改訂新版 世界大百科事典 「中堅企業」の意味・わかりやすい解説
中堅企業 (ちゅうけんきぎょう)
中小企業から成長し,まだ大企業にはなっていない独立企業。日本では1960年代の初めころから中堅企業という用語が使われだし,中村秀一郎がその国民経済的意義を明らかにして独自の概念構成を行った。すなわち,革新的な企業家活動によって中小企業から成長し,株式を公開して社会的な性格を強めながらも,依然として個性的な企業家によってリードされ,大企業のようにもっぱら組織によって運営されてはいない企業をいう。このように,中堅企業は必ずしも規模のみにかかわる概念ではなく,一定の特徴をもった企業の類型である。一般に重化学工業化が進展する過程で中堅企業は多様に登場する。したがって中堅企業の存在は特殊日本的な現象ではなく,アメリカやドイツでも中堅企業は一つの層を形成している。ただ日本においては,1960年代前半期の経済の高度成長期に数多く登場し,短期間のうちに一つの階層を形成したため注目を集めた。中堅企業の形成には,(1)中堅企業が存立しうる市場が客観的に存在すること,(2)独自なやり方で企業成長を可能にする主体的な条件のあること,が必要である。重化学工業化が進展する過程で,新しい産業分野がつぎつぎに登場するとともに,これまで中小規模であった市場が拡大するようになる。そのような分野において,一定規模の財を革新的なやり方によって供給した中小企業が中堅企業にまで成長する。中堅企業の多くは,専門企業として当該分野においては大企業に勝る専門能力を有している。そして中堅企業は,まず製造業や建設業において登場し,ついで流通業やサービス業にも登場するようになる。
このようにみてくると,中堅企業には,大企業への発展途上にあるものと,中堅規模にとどまり大企業化しないものがあることが明らかであろう。前者は,かつてのソニー,本田技研工業,京セラ,ダイエーなどである。これに対して後者は,市場が細分化されている機械工業やファッション産業などに多い。ところで,既存の重化学工業が成熟段階に達し,先端技術産業など研究開発集約型産業が比較優位産業になると,ソフト先行型の新しい中堅企業が多様に登場するようになる。他方,既存の中堅企業のなかには,技術が陳腐化し,しかも技術進歩に適応できず没落するものも出てくる。中堅企業層においても,企業間格差が拡大しているのである。
執筆者:清成 忠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報