手掌(手のひら)にみられる皮膚隆線のつくる紋理(紋様)またはこの紋理を捺印した像をいう。掌紋は,細身の瓶などに巻き付けた上質紙の上から,指紋用インキをつけた手掌で軽く圧迫しながら手前に十分回転させると採れる。
分類にはカミンズHarold Cumminsらの方法(1929)が主として用いられており,次の5項目について調べる。(1)主線 示,中,薬,小指の基部には通常1個ずつ三叉(さんさ)線があり,近位側に向かうものを主線といい,示指側から順にA線,B線,C線,D線と呼ぶ。手掌の辺縁を13の区域に分け,各主線を追跡し,これらの出口を辺縁の区域を示す数字でD,C,B,A線の順に記録する。三叉線がないときはO,主線の発育不十分のときはXで表す。(2)腕三叉線 手根関節に近く通常1個の三叉線があり,tで表す。手掌の中央に近くあるものをt″とし,両者の中間に位置するものをt′とする。(3)小指球紋 渦状紋(W),蹄状紋(L),突起弓状紋(T),弓状紋(A)に分類できるが,L,T,Aはその方向が撓(とう)側,尺側,近位側に向かうことによって,それぞれr,u,cの記号を右肩につける。二つの紋理があるときは遠位側の紋理を先にし,斜線で区別する。(4)母指球および第Ⅰ指間紋 W,L,痕跡紋(V),紋理のないもの(O)に分類され,母指球紋,第Ⅰ指間紋の順に記載し,斜線で分ける。(5)第Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ指間紋 W,L,V,Oに分類され,Lが副三叉線を伴っているときにはDとする。第Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ指間紋の順に記載する。以上の検査の結果を順に記号で表したものを手式という。
掌紋は指紋と同様に万人不同,終生不変であるから個人識別に利用されてはいるが,指紋ほど実用化されてはいない。また,親子鑑定に利用されてはいるが,遺伝形式についてはまだ不明の点が多く,類似度を比較し,当事者間の親子関係を推測するにとどまる。人種判別にも利用されており,先天性異常の補助診断にも使われている。なお,サルなど哺乳類にも掌紋がみられる。手相もこの掌紋などを利用して行われている。
執筆者:古屋 義人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
手のひら(手掌)にみられる皮膚の隆線(皮膚小稜(しょうりょう))によって形成される紋理をいい、手掌紋ともよばれる。まれに手掌の全体としての印象(手型)を意味することもある。掌紋は指紋と同じく万人不同、終生不変であるため、個人識別が可能であり、とくに犯罪捜査分野で実用化されている。掌紋などの皮膚紋理は遺伝形質であるが、その遺伝形式はまだ確立されていないため、親子鑑定に利用されることもあるが実用性には乏しい。紋理の出現性などには民族差があり、人類学、人類遺伝学の分野で応用されている。また近年、各種先天性異常と紋理異常所見との関連性が判明し、臨床医学でも皮膚紋理による診断が試みられており、皮膚紋理による判別でダウン症候群の97%が診断できるともいわれる。
掌紋は蹄(てい)状(L)、渦状(W)、弓状(A)、痕跡(こんせき)(V)などの紋様と、三叉(さんさ)(Y状隆線)を指標に、(1)主線の走向、(2)腕(軸)三叉の位置、(3)小指球部、母指球部と第Ⅰ指間部、第Ⅱ指間部、第Ⅲ指間部および第Ⅳ指間部の紋様の有無・形態、を検査し、分類記号化する。それを(1)~(3)の順に列記したものを手式という。
[小谷淳一]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…指や手のひら,足底の皮膚に浮きでるように走るたくさんの線状の隆起を皮膚隆線または単に隆線といい,隆線上には汗腺が並んで開口している。この隆線が指頭でつくる紋理(紋様)またはこの紋理を捺印した像を指紋という(ちなみに手のひらや足底にみられる紋理はそれぞれ掌紋,足紋といわれる)。指紋は万指不同,終生不変であるので,身元不明者の身元確認,犯罪者の異同(個人)識別などに応用されている。…
…これを皮膚紋様,皮膚理紋,あるいは皮膚隆線系と呼ぶ。皮膚紋様は,指先(指頭)にある指紋,手のひらにある掌紋(手掌紋),足の裏にある足底紋というように,部分的に分けて観察される。クモザルなどのサルの尾にある皮膚紋様は尾紋と呼ぶことができる。…
※「掌紋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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