営業上の活動自体を意味し(商法5条、6条、14条、502条など)、もう一つは、客観的(静的)意義において商人が一定の目的のために結合させた組織的財産の総体を意味する(同法16条など)。そして、客観的意義における営業は、それを構成する各個の財産の単純総和以上の価値を有しており、その客観的な同一性を保持して移転することを認めたのが営業譲渡であり、2005年(平成17)6月成立の会社法では、その営業譲渡を事業譲渡と改称して、組織法的側面での規律を467~470条に置き、その取引法的側面の規律を21~24条に置く。事業譲渡は、会社の事業の解体を防止して、会社企業の維持に役だち、企業結合の一つの法的手段として会社合併類似の機能を果たし、また、企業分割の法的手段としても使われる。

[福原紀彦]

譲渡会社と譲受会社における取引法的規整

事業を譲渡した会社(以下「譲渡会社」という)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(東京都および指定都市にあっては区)の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならないとの競業避止義務を負う(会社法21条1項)。譲渡会社が競業避止の特約を設ける場合には、その特約は事業譲渡日から30年の期間内に限って効力がある(同条2項)。これらの規定にかかわらず、譲渡会社は不正の競争の目的をもって同一の事業を行うことができない(同条3項)。

 事業を譲り受けた会社(以下「譲受会社」という)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う(会社法22条1項)。ただし、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、責任を負わず、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社および譲渡会社から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても責任を負わない(同条2項)。譲受会社が前記の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、事業譲渡の後2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過したときに消滅する(同条3項)。なお、譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合において、譲渡会社の事業によって生じた債権について、譲受会社にした弁済は弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは効力を有する(同条4項)。

 譲受会社が譲渡会社の商号を続用しない場合においても、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者は譲受会社に対して弁済の請求ができる(会社法23条1項)。譲受会社が譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、同項の広告があった日後2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過したときに消滅する(同条2項)。

[福原紀彦]

株式会社における組織法的規整

株式会社は、(1)事業の全部の譲渡、(2)事業の重要な一部(譲渡資産帳簿価額が当該株式会社の総資産額の5分の1を超える場合)の譲渡、(3)他の会社(外国会社その他の法人を含む)の事業全部の譲受、(4)事業全部の賃貸・事業全部の経営委任・損益共通契約等、または、(5)事後設立をなすには、当該行為がその効力を生ずる日の前日までに、株主総会特別決議による承認を要する(会社法467条1項各号、309条2項11号)。

 これらの場合に、株主総会の特別決議を要しない場合がある(会社法468条)。第一は、略式事業譲渡とよばれ、契約の相手方が当該事業譲渡等をする株式会社の「特別支配会社」である場合である(略式組織再編行為と同様の基準)。ここに、特別支配会社とは、ある株式会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社および当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の会社をいう。第二は、簡易事業譲渡とよばれ、前記(3)の事業全部の譲受の場合に、対価が純資産額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合である(簡易組織再編行為と同様の基準)。

 第二の場合において、法務省令で定める数の株式を有する株主が、事業譲渡の通知または公告(会社法469条3項・4項)の日から2週間以内に、簡易事業譲受行為に反対する旨を当該行為をする株式会社に対し通知したときは、当該株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為にかかる契約の承認を受けなければならない。

 事業譲渡等をする場合には、反対株主は、事業譲渡等をする株式会社に対して、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求できる(会社法469条)。この反対株主の株式買取請求があった場合、株式価格の決定と支払いに関する規定が用意されている(同法470条)。

[福原紀彦]

『宮島司著『新会社法エッセンス』第2版(2006・弘文堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「事業譲渡」の意味・わかりやすい解説

事業譲渡
じぎょうじょうと

株式会社が取引行為として事業をほかに譲渡すること。対象事業が事業の全部または重要な一部の場合には,株主に与える影響が重大であるために株主総会の特別決議により承認を受けなければならず(会社法467条1項1,2号),未承認の譲渡は原則として無効である。事業譲渡に反対する株主は株式買取請求権(→合併)を行使できる。譲渡する資産の帳簿価額が会社の総資産額の 5分の1をこえない場合(簡易事業譲渡)や,譲渡の相手方が譲渡する会社の総株主の議決権の 10分の9以上を有している場合(略式事業譲渡)には,株主総会の承認は必要とされない。会社法の総則が規定する事業譲渡(21条)と,株主総会の特別決議を要する事業譲渡の意義について,判例は,(1) 一定の目的のために組織化され有機的一体として機能する財産の譲渡,(2) 事業活動の譲受人への承継,(3) 譲渡会社が当然に競業避止義務を負うこと,の三つの要件を示して両者は同じであるとするが,学説には異論が多い。

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M&A用語集 「事業譲渡」の解説

事業譲渡

会社ごと売買するのではなく、会社の中身のうち、必要な事業に関連する資産・負債のみを売買する方法。売り手企業 (売却企業) のオーナーは、譲渡した事業に対する支配権を完全に失う。店舗や工場といった土地建物などの有形固定資産や売掛金・在庫などの流動資産だけでなく、営業権 (のれん) や人材、ノウハウといった無形資産も譲渡対象となるので、買い手企業 (買収企業) は必要な資産のみを譲り受けることができる。売り手企業は、同一市町村内では同一営業を再開することができなくなるという法律 (会社法) 上の制約 (競業避止義務) がある。買い手企業にとっては、契約で引き継ぐと謳われている債務以外は原則として引き継ぐ必要がないため、簿外債務などが発覚しても負担する必要はない。

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