practical salinity unitの略で、実用塩分単位である。海水の塩分は、海水に溶けている物質の質量と海水の質量の比として定義され、千分比‰(パーミル)で表されていた。日常用語の塩分は塩気であり、塩(しお)の量であるが、ここでいう塩分は化学用語の塩(えん)あるいは塩類の濃度なので、塩分が高い、低い、という言い方をする。塩分が濃い、とか塩分濃度が高いとはいわない。海水は塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムなどさまざまな塩(えん)を含む。
塩の量を直接測ることはほぼ不可能なので、かわりに塩素濃度を測っていた。海水中に溶けているいろいろな元素量と塩素量の比は、どの海水であってもほぼ一定であると考えられていたから、塩素濃度を試薬を使って滴定し、国際的に定められた式に従って塩分を計算していた。この方法は時間がかかるうえに、精度にも個人差があり、1960年代になって海水の電気伝導度を実験室の塩分計で測り、塩分を求める方法が使われ始めた。1965年にユネスコ(国連教育科学文化機関)は、電気伝導度から塩分を計算する式を定め、塩分はこの式を使って計算されてきた。しかし、その後、海水を採取せず、海中で直接塩分を測ることができる測器(STDやCTD)が使われるようになった。実験室では圧力(気圧)も室温も狭い範囲でしか変わらないが、海中では水圧も水温も広い範囲で変わるので、1965年のユネスコの式は使えなくなった。また、近年の精度の高い測定によって、海水中の各種元素量の比は一定であるという仮定にも疑問が生じてきて、電気伝導度を従来の定義による塩分(物質の質量比)と結び付けることに矛盾が生じた。そこで、ユネスコは、質量比という考え方を捨て、新しい塩分として伝導度だけで定義される「実用塩分」を定めた。伝導度と塩素濃度を関連づける式はもはや存在しない。従来の塩分は「絶対塩分」SAとよぶことになった。実用塩分値35は、S=35と書く。この定義による塩分(実用塩分)35は、旧定義による塩分(絶対塩分)35‰と同等である。数値としては絶対塩分値35‰(=0.035)の1000倍に等しい。35以外の塩分については、絶対塩分(の1000倍)との差は非常に小さい。実用塩分は1982年から使われているが、当分の間は実用塩分であることの表示が必要である。上の例をとれば、S=35あるいは35.00でよいはずであるが、S=35psuあるいは35.00psuと書くことが多い。
[高野健三]
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