携帯電話を中心とする通信事業と豊富なメディア・娯楽事業を展開する米巨大企業。2015年に衛星放送大手ディレクTVを買収。18年にはCNNテレビや有料テレビのHBO、映画のワーナー・ブラザースを手掛けるタイム・ワーナー(現ワーナーメディア)を傘下に収めた。20年12月期の売上高は1718億ドル(約18兆7500億円)。(ニューヨーク共同)
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アメリカ最大の電話電信会社。AT&Tは旧社名アメリカン・テレフォン・アンド・テレグラフ(アメリカ電話電信会社)The American Telephone & Telegraph Companyの略称。愛称はマーベルMa Bell。電話電信事業が民有民営にゆだねられているアメリカでは、純粋に民間企業のAT&Tがその事業を行っている。資産の点でAT&Tは1984年の分割以前はエクソンやGM(ゼネラル・モーターズ)を上回る同国第一の、すなわち世界第一の巨大企業であった。1876年グラハム・ベルが電話を発明したあと、ベルの義父ハッバードが同特許に基づいて各地にベル電話会社(総称してベル・システムとよぶ)を設立し、1878年セオドア・ベイルが同社総支配人になったあと急成長を遂げた。1880年ベル・システムの親会社アメリカン・ベル・テレフォンが設立され、1882年、電話機をはじめとする通信機器の供給を確保するため、それらの製造を行っていたウェスタン・エレクトリックを100%の子会社とした。1885年ニューヨークで設立されたAT&Tが、1900年にアメリカン・ベル・テレフォンの資産と事業を吸収し、ベル・システムの親会社となった。
[佐藤定幸・萩原伸次郎]
1956年以来何回となく独占禁止法違反訴訟の対象となったが、1974年から7年越しの訴訟において1982年1月、AT&Tにとって比較的有利な和解が成立した。すなわち、同社資産の3分の2を占める地方子会社22社を同社から分離するが、AT&Tは全国長距離電話網と地方子会社の都市間電話網を引き継ぎ、研究開発部門のベル・ラボラトリーズ(ベル研究所)と製造部門のウェスタン・エレクトリックを依然としてその支配下にとどめることで、法務省との間に最終的な合意をみた。こうして、1984年1月以降、AT&Tは規制分野の市外・国際通信サービスを行うAT&Tコミュニケーションズと、非規制分野の通信・情報機器の開発、製造、販売にあたるAT&Tテクノロジーズの二大部門に組織替えされた。ベル・ラボラトリーズとウェスタン・エレクトリックは後者に組み入れられた。
[佐藤定幸・萩原伸次郎]
1990年代には、AT&Tは音声・データ通信の分野で世界的にも最大規模の会社となり、インターネットの普及に伴い接続サービスのAT&TワールドネットAT&T WorldNET Servicesの提供も行っている。1995年に規制緩和の影響による競争激化と産業の発展・変化に機敏に対応するため、AT&Tは非中核事業を分離したうえ、三つの上場企業に分割することを発表した。そのうち最大の中核事業であるAT&Tコミュニケーションズ部門は、1996年9月にAT&Tの名称を継ぐAT&T Corp.として独立し、長距離通信と携帯電話事業を柱としてベル・ラボラトリーズの25%の事業を引き継いだ。同社は、世界最大の長距離ネットワークとデジタル式ワイヤレス・ネットワークをもつ。二つめのAT&Tテクノロジーズ部門はルーセント・テクノロジーズLucent Technologies Inc.として1996年に独立し、ベル・ラボラトリーズの事業の75%を引き継いだ。コンピュータ事業部門のNCR(1991年合併)も、1997年1月に分離独立した。
1997年、長距離通信の新興勢力ワールドコムWorldCom Inc.が、AT&Tに次ぐ全米第2位の長距離電話・データ通信会社のMCIコミュニケーションズMCI Communications Corp.を買収したことを受けて、AT&Tは翌1998年にIBMのデータ通信部門を買収した(ワールドコムは巨額の粉飾決算を引き金に2002年7月倒産)。1998年、CATV(ケーブルテレビ)の当時全米第2位のテレ・コミュニケーションズTele-Communications, Inc.(TCI)を、1999年に大手CATVのメディアワンMediaOne Group Inc. を相次いで買収し、地域網を利用したインターネット接続サービスなどの展開を始めた。
一方、国際通信部門では1998年7月にイギリスの電気通信事業会社ブリティッシュ・テレコム(BT)と、両社の国際通信事業を統合した合弁会社コンサートConcert Communications Co.の設立に合意。2000年に正式発足したコンサートは、英米巨大通信企業の事実上の国際部門統合であり、当初年間100億ドルの売上げが期待されたが、回線容量の供給過剰、新興企業との価格競争などにより業績が悪化、2002年4月に合弁が解消された。また、買収したCATVは、回線の老朽化が進んでいたため、大幅な追加投資を迫られ、AT&Tは過剰負債と株価低迷に陥り、2000年にはCATV、法人向け長距離通信、個人向け長距離通信、携帯電話の4事業を切り離す新しい会社分割案を発表。本体である法人向け長距離通信を中核に、各事業を実質的な別会社にすることで、事業再編を図った。
[佐藤定幸・萩原伸次郎]
2005年にアメリカ通信大手SBCコミュニケーションズ(SBC Communications Inc.)がAT&Tを買収した。この合併は2006年に司法省ならびに連邦通信委員会(Federal Communications Commission:FCC)の承認を受けた。なお新会社は社名をAT&Tとし、本社を当初SBCコミュニケーションズの本拠地であるテキサス州サン・アントニオに置いたが、2008年に同州ダラスへ移した。2016年、AT&Tはメディア・娯楽大手のタイム・ワーナー(Time Warner Inc.)を買収すると発表。司法省は反対したが、アメリカ連邦地方裁判所が同省の訴えを退け、2018年に買収が完了した。これによりAT&Tはタイム・ワーナー(現、ワーナーメディア、Waner Media)傘下のCNN(Cable News Network)、有料CATV局のHBO(Home Box Office)、映画会社ワーナー・ブラザース(Warner Bros.Pictures)などを傘下に収めた。2017年の売上高は約1605億ドル、純利益は約298億ドル。
[矢野 武 2018年12月13日]
『ソニー・クレインフィールド著、喜多迅鷹・喜多元子訳『地球最大の企業AT&T』(1982・CBSソニー出版)』▽『関秀夫著『巨人AT&Tの全貌と戦略――世界一の電話会社、情報産業へ』(1983・官業労働研究所)』▽『福間宰著『もう一つの情報巨人AT&T』(1985・東洋経済新報社)』▽『P・テミン著、高橋洋文・山口一臣監訳『ベル・システムの崩壊――20世紀最大の企業分割』(1989・文真堂)』▽『バリー・G・コール編著、情報通信総合研究所訳『AT&T分割後――米国テレコム社会の新時代を評価する』(1992・情報通信総合研究所)』▽『小松崎清介著『ヴェイル――AT&T社長の椅子に2度座った男。』(1993・NECクリエイティブ)』▽『山口一臣著『アメリカ電気通信産業発展史――ベル・システムの形成と解体過程』(1994・同文館出版)』▽『松田裕之著『AT&T(アメリカ電話電信会社)を創った人びと――企業労務のイノベーション』(1996・日本経済評論社)』
アメリカ最大の電気通信企業体で,長距離回線事業を中核にして,携帯電話事業(AT&T Wireless Service),インターネット事業(AT&T World Net)を展開するほか海外事業にも力を入れ,世界の大手電気通信事業体との間で〈ワールド・パートナーズ〉という提携関係を拡大しつつある。同社は,1885年,アレキサンダー・グラハム・ベルが設立したアメリカ・ベル電話会社の100パーセント子会社として,長距離回線サービス提供を目的にして設立された(その時の名称がAT&T=American Telephone and Telegraph Company,なお現在のAT&Tに対応するフルネームはない)。その後1899年,ベル電話会社と株式交換によりAT&T自身が持株会社となり,製造部門であるウェスタン・エレクトリック,研究開発部門であるベル電話研究所,市内電話運用会社,市外電話業務を傘下におさめるアメリカの独占的電気通信企業体となった。このようなAT&Tの独占的垂直統合化に対し,1900年代当初より反トラスト法による制約がくりかえし加えられてきたが,ついに1982年1月,同社は司法省と同意し,22の市内電話運用会社および製造部門を分離し,前者を七つの持株会社(地域ベル運用会社)の管理下におくこととなり,84年1月から実施された。いわゆる〈AT&Tの分割〉と呼ばれるこの出来事は,電気通信事業領域における規制緩和政策の強化と相まってアメリカの電気通信事業構造を大きく変えることになった。その後,市内部門を切り放したAT&Tは,それまで許されていなかった情報処理分野への進出を図るなど新規事業の拡張にも努めてきたが,1997年,自らの判断で,電気通信事業部門(AT&T),システム/技術サービス部門(Lucent Technologies),コンピューター部門(NCR Corp.)の3社に分割され,これに伴ってベル研究所もBell LabsとAT&T Labsの2グループに分割された。売上高305億ドル(2004年12月期)。
執筆者:小松崎 清介
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…【青木 良三】。。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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