多孔性の膜や層のろ材を通して,気体あるいは液体の流動相のみを通過させ,混在する固体粒子を分離する操作。普通はろ紙を用い,これを適当な漏斗にはめ込み,この上に液を注いでろ過する。分離できる粒子の大きさはろ過層の穴の大きさに支配されるので,コロイド粒子など数μm程度以下の微粒子を分離するのには限外ろ過をしたり,遠心分離してからろ過を行うなどする。通常のろ過でも,目の細かいろ紙を用いるとろ過速度が著しく遅くなるため,吸引ろ過あるいは加圧ろ過などが行われる。また温度が下がると沈殿を生じたり,あるいは粘度が高くなってろ過しにくくなる場合など,高温のままろ過を行うため保温漏斗を用いたりする。ろ過層にはろ紙のほか,布,脱脂綿,アスベスト,素焼板,砂,半融ガラス板などが用いられる。次に工業的なろ過操作とそれに使用されるろ過機について述べる。
流体中に懸濁ないし分散している固体微粒子を,流体のみを通過させるろ材に通すことによって分離・捕集する単位操作。この場合,流体(液の場合は清澄液)を目的物とする場合も,固体(ろ滓)を目的物とする場合もある。流体が気体の場合はろ過集塵(しゆうじん)といって,ろ過に含めないのが一般である。したがってろ過はほとんどの場合,液体ろ過と考えてよいが,この場合は数μmからサブミクロン域にかける辺りまでの粒子を対象としているが,それより微細な粒子,あるいは大きい分子までを分離する限外ろ過も広義のろ過に含めることもある。ろ過機に供給されるスラリー原液の固体濃度は数ppmから数十%(容積基準)と幅広いが,濃度が高い場合はケーキろ過といい,ろ材表面に堆積したろ滓によってさらにろ過を進めることが多く,濃度が低いときにはろ材内でのろ過を含む清澄ろ過という。前者はおもにろ材またはケーキ表面で粒子が孔をふさぐような架橋現象を起こし,そこに粒子が捕集される表面ろ過であり,後者はろ材層内部で粒子を捕集する内部ろ過または閉塞(へいそく)ろ過である。
ろ材としては粒子充てん(塡)層,金網(とくに畳折り網),織布,ろ紙,多孔板(ミクロポアーを含む)など種々のものが用いられる。このようなろ材中を流体を通過させる推進力としては,重力,遠心力,圧力(スラリーに対する加圧または減圧,ケーキ層への直接的な機械的圧力)が用いられるが,それに応じて重力ろ過,遠心ろ過,加圧ろ過,真空ろ過,圧搾ろ過などに分類されている。なおろ過操作は必ずその後に捕集ろ滓の分離・回収というプロセスが必要であり,またろ滓を製品とする場合やろ液の収率を上げるためにはろ過ケーキの洗浄が必要である。またコロイド状物質を含むような難ろ過性物質に対しては,ケイ藻土,セルロース,酸性白土などのいわゆるろ過助剤が用いられている。
フィルターfilterともいう。ろ過操作を行うろ過機は大きく分けてケーキろ過機,清澄ろ過機,スラリー濃縮用ろ過機に分類されるが,それぞれの機種は次のとおりである。
(1)ケーキろ過機cake filter (a)重力ろ過機gravity filter 重力の作用で液体を流出させる形式。砂層ろ過機,袋ろ過機(バッグフィルター),タンクフィルター,ヌッチェなど。(b)加圧ろ過機pressure filter 一般に回分に用い,スラリーに直接圧力を加えるため高い圧力で操作できる。連続式もあるが,最近は回分操作を自動化して準連続操作とする方法が進んでいる。加圧ろ過機にはつぎの二つがある。一つは圧ろ機で,フィルタープレスともいわれる。水平軸にスラリー供給側と清澄液排出側の2種のろ板を一つおきに並べ,その間にろ布をはってその上にケーキを形成させる。この多種のろ板をプレス状に圧密させ,ろ布を取り出すときはこれを外すところに構造上の特徴がある(図1)。もう一つは加圧葉状ろ過機で,両面にろ布をはったろ葉を圧力容器中のスラリーに浸漬させ,加圧によってこのろ葉を通じて清澄液を排出し,ろ葉上に堆積したケーキはろ葉を引き上げて取り出す。ろ葉の形を円筒形など種々のものにし,またそれを回転させる構造のものもある。(c)真空ろ過機vacuum filter ろ材の排出側を減圧して上流側からの大気圧で加圧ろ過を行う方法で,当然加圧力は1気圧を超えることはないが,連続操作を行いやすいので,おもに連続ろ過機として広く用いられている。ただし回分式もあって,とくにろ過試験を行うヌッチェのように,構造が簡単になる点を利用したものもある。また葉状ろ過機は当然,回分真空ろ過機としても用いられている。最も典型的な真空ろ過機はオリバーフィルターと通称される連続回転円筒型真空ろ過機で,スラリー中に円筒ろ過機の下部を浸漬させ,内側を負圧にしてろ過を行い,円筒状ろ布上のケーキは機械的かき取り,あるいは加圧によって回収する(図2)。この円筒ろ過機の代りに串ざし状にディスク状のろ葉を並べ,その下部をスラリーに浸すアメリカンフィルター,このディスクを水平にしてスラリーに浸すオリバーフィルターなど,さまざまの形式のものが開発されている。(d)遠心ろ過機centrifugal filter 遠心機の円筒壁にろ材を張り,遠心分離と同時にろ過を行う機種。
(2)清澄ろ過機clarifying filter (a)ろ材ろ過機 飲料水や工業用廃液のろ過,あるいは潤滑油の回収などきわめて固体濃度の薄い液体を対象とするので,圧力も低い場合が多く,ろ材も砂層,繊維充てん層から多孔質の磁器や金属焼結体を用い,ケーキを形成せずろ材内で粒子を捕集する。(b)助剤層ろ過機 同じ清澄ろ過であるが,助剤でプレコートした層でろ過を行うもので,ウルトラフィルターなどがある。
(3)スラリー濃縮用ろ過機 希薄なスラリーを2倍から5倍程度に濃縮するもので,加圧スラリーを流しながらその側面でろ過を行い一部の水分をぬき取ることによって濃縮を行う。
→濾材 →濾紙
執筆者:中原 勝儼+神保 元二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
多孔質の層や膜を用いて、固体と液体の混合系から液体だけを取り出して固体を残す操作をいう。「沪過」とも書く。もっとも最近は濾過材が進歩して、液体の混合物(乳濁液)を濾過により二つに分けることも可能となった。用いられる多孔質層は濾過材、または単に濾材という。いろいろなものが用いられるが、化学の実験室でもっとも普通に用いられるものは濾紙である。多孔質のガラス板(グラスフィルター)、アスベストや白金海綿などを用いることがある。濾過速度をあげるために減圧濾過が行われることが多い。
実験室以外での濾過の例も事欠かない。台所などでは、目ざるや網しゃくし、ふるいなどで固体と液体を分けている(湯豆腐用の孔(あな)のあいたちりれんげも濾過器である)。エアフィルターなどは、空気中の粉塵(ふんじん)などをナイロン繊維などの網で除いたりしているが、これも濾過である。工業的には布が用いられることが多いが、この布は濾布という。清酒と酒粕(さけかす)の分離などは濾布によるものである。実験室での減圧濾過と違って、工場では加圧濾過のほうが普通である。
コロジオンやセロファン膜を用いて微細なコロイド粒子を集めることも行われるが、この場合は限外濾過という。最近頻用されるメンブランフィルター、あるいはゲル濾過などのように、分子スケールの大きさによるふるい分け、濾過も行われるようになった。
[山崎 昶]
浮遊した固体(粒子)と流体との混合物を,濾材と称する隔壁を通すことによって大部分の流体を通過させ(濾液),固体を濾滓(ろさい)として濾材上に分離する操作.濾滓および濾布を通して流体を通過させるための推進力としては,重力,加圧が用いられる.濾過装置としては,回分式の砂層濾過器,圧濾器などと,連続式の単室および多室円筒型真空型,円板型真空型,水平型真空濾過器などがある.濾過速度を大きくにするため,凝集剤,濾過助剤などを添加することもある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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