家庭医学館 「鼻の外傷」の解説
はなのがいしょう【鼻の外傷 Injury of the Nose】
鼻のつけ根には薄い鼻骨(びこつ)があり、そこから軟骨(なんこつ)が先端まで続いています。鼻のけがは、皮膚の損傷のことも、内側の粘膜(ねんまく)の損傷のこともあります。鼻の孔(あな)に近い鼻中隔(びちゅうかく)はとくに出血しやすい部分で、割合、簡単に鼻出血(びしゅっけつ)がおこります。
■鼻骨骨折(びこつこっせつ)、鼻軟骨損傷(びなんこつそんしょう)
鼻のけがでは、鼻出血や鼻づまりが簡単におこりますが、鼻骨骨折や鼻軟骨の折損もおこりやすいものです。
けがをした直後から鼻筋(はなすじ)が曲がったり、鼻がへこんでしまったりしたときは、鼻骨骨折や鼻軟骨折損の証拠です。皮膚や粘膜の傷が開いていない、出血が止まる、曲がりや陥没が少ないという場合は、ペンチのような鉗子(かんし)で整復し、鼻孔(びこう)に詰め物をして固定します。
けがから時間がたつと、腫(は)れがひどくなって、変形がわからなくなりますので、早く受診します。X線写真で骨折のようす、ずれや曲がりの程度を調べます。
鼻が大きく変形している場合は、周辺の骨まで骨折していることがあるので、X線写真やCT検査が必要です。
鼻梁(びりょう)が大きくへこんだときは鞍鼻(あんび)、横に大きくずれたときは斜鼻(しゃび)と呼ばれます。この場合、けがをした直後に手当を受けられないと、腫れがひどくなりますが、1週間くらいで腫れがひいて、再び変形が目立つようになります。この時期に変形を整復します。この時期を逃すと、手術が必要になります。
変形の整復や手術の際、けがをする前の写真があると、元どおりの形にしやすいものです。
■顔面の骨折
鼻骨骨折と合併または単独で顔面を構成する前頭骨(ぜんとうこつ)、頬骨(きょうこつ)、上顎骨(じょうがくこつ)、下顎骨(かがくこつ)が骨折することがあります。目から上の前頭骨骨折は、頭蓋骨骨折(ずがいこつこっせつ)として扱われます。
目の周辺を骨折し、眼窩(がんか)が変形すると、眼球(がんきゅう)の位置がずれたり、物が二重に見えたりします。目にテニスボールのような弾力のある物が当たると、眼窩内の圧が上がり、眼窩下壁が折れるブローアウト骨折がおこることがあって、眼球が動かせなくなります。眼窩上縁(じょうえん)の前頭骨を打つと、眼窩の奥の視神経が通る視束管(しそくかん)骨折をおこし、急激に視力を失うことがあるので、緊急手術が必要になります。
頬骨骨折では、耳の前のほうが陥没して口を開けなくなりますが、腫れがひどいと陥没がはっきりしません。X線写真やCTで診断します。
上顎骨骨折では、軽いかみ合わせの異常、顔面中央のへこみ、顔面の間のびや曲がりによる人相の変化など、程度と部位によって、いろいろな症状になります。程度に応じて、外固定や手術固定が行なわれます。
下顎骨骨折では、耳の前の顎関節周辺からあごの中央にかけて骨折し、あごの変形、開口不能などのいろいろな症状が出ます。
顔面の骨折は緊急の処置が必要で、形成外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)、眼科、口腔外科(こうくうげか)、歯科などの共同治療が必要になることが少なくありません。