日本大百科全書(ニッポニカ) 「SSAシステム」の意味・わかりやすい解説
SSAシステム
えすえすえーしすてむ
宇宙空間の安定的利用を確保するため、防衛省・自衛隊が防衛力整備計画に基づき、構築を進めている体制。SSAは宇宙状況把握Space Situational Awarenessの略。
宇宙空間は国境の概念がなく、人工衛星などを活用すれば地球上のあらゆる地域の情報収集や通信、画像収集、気象観測、測位などが可能となるため、安全保障の基盤として死活的に重要な役割をもつこととなった。他方、宇宙空間の安定的利用に対する対衛星兵器ASAT(Anti-Satellite)Weaponsの脅威や障害は増大してきており、これらに対する適切な体制整備が課題となっている。
2021年11月にはロシアにより衛星破壊実験が行われ、追跡可能なものだけでも1500を超えるスペースデブリ(宇宙ごみ)が発生したと米軍から発表されるなど、宇宙空間にはスペースデブリが急激に増加しており、それらスペースデブリと人工衛星が衝突して衛星の機能が著しく損なわれる危険性が増大している。また、人工衛星に接近して、妨害・攻撃・捕獲しようとするキラー衛星の開発・実証試験が進められているとの情報もあり、日本の安全保障や経済社会が依存する安定的な宇宙システムの運用に対する脅威が増大しつつある。
2020年(令和2)6月に制定された宇宙基本計画を踏まえ、防衛省は、宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ):Japan Aerospace Exploration Agency)をはじめとした関係政府機関やアメリカなどと連携しつつ、政府一体となって宇宙を監視し、正確に状況を認識するためのSSAを強化することとし、2023年度以降、航空自衛隊の宇宙作戦群(司令部:東京都府中市)がSSAシステムの運用を開始する。
航空自衛隊のSSAシステムは、航空自衛隊およびJAXAのレーダー、望遠鏡などから得られるセンサー情報、アメリカ宇宙コマンドから提供される情報などを集約し、日本や同盟国等の衛星にとって脅威となるスペースデブリなどを監視することとしており、また、民間の衛星事業者などに対し、宇宙状況に関する情報を無償で提供する予定である。
防衛省・自衛隊では、SSA体制の構築のほか、(1)宇宙領域を活用した情報収集、通信、測位などの各種能力の向上、(2)電磁波領域と連携して、相手方の指揮統制・情報通信を妨げる能力を含め、平時から有事に至るあらゆる段階において宇宙利用の優位を確保するための能力の強化、(3)JAXAなどの関係機関や友好的関係国との連携強化を図るとともに、宇宙領域を専門とする部隊や職種の新設などの体制構築や、宇宙分野での人材育成と知見の蓄積を推進している。
なお、とくにアメリカとの間では、日米宇宙協力ワーキンググループ(SCWG:Space Cooperation Working Group)をはじめとする各種協議の場を通じ、具体的な連携のあり方について検討している。SCWGでは、宇宙に関する政策、情報共有、訓練・机上演習、宇宙関連要員の育成・人事交流、他省庁や民間部門との協力などについて意見交換がなされている。
[永岩俊道 2023年5月18日]