鼻疽、類鼻疽(読み)びそ、るいびそ

六訂版 家庭医学大全科 「鼻疽、類鼻疽」の解説

鼻疽、類鼻疽
びそ、るいびそ
Glanders, Meliodosis
(感染症)

どんな感染症か

 鼻疽菌(バークホルデリア・マレイ)、類鼻疽菌(バークホルデリア・シュードマレイ)が病原体で、どちらも日本には存在しない感染症です。

●鼻疽

 主にウマ、ロバ、ラバなどの奇蹄類(きているい)の病気ですが、イヌ、ネコ、ヒツジヤギなども感染します。ヒトには感染動物の鼻汁、潰瘍部、うみ、粘膜などとの接触によって感染します。

 モンゴル、中国、インド、フィリピン、インドネシア、イラン、イラクなどで報告があります。

●類鼻疽

 熱帯地域の水や土壌に常在している細菌による感染症です。ブタ、ウマ、ヤギ、ウシなど多くの動物に感染します。ヒトには、流行地でのアウトドア活動によって傷ついた皮膚などから感染します。また、汚染した水、食肉などからも感染します。

 東南アジア、オーストラリア北部などにみられます。

 鼻疽も類鼻疽も、バイオテロに用いられる可能性が指摘されています。

症状の現れ方

●鼻疽

 感染経路によって皮膚の局所的病変、肺炎敗血症(はいけつしょう)、あるいはこれらが混合した症状が現れます。局所感染の場合、潜伏期は1~5日とされています。頭痛、発熱、筋肉痛など非特異的症状が認められますが、そののち全身感染を起こします。

 治療しない場合には、100%近くの死亡率といわれています。慢性になる場合も知られています。

●類鼻疽

 いくつかの病型を示します。皮膚における急性の化膿性結節あるいは膿瘍(のうよう)では、リンパ管炎あるいはリンパ節腫脹(しゅちょう)を伴い、発熱、倦怠感(けんたいかん)を示し、その後、急速に敗血症へと進みます。

 肺における急性感染では、軽度の気管支炎から致死的な重症肺炎までと多様です。亜急性ないし慢性に進行する場合もありますが、多臓器に膿瘍を形成し、結核結節との区別が必要です。また、不顕性(ふけんせい)感染も知られています。

 潜伏期は、数日から数年に及ぶ場合も知られています。健康な人にも感染しますが、患者さんの多くは糖尿病腎不全などの基礎疾患をもっています。

検査と診断

 いずれも確定診断には、それぞれの菌を分離する必要があります。血清学的には凝集(ぎょうしゅう)反応、補体結合反応、酵素抗体法などが用いられます。

 鼻疽では結核炭疽(たんそ)丹毒(るいたんどく)天然痘(てんねんとう)梅毒(ばいどく)など、類鼻疽ではコレラ赤痢(せきり)アメーバ症チフスペスト野兎病(やとびょう)粟粒結核(ぞくりゅうけっかく)マラリア梅毒、鼻疽、全身性真菌症との区別が必要です。

治療の方法

 セフタジジム、イミペネムなどの抗菌薬が有効とされています。

病気に気づいたらどうする

 流行地を訪れたのちに該当する症状があれば、鼻疽の場合には動物との接触の有無も含めて、受診時にそのむねを告げる必要があります。

山田 章雄

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「鼻疽、類鼻疽」の解説

鼻疽・類鼻疽(Gram 陰性悍菌感染症)

(18)鼻疽(glanders)・類鼻疽(melioidosis:メリオイドーシス)
定義・概念
 鼻疽菌(Burkholderia mallei)と類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)は90%以上の染色体の相同性を示し,細菌学的には類似した菌種であるが,鼻疽菌は鼻疽,類鼻疽菌は類鼻疽を引き起こす.いずれも東南アジアなどの熱帯・亜熱帯地域に分布する好気性菌のGram陰性桿菌で,人獣共通感染症を起こす.
原因・病因
 鼻疽菌はおもにウマやロバに感染し,ヒトはそれらの動物に接触することで感染する.一方,類鼻疽菌は土壌や池の水など環境中に多く存在し,ときに動物にも感染するが,ヒトは動物を介さず感染することが多い.なお鼻疽菌は運動性がなく,類鼻疽菌は鞭毛を発現し運動性を示す.
疫学・統計的事項
 鼻疽・類鼻疽はアジア,アフリカ,中東地域などにおいて散発的に発生している.いずれの菌も生物兵器への応用を目的に研究が行われた過去があり,米国CDCはバイオテロ目的で使用される可能性が高い菌として,鼻疽菌と類鼻疽菌をカテゴリーBに分類している.
臨床症状
1)鼻疽:
鼻疽は致死的な感染から数年にわたる潜伏感染まで幅広い感染を引き起こす.急性感染として化膿性感染(創部感染,鼻粘膜などの潰瘍,多関節炎),呼吸器感染(肺炎,肺膿瘍),敗血症が認められる.化膿性感染では肉芽腫性の病変をつくりやすく,潰瘍や区域性のリンパ節炎を伴うことが多い.局所感染に引き続いて敗血症を発症した場合,壊死性の皮膚の発疹とともにしばしばショックや多臓器不全に陥る.また慢性化膿性鼻疽として多発性の皮下,筋肉,および内臓の膿瘍を伴う.
2)類鼻疽:
類鼻疽は,急性・慢性,局所性・全身性,さらに顕性・不顕性の広い範囲の感染形態から成り立っており,総称してメリオイドーシスとよばれている.なお類鼻疽は菌血症・急性敗血症型,肺型,局所型,および不顕性型の4種類の病型に分けられる.菌血症・急性敗血症型は,糖尿病や慢性腎疾患などの基礎疾患を有する例に起こりやすく,急激に発熱,悪寒,ショックを伴い,全身感染状態となる.肺型は軽度の気管支炎から壊死性の肺炎までさまざまであり,重症例では発熱,咳,痰に加えて血痰を伴う.局所型の多くは限局性の皮膚感染として発症し,区域性のリンパ節炎が認められる.不顕性型は無症候のまま感染が持続し,免疫能の低下などが誘因となって発症することが多く,ときに胸部X線の陰影をきっかけとして無症候性の肺感染が発見されることがある.
検査成績
 鼻疽,類鼻疽ともに血算では軽度から中等度の白血球数増加を認める.本疾患に特徴的な生化学的所見は認めない.胸部X線にて浸潤影,結節影,空洞性の変化などさまざまな所見が認められる.深部膿瘍がある場合は腹部超音波検査やCTで確認可能である.
診断
 まず東南アジアなど流行地域への渡航歴を確認する.血液,痰および膿分泌物などの培養で菌を分離できれば確定診断につながる.なお抗体価の測定による血清診断も可能である.
鑑別診断
 敗血症を伴う病型では,マラリア,ペストおよびほかの菌による敗血症との鑑別を要する.肺感染の場合は,ほかの細菌による肺膿瘍や結核と鑑別すべきである.
経過・予後
 感染防御能が低下している例では重篤な感染に陥りやすい.敗血症の場合,予後は不良である.ほかの病型は早期から適切な治療を受ければ予後は良好とされている.
治療・予防・リハビリテーション
 鼻疽に対してはアミノグリコシド,テトラサイクリン,ST合剤が有効である.類鼻疽にはカルバペネムクロラムフェニコール,テトラサイクリン,ST合剤が推奨されているが,ST合剤への耐性株も報告されている.膿瘍のドレナージなど外科的処置も重要である.なお有効なワクチンは開発されていない.[松本哲哉]
■文献
Longo DL, et al ed: Harrison’s Principles of Internal Medicine, 18th ed, McGraw-Hill, 2011.
Mandel GL, Bennett JE, et al: Mandel, Douglas and Bennett’s Principle and Practice of Infectious Diseases, 7th ed, Elsevier Churchill Livingstone, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

今日のキーワード

大臣政務官

各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...

大臣政務官の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android