都市の特定地区に多数の商店が集中している街区を指し,一般に最寄品や買回り品(〈商品〉の項を参照)を取り扱う独立の中小小売業者から構成されている。商店街は消費者と近接して食料品,衣料品,雑貨など日常生活に必要な物資を中心として提供しているが,大型店の進出や交通機関の発達によって構造的な変化を迫られている。商店街の近代化には,1962年に商店街振興組合法,73年に中小小売商業振興法が制定され,その活性化がすすめられている。中小小売商業振興法は,商店街近代化を目的として店舗の共同化,アーケードの設置,舗道や駐車場など関連施設の整備を促進し,そのために中小企業振興事業団による高度化資金など有利な資金の利用を可能にしている。商店街の近代化には各種施設の充実ばかりでなく,共同広告,共同仕入れ,特売日の設定,祭や催事への積極的参加など消費者や地域住民へのサービスも必要である。商店街は商業集積の一つの形態として都市の機能と深くかかわっており,都市計画の一環として再開発を行うことができる。消費者にとって魅力のある商店街とは,立地,規模,雰囲気に優れていることが必要であるが,商業集積間の競争が激化し,消費者のニーズやライフスタイルが多様化するにしたがって,それぞれの商店街独自の特徴が求められ,それぞれの都市や街で固有の政策が図られている。たとえば駅前やターミナルでは核店舗の誘致,特定業種への特化と専門店街化,歴史的町並みの復活,地域住民との共同作業によるコミュニティづくりなどがある。
執筆者:川嶋 行彦
現代の商店街は,その発生の歴史から三つに分けられる。(1)歴史的な商店街 日本では,平安京の町割に由来するといわれる錦小路(京都)や,城下町の市を起源とする事例,また琴平(香川県)や浅草寺仲見世(東京)のような社寺の門前町がある。海外では,モロッコのマラケシュのジェマ・エル・フナ広場などに代表される中近東のスークあるいはバーザール(市)から始まり,中世のローマの花の広場やシエナのカンポ広場などイタリア都市における広場周りの商店街がある。また,ロンドンのリージェント・ストリートやミラノのガレリアなどは1800年代に建設されている。アメリカやカナダでは,ボストンやモントリオールに港町時代の商店街が残存している。(2)計画開発による商店街 イギリスのウェルウィン,ハーローやスウェーデンのベリングビューの新都市(ニュータウン)のタウン・センターのなかに建設され,アメリカでは郊外市街地の進展にともなって大駐車場をもつショッピング・センターとして出現した。日本では千里ニュータウンの中央地区センターや,ららぽーと船橋ショッピングセンターがある。この郊外化に対抗して都心の再開発が多くの都市で計画され,商店街もその主要な要素を担い,ストックホルムのヘートルイエット地区やトロントのイートン・センターなどが成功例となった。戦災による復興事例としては,ロッテルダムのリンバーン地区が有名である。(3)日常性・利便性にもとづいて自然発生的に成立・形成された商店街 この事例は非常に多い。生鮮食品から日常の生活物資を扱う最寄品店,衣服や生活備品の買回り品店,書籍・文具から装飾品にいたる文化品店などの組合せによって機能特性を発揮する商店街が,鉄道駅や幹線道路の交通条件と後背市街地の結びつきにしたがって,対近隣,対地域,対広域といった作用特性を展開している。飲食店街などもこの系類が多く,ビルの地下街も個別的自然発生例である。
商店街の動きは三つの側面からとらえることができる。(1)形態や空間構成は,道路に沿って個別商店が線状に並ぶ商店街に加えて,広いオープンフロアに面状に店舗を配列する方式やショッピング・ビルとして立体化させ点状の拠点を導入するなど,多様な組合せで推移している。線状商店街の場合は,道路の舗装や街路灯やアーケードが商店街をひきたてる装置であったが,散策を楽しめる買物道路にベンチや広告塔や街路樹を設置したモール,広い買物フロアの一部に買物情報や憩いを提供しようとする噴水などのある広場,ショッピング・ビルのなかで立体的表現を強調する吹抜け屋根のガレリアなど各種の演出の活用が試みられている。(2)機能や構造の変化・変質は,交通条件や市街地の動向と対応しつつ,流動している。買物需要や商店街相互の競合動向にも左右される。停滞したり衰退していく商店街の再生・強化のために商店街再開発が計画されるわけだが,この事業化が日本における都市再開発の主流を占めてきた。再開発事業の結果,小売市場+商店街だった一般的な駅前商店街が,駅前広場とバス・ターミナルを囲んで百貨店+スーパー・マーケット+専門店街+飲食店街といった姿に変化・変質した事例が各地にみられる。(3)経営主体や運営体制の面では,日本の場合,任意団体であった商店街組合が法律にもとづいた商店街振興組合を設立して商店街の環境整備や,売出しや催し,駐車場,人材教育,金融・融資などの共同事業にとりくんだり,再開発事業のために市街地再開発組合によって対処したりなどの組織化の動きがでている。
商店街としてのあるべき方向は,市民にとってもまたよそから訪れる人々にとっても,その都市の生活文化の舞台として意識されかつ評価される都市のセンターでなければならないことである。そのためには,商店街が単なる商業集団として存在するのではなく,各種の文化施設や公共施設や広場・公園と共存・共生した環境としてくみたてられる必要がある。また,その個性的な気風や雰囲気を育てていくためには,新しい要素を導入していくだけではなくて,伝統的な商業活動の蓄積や歴史的な町並みをたいせつにした町づくりが重要である。歴史的都心全体を歴史的町並みと歩行者・商店街として再生したミュンヘンやウィーンが好例である。日本では,倉敷や川越がある程度同じような歩みをはじめた。大都市圏では,交通至便の条件を極大化した商業集団の巨大化やターミナル集中が,また地方都市では市役所など公共施設の郊外移動が,歴史をもつ町なかの商店街の停滞や衰退を速めている傾向がつよいが,そのような方向は都市構造全体のあり方からいって適切ではない。すでに,高密度空間自体のゆとりのなさや週休2日制による消費者行動が巨大・集中型のターミナル・ショッピング・センターの経営に限界をもたらしだしたことからみても,都市と商店街の結びつきに対する時間をこえた洞察が求められている。
執筆者:水谷 頴介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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