川崎病(読み)かわさきびょう(英語表記)Kawasaki disease

精選版 日本国語大辞典 「川崎病」の意味・読み・例文・類語

かわさき‐びょう かはさきビャウ【川崎病】

〘名〙 乳幼児に発症する熱病。発熱、四肢末端の硬性浮腫、紅斑、眼球結膜の充血、頸部リンパ節腫脹などが主症状。昭和四二年(一九六七)、小児科医川崎富作らにより報告されたことによる名。

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デジタル大辞泉 「川崎病」の意味・読み・例文・類語

かわさき‐びょう〔かはさきビヤウ〕【川崎病】

4、5歳以下の乳幼児が主にかかる熱病。原因は不明。発熱・浮腫・発疹などがみられ、冠状動脈瘤かんじょうどうみゃくりゅうなどの合併症のために急死することがある。昭和42年(1967)小児科医の川崎富作が報告。急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群。MCLS(mucocutaneous lymph node syndrome)。

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六訂版 家庭医学大全科 「川崎病」の解説

川崎病
かわさきびょう
Kawasaki disease
(子どもの病気)

どんな病気か

 全身の血管、とくに小~中くらいの太さの動脈に炎症が起こる病気です。日本では年間1万人以上の子どもがかかっています。主に4歳以下の乳幼児がかかりやすく、男の子にやや多くみられます。

原因は何か

 細菌、ウイルス感染や、遺伝的な素因との関連が考えられていますが、まだ原因はわかっていません。

症状の現れ方

 症状による診断基準が定められています(図55)。

①発熱:5日以上続くことが多く、通常の解熱薬ではほとんど下がりません。

②両眼の充血:白眼(眼球結膜)が赤くなりますが、目やにはあまり出ません。

③イチゴ(ぜつ):舌の表面に赤いぶつぶつが目立ちます。唇も赤くはれます。

④大小さまざまな形の発疹:手足や体に多くみられ、BCG接種部分も赤くはれます。かゆみを伴うこともあります。

⑤四肢末端の変化:手足が硬くはれます。回復期は手足の皮膚がペロンとむけます。

⑥非化膿性頸部(けいぶ)リンパ節腫脹(せつしゅちょう):首のリンパ節がはれて痛くなります。

 前記の6症状のうち、5つを満たせば川崎病と診断します。ただし、前記の症状がそろわない不全型の川崎病もあります。その他の症状として、腹痛、下痢、黄疸(おうだん)、関節痛、頭痛、けいれんなどがみられることがあります。

 最も問題になるのは、冠動脈という心臓の血管に炎症が起きて、こぶ(冠動脈瘤(かんどうみゃくりゅう))ができてしまうことです。こぶができた血管があとで詰まってしまい、心臓に十分な血液が行かなくなると、心筋梗塞(しんきんこうそく)を発症しやすくなります(図56)。

検査と診断

 診断は臨床症状で決まりますが、症状のはっきりしない例では診断に時間がかかる場合もあります。血液検査では、炎症反応の高値が認められます。血中蛋白の低下や肝機能異常を認めることもあります。心臓の病変は、心臓の超音波検査で評価します。

治療の方法

 原因が不明のため根本的な治療法はありませんが、症状を軽くしたり、冠動脈瘤ができないようにするために、いくつかの治療が行われています。

①急性期

a.アスピリンの内服:炎症を抑え、血液が血管内で固まらないようにします。初期は多めに使い、解熱後は減量して約1カ月間使用します。

b.γ(ガンマ)­グロブリン療法:冠動脈瘤をつくりにくくさせるといわれています。現在は超大量療法と呼ばれる、1日ないし2日間の点滴投与が主流です。γ­グロブリンは血液製剤なので、患者さんには十分に説明し、同意を得たうえで使用しています。

 γ­グロブリンが効かない重症の場合は、ステロイド薬の投与や血漿交換療法(けっしょうこうかんりょうほう)を行うこともあります。

②急性期以後

a.冠動脈に障害を残さなかった場合: 約1カ月間アスピリン内服を続けますが、その他の治療は不要です。ただし、心臓検査を、年に1回程度は受ける必要があります。運動制限はとくにありません。

b.冠動脈瘤ができた場合:こぶの程度に合わせてアスピリンの内服を続けます。巨大なこぶの場合、アスピリンに、別の抗凝固薬の内服を加えます。こぶの程度により運動制限をすることがあります。

c.血管が詰まってしまう可能性が高い人:血管バイパス手術や、カテーテルという管を血管に入れ、風船をふくらませて押し広げたり、血管の壁が厚くなって内腔が狭くなっているところを削る治療も行われています。

 予後は冠動脈瘤ができなければ、非常に良好です。冠動脈瘤を形成する率は約5%で、同じ患者さんが再発する率は約3%です。

樋浦 誠


川崎病
かわさきびょう
Kawasaki disease
(皮膚の病気)

どんな病気か

 皮膚粘膜リンパ節症候群(MCLS)とも呼ばれます。1967年、川崎富作博士によって報告された乳幼児に発症する熱性疾患です。

 抗生剤に反応しない高熱が続き、特徴的な皮膚粘膜症状を伴います。急性期の炎症症状はやがて消退しますが、のちに冠動脈の動脈瘤(どうみゃくりゅう)弁膜症(べんまくしょう)心筋炎など、心臓血管系に重い後遺症を残す可能性があります。

原因は何か

 原因は不明ですが、何らかの感染症が疑われています。予後と関係する冠動脈病変は、病理学的には血管壁の肉芽腫性(にくげしゅせい)炎症を認めます。

症状の現れ方

 主に4歳児以下の乳幼児に発症します。抗生剤で改善しない高熱が5日以上持続します。皮膚では手足の硬性浮腫(こうせいふしゅ)(俗に“てかてかぱんぱん”と呼ばれるように硬くはれる)、掌蹠(しょうせき)(手のひら、足の裏)ないしは指趾先端の紅斑、指先からの膜様落屑(まくようらくせつ)(回復期に指先の皮膚が脱皮するように1枚の膜となってむける)、口唇の潮紅(ちょうこう)腫脹(しゅちょう)、イチゴ状舌(舌が赤くはれて表面のぶつぶつが大きく目立った状態)、口腔咽頭粘膜の発赤、頸部(けいぶ)リンパ節腫脹じんま疹滲出性紅斑(しんしゅつせいこうはん)に類似する不定形の紅斑、眼球の充血がみられます。

 本疾患に特異的ではありませんが、過去2年以内に行ったBCG接種部位に紅斑、痂皮(かひ)(かさぶた)、膿疱(のうほう)が現れることがあります。

検査と診断

 一般検査ではあまり特徴的所見はありませんが、白血球増多、血小板増多、CRP陽性、赤血球沈降速度の亢進がみられます。聴診、心電図、胸部X線、断層心エコー(超音波)などで心血管系の動脈瘤の有無を調べます。動脈瘤は遅れて現れることが多く、定期的な検査が必要です。

治療の方法

 予後は冠動脈瘤が現れるかどうかで左右されます。治療はガンマグロブリン大量投与とアスピリン内服療法が標準治療として確立されています。皮膚症状は対症的に対応します。

病気に気づいたらどうする

 循環器を診ることのできる小児科を受診してください。急性期を過ぎても定期的に心血管系のフォローアップが重要です。

衛藤 光

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内科学 第10版 「川崎病」の解説

川崎病(小児のリウマチ性疾患)

定義・概念
 川崎病は血管壁を場とする急性熱性炎症性疾患であり,突然に発症し約2週間の経過で終息する.この経過中全身の中型筋型動脈の血管炎に伴い種々の症状が生起し消退するが,特に冠動脈病変の有無・重症度が患児の予後に重大な結果をもたらす.小児期の後天性心疾患としてはリウマチ熱弁膜症の数を上回り川崎病が,第1位にランクされる.
 最近では年間10000~12000人の報告がなされている.川崎病の発症は1歳をピークとする独特の年齢的特徴を示し,0歳〜5歳までで85%以上を占める.男児に多く,早春に発生のピークがみられる.冠動脈病変の発生は当初病児の25〜30%であったが,大量ガンマグロブリン療法が導入されて5〜8%まで軽減した(500~800人/年).また死亡例は現在では0.04%以下に減少した.
原因・病因
 特定の感染因子は同定されていないが,疫学的に流行・波及のパターンから感染因子の関与が推察される.病態は免疫系の活性化と炎症性サイトカインの過剰産生,それに引き続く中膜の破壊,内皮細胞活性化と破綻,冠動脈障害に特徴づけられる.急性炎症性疾患であるが,冠動脈障害は中年以降の粥状硬化症に進展することが危惧されている.
臨床症状・経過・病理
 川崎病は突然の発熱で始まる急性炎症を病態とする症候群である.急性期の症状は時間経過に伴い重複かつ速やかに変化しつつ出没する.第3〜7病日までには特有の顔貌を呈しつつ頸部リンパ節腫脹,眼球結膜の充血(眼球結膜下血管の怒張),いちご舌,口唇の発赤・亀裂・出血などの粘膜症状,BCG接種痕の発赤と潰瘍化,手足の硬性浮腫や指趾先端の発赤などが揃い病像は完成する.そして冠動脈病変をきたす例では第7病日前後から心エコー検査にて冠動脈の輝度上昇が認められ,第10〜12病日に拡張〜瘤形成が検出される.組織学的には血管の中膜病変と内皮細胞破綻に始まり,内膜と外膜にも至り汎動脈炎となる.この病理学的変化は,第7〜10病日の血管壁浮腫と中膜平滑筋変性と第10〜14病日の中膜筋板の破壊による冠動脈拡張〜瘤形成に一致する.
病態・検査成績
 川崎病の病態は,①炎症性サイトカインの過剰な産生,②汎血管炎の2点に集約できる.血管炎の進展に伴い,中膜の破壊と内皮細胞周囲からの組織因子の放出・内膜コラーゲンの露出を起点とする凝固線溶系の活性化により,特にステロイドを使用した例では播種性血管内凝固症候群(DIC)へ進展することがある.検査値では白血球数(成熟好中球数)の著増,CRPなど炎症マーカーの高値,内皮細胞の破壊とともにFDP-E/D-ダイマーの高値ダイマー,アルブミン低下,ときに肝機能障害やビリルビンの高値を認める.
診断
 厚生労働省研究班の診断の手引き(2002年第5版)を表10-19-3に示す.鑑別診断の中で最も重要なものは結節性多発動脈炎である.川崎病の急性期には鑑別できないことが多い.
治療
 治療の原則は早期炎症抑制にあり,一般に第10病日以内に炎症の収束をはかることが肝要である.①大量ガンマグロブリン療法,②アスピリンによる抗血小板療法,③心血管系以外の合併症の対策(胆囊腫大,イレウス,DICなど),などを速やかに実施する.大量ガンマグロブリン療法にもかかわらず①解熱しない,②CRPが低下しない,③白血球数,特に好中球%が低下しない,④アルブミンが低下する(特に3 g/dL以下),⑤血小板数が減少する,⑥FDP-E/D-ダイマーの低下や尿中β2-ミクログロブリンの低下がみられない,⑦冠動脈輝度が上昇する,などの所見が重複して認められる例では,TNF阻害薬(インフリキシマブ)1回投与を行う.さらにTNF阻害薬不応例には血漿交換療法を実施する.なお,ステロイドは,メタ解析により冠動脈障害を減少させる効果はないことが明らかにされている.冠動脈変化をきたした例にはさらに動脈瘤形成に対する血栓溶解療法,心筋梗塞や末梢動脈障害の対策などを加え,長期経過観察に移行する.[横田俊平]
■文献
Kahn P: Juvenile idiopathic arthritis: an update on pharmacotherapy. Bull NYU Hosp Joint Dis, 69: 264-276, 2011.
Yokota S, Imagawa T, et al: Efficacy and safety of tocilizumab in patients with systemic-onset juvenile idiopathic arthritis: a randomized, double-blind, placebo-controlled, withdrawal phase III trial. Lancet, 371: 998-1006, 2008.
Engel ME, Stander R, et al: Genetic susceptibility to acute rheumatic fever: a systemic review and meta-analysis of twin studies. PLoS ONE, 6: 1-6, 2011.

川崎病(血管炎症候群)

(4)川崎病
【⇨10-19-3)】[尾崎承一]
■文献
Falk RJ, et al: Granulomatosis with polyangiitis (Wegener's): An alternative name for Wegener's granulomatosis. Ann Rheum Dis, 70: 704, 2011.
Jennette JC, Falk RJ, et al: 2012 revised international Chapel Hill consensus conference nomenclature of vasculitides. Arthritis Rheum, 65: 1-11, 2013.
Mukhtyar CL, et al: EULAR recommendations for the management of primary small and medium vessel vasculitis. Ann Rheum Dis, 68: 310-317, 2009.

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改訂新版 世界大百科事典 「川崎病」の意味・わかりやすい解説

川崎病 (かわさきびょう)
Kawasaki disease
Kawasaki syndrome

1967年川崎富作によってはじめて報告された,乳幼児に好発する急性熱性発疹性疾患。原因はいまだに不明である。罹患した小児の5~10%に冠状動脈瘤が後遺症として残り,その一部に血栓閉塞が起こって突然死したり,心筋梗塞(こうそく)発作を起こすことがあるので,小児科領域では重大な疾患の一つとなってきた。とくに日本では年々増加の傾向にある。厚生省の研究班が70年から行ってきた過去18回の全国実態調査の結果,2004年4月末までに総計20万を超える症例が報告されており,その原因解明は急務となっている。

川崎病の特徴的な症状として,次のようなものがある。(1)原因不明の5日以上つづく発熱。(2)四肢末端の変化 急性期には手足に硬性の浮腫がみられ,手のひらや足底ないしは指の先端に紅斑が出,回復期になると爪-皮膚移行部に膜様の落屑(らくせつ)がある。(3)水疱,痂皮を形成しない不定形発疹 体幹に多い。(4)両側の眼球結膜の充血 一過性のことがある。(5)口唇の紅潮,苺舌,口腔咽頭粘膜の瀰漫(びまん)性発赤。(6)急性期の非化膿性頸部リンパ節腫張 一過性のことがある。

 以上の六つの主要症状のうち,五つ以上の症状を伴うものを川崎病として取り扱うということが,厚生省研究班の作成による《診断の手びき(改訂3版)》に定められている。

厚生省研究班による疫学調査の結果,川崎病は全国に広く分布し,男女比は1.5:1で男に多く,年齢は1歳前後をピークに4歳以下が全体の約80%を占め,乳幼児に好発することが確認された。致命率ははじめ1~2%であったが,その後しだいに低下して,82年の第7回の全国調査では0.3%に減少している。全国的調査によれば,日本では1960年ころから発症がみられはじめ,70年ころ以後年々急速に増加傾向を示し,とくに79年と82年の前半には全国的に多発した。いままでの調査では,原因として,感染説と非感染説との両方が考えられてきたが,この2回の流行を契機に感染説が有力視されるようになっている。日本以外の国では,韓国が72年以降82年7月までに364例が,西ドイツでは78年より82年10月までに345例が,フランスでは82年10月までに100例以上が,ハワイでは小児病院で71年から82年8月までに233例が経験されている。アメリカ全体では76年から80年8月までにジョージア州アトランタにある疾病防疫センター(CDC)に全米から650例以上の症例が報告されている。そのほか,ヨーロッパ各地,中南米,アジア,オセアニア,アフリカからも報告があり,全世界に存在することが判明している。しかし,先進国に比較して発展途上国からの報告はきわめて少なく,とくに日本のように近代工業化が急速に進んだ国に激増しており,新しい文明病の一つかもしれないと考えられている。病理解剖学的特徴は従来欧米でまれに報告されてきたいわゆる乳児型結節性動脈周囲炎ときわめて類似しており,この両者は区別することができない。しかし,古典的な成人型の結節性動脈周囲炎とは,フィブリノイド壊死がないか,あってもわずかである点,より大きな筋層動脈をおかす傾向がある点,再燃像がみられない点など明らかに異なっているので,新しい小児の血管炎症候群の一つとして,第9回修正WHO国際疾病分類(446.1)に採用された。

急性期には抗炎症作用,抗凝固作用のある薬剤が有効で,アスピリン(商品名)が基本的に用いられている。しかし,一部には冠状動脈瘤が残るので,超音波断層心エコー図による長期管理が必要であり,冠状動脈閉塞例や高度の狭窄例ではバイパス手術が必要となることもある。病因に溶連菌説やダニ抗原説がクローズアップされているが,いずれも仮説の域を出ていない。
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家庭医学館 「川崎病」の解説

かわさきびょう【川崎病 Kawasaki Disease】

◎特徴的な6つの症状
[どんな病気か]
 4歳以下の乳幼児、とくに1歳ぐらいの赤ちゃんに多い病気で、1963年に、川崎富作(かわさきとみさく)博士によって発見されたことから、川崎病と呼ばれています。
 原因は不明ですが、全身の血管に炎症性の変化がみられるのが特徴です。
[症状]
 この病気には、つぎのような6つの特徴的な症状がみられます。
①39~40℃の高熱が、5日以上続く。
②熱が出て2~3日すると、からだに発疹(ほっしん)が出る。
③手足がしもやけのように赤くパンパンに腫(は)れ、10日ぐらいすると手足の指先から皮がむける。
④目が充血して赤い目になる。
⑤くちびるが腫れ、舌(した)はイチゴのように赤くぶつぶつになる。
⑥急性期にリンパ腺(せん)が腫れる。
 以上のほか、乳児ではBCGを接種したあとが赤くなったりします。
 発病して10日目あたりから、心臓の血管の一部にこぶのようなふくらみ(冠動脈瘤(かんどうみゃくりゅう))ができることがあります。そのために血管が細くなったり、心臓に血液が流れず、突然死(とつぜんし)することがあります。
[検査と診断]
 症状に特徴があるため、あまりむずかしい検査をしなくても診断がつきます。
 心臓の異常を発見するために、胸部X線検査、心電図、心超音波(心エコー)検査を行ないます。
 心超音波検査は、冠動脈瘤の大きさや病変の進行のようすを調べるために絶対に必要な検査です。
 診断は、先に述べた6つの症状のうち5つ以上の症状があれば、川崎病と確定されます。ただし、4つの症状しかみられなくても、心超音波検査で冠動脈瘤が確認されれば、川崎病と診断されます。
◎合併症の予防が重要
[治療]
 川崎病と診断されると、入院を勧められます。また、川崎病の可能性が大きいときも、入院を勧められることがあります。それは、この病気が、心臓に合併症をひきおこす危険があるからです。
 現在、川崎病の特効薬はありませんが、心臓の合併症を予防するために、入院するとすぐに、アスピリンの内服、大量のガンマグロブリン製剤の静脈注射が行なわれます。
 発病初期に、心筋(しんきん)に炎症がおこり、機能が低下することがありますが、安静を保つことや強心薬の服用でよくなるので、あまり心配はいりません。
 心臓の冠動脈に動脈瘤ができると、血栓(けっせん)ができて突然死することがあるので、これを予防するために、血液が固まるのを抑えるような薬が、症状に応じて使用されます。
 川崎病によって突然死が生じる割合は、以前は、この病気の子どもの2%ぐらいでした。現在では、超音波検査によって早くから冠動脈瘤を発見し、予防できるようになったため、突然死の割合は、0.7%に減っています。
 不幸にして冠動脈瘤ができても、大半の子どもでは、2年以内に冠動脈瘤が消えます。病変が残ってしまうのは、この病気の子ども全体の3%以下です。
 心臓に合併症が生じた場合は、心臓の専門医による定期的な精密検査が必要になります。
 予防接種については、ほかの子どもと区別する必要はありません。保育園などの集団生活や運動については、ほかの子どもと同じにしてよいかどうかは、病気の程度によってちがってきますので、専門医に相談してください。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「川崎病」の意味・わかりやすい解説

川崎病
かわさきびょう
Kawasaki disease

おもに4歳以下の乳幼児に好発する急性熱性発疹(はっしん)性疾患。1961年(昭和36)に小児科医の川崎富作(とみさく)(1925―2020)が患者の第一号を発見、1967年に50例をまとめて臨床報告し、小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群muco-cutaneous lymphnode syndromeと命名、MCLSと略称されたが、一般には発見者の名をとって川崎病とよんでいる。

 原因不明で、特定の治療法もまだない。特異的症状がなく、主症状を解析して診断される。すなわち、5日間以上も抗生物質の効かない発熱が続き、四肢の末端に急性期では硬性の浮腫(ふしゅ)が、また回復期には膜様の落屑(らくせつ)がみられる。主として体幹に不定形の発疹ができるが、これは水疱(すいほう)や痂皮(かひ)(かさぶた)を形成しない。また、眼球結膜の充血、口唇の発赤、いちご舌、非化膿(かのう)性の頸部(けいぶ)リンパ節腫脹(しゅちょう)がみられる。そのほか一般的な症状として、心電図の異常など心血管系の変化、下痢や嘔吐(おうと)などの消化器症状、咳(せき)や鼻汁などの呼吸器症状、関節の腫脹や疼痛(とうつう)などを認める。治療には、アスピリンの使用、免疫グロブリンの投与などがある。当初用いられた副腎(ふくじん)ステロイド剤には反対の意見が強い。合併症として心臓障害、とくに心臓そのものへ血液を供給している冠動脈の狭小、拡張、動脈瘤(りゅう)などがあり、その破裂あるいは心筋梗塞(こうそく)が突然死の原因となることがある。

[坂上正道]

『川崎富作著『川崎病』(1983・金原出版)』『細川静雄・原信田実著『川崎病は、いま――聞き書き川崎富作』(2006・木魂社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「川崎病」の意味・わかりやすい解説

川崎病
かわさきびょう
Kawasaki disease

小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群 ​Mucocutaneous Lymph Node Syndrome; MCLS。1967年に小児科医川崎富作により報告された乳幼児の疾患で,1979年に『ネルソン小児科学』に独立した疾患として記載されて以降,報告者の名をとって川崎病と呼ばれるようになった。世界で症例が報告され,日本では年間 1万人以上が発症するなど,アジア系に多い疾患といわれる。全身の血管に炎症が起こり,5日以上続く発熱,両側眼球結膜の充血や口唇口腔咽頭粘膜のびまん性発赤,いちご舌,手足の硬性浮腫・膜様落屑,頸部リンパ節腫脹などがおもな症状である。原因はいまなお特定されていない。なんらかの病原体や腸内細菌との関連,遺伝的素因なども指摘され,体内に侵入してきた外敵を排除するはずの免疫機能が逆に自身を攻撃することによって起こるとの説もある。おもな治療法としては,免疫グロブリン製剤を大量投与して炎症を抑え,アスピリンの処方により血栓を予防することがあげられる。症例の 20~30%に冠動脈拡張・瘤形成などの心臓血管系の合併症が生じるといわれ,血栓や冠状動脈瘤の破裂により心筋梗塞を起こす可能性もある。

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百科事典マイペディア 「川崎病」の意味・わかりやすい解説

川崎病【かわさきびょう】

1960年代に川崎富作らが明らかにした乳幼児の原因不明の病気。首のリンパ節がはれ,高熱が続き,結膜や口内粘膜,くちびるに強い炎症がおこり,全身に赤い発疹が出る,解熱後に爪と皮膚がはがれるの六つの症状のうち,五つ以上の症状があれば川崎病と診断される。また,発症したうちの5〜10%に冠状動脈瘤(りゅう)の後遺症が起こるため,その予防及び検査が重要。生後2ヵ月〜10歳に発生。とくに乳児の死亡が多発。
→関連項目A-Cバイパス術血液製剤スーパー抗原

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栄養・生化学辞典 「川崎病」の解説

川崎病

 乳幼児にみられる発熱をともない,皮膚や粘膜リンパ節に症状がみられる疾患.発見者の名前にちなんで名付けられている.

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