VDTによる障害

内科学 第10版 「VDTによる障害」の解説

VDTによる障害(生活・社会・環境要因)

概念
 VDTとは,visual display terminalのそれぞれの頭文字をとったものである.CRT(cathode ray tube,陰極線管),液晶,プラズマディスプレイなどのディスプレイ,キーボード,マウスなどの入力装置を使用して,データ入力・検索・照合,文書の作成,プログラミング,ネットワーク作業などを行う作業をVDT作業とよんでいる.印刷された物を対象とする作業より「拘束性」が高いため,眼,上肢,中枢神経系の症状を誘発する.作業を適正に行うことが勧められている(前原,1994).
臨床症状
1)眼症状:
眼の疲れ(58.9%),ものがぼけて見える(21.4%),ピントがぼける(19.0%),眼が痛い(13.4%)などの症状がVDT作業者で多く認められる(図16-1-15)(相澤ら,1989).自覚的には視力が低下したという訴えは多いが,長期間の観察により明らかな近視などの屈折異常は認められていない.しかし,可逆的な調節機能の低下は指摘されている.
2)筋骨格症状:
座位姿勢の長時間維持による脊柱支持筋・上肢帯筋への負荷脊椎の生理的前弯の消失,肩甲骨外転,前腕の支持不足により,頸・肩の痛み,こり(42.3%),腕・手の痛み,しびれ(11.0%)がVDT作業者で多くみられる(図16-1-15).
3)中枢神経症状:
VDT作業者では,頭痛,下痢,食欲不振,不眠,イライラ感,うつ症状が多いとの報告もあるが,VDT作業自体の影響とともに,作業内容やシステム,人間関係などの問題に起因すると思われる.
作業要因
 VDT作業では,ディスプレイや原稿を見ながらキーボードを操作するため,従来の事務作業より姿勢や視線が拘束されやすく,そのため心身の疲労が起きやすいと考えられる.
1)作業環境:
 VDTは,ドットとよばれる光点による表示であるために,文字そのものの輝度,ちらつきが見えやすさに影響を与えている.また,光源視野にあると直接グレア(まぶしさ)を生じ,表示面の反射グレア(映り込み)も眼の疲れを生じる.映り込みがあるか,部屋の照明が適当でないと感じている作業者群では,問題のない群より眼や運動器の症状の頻度が高い.
 低湿度環境やVDT作業による涙の分泌低下,瞬目回数の低下,乾燥などによる症状なども報告されている.電磁波X線などによる妊娠への影響が当初取り上げられたが,現在まで特に健康上の問題は起こっていない.
2)作業空間(ワークステーション):
 VDT作業では,姿勢や視線の拘束性が強いので,机・椅子の高さ,機器のレイアウト,空間が筋骨格系の症状に影響する.特にキー操作を行う際に上肢を浮かす場合,手首や前腕を支持できるスペースがないと肩こりなどの筋骨格系の症状を生みやすい.
3)屈折異常による眼の疲れ,肩こりなど:
 作業者の眼屈折異常やその矯正が不適切な場合,眼の疲れや,肩こりなどを引き起こす誘因となる.中高年齢者では調節力低下のため眼疲労を起こしやすい.
4)作業時間:
 VDT作業の視覚負担や姿勢の拘束,連続的なキー操作などの要因のため,1日の作業時間や1連続作業時間が眼や筋骨格系の症状の発現に影響を与える.VDT作業時間が1日4時間以上で週5日以上の作業者群では,4時間未満で5日未満の群より眼の症状を訴える頻度が高い.
予防対策
 平成14年に厚生労働省から発表された「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」によれば,労働安全衛生マネジメントシステムの自主的な活用の推進と作業区分に基づいた労働衛生管理が勧められている.VDT作業を6つの種類に分類し,これらと作業時間の組み合わせで,作業の「拘束性-負荷の大きさ」を指標にA,B,Cの作業区分を設定する.
1)照明・採光:
 室内はできるだけ明暗対照が著しくなく,まぶしさを生じないようにする.ディスプレイ画面・書類・キーボード面の明るさと周辺の明るさの差はなるべく少なくする.直接太陽光が入射するなど高輝度の場合,ブラインド,カーテンなどで輝度を低下させる(厚生労働省,2002).作業者の視野内に高輝度の照明器具,窓,壁面や点滅する光源などがなく,ディスプレイ画面にこれらが映り込まないような場所に設置する.
2)ワークステーション:
 椅子は安定しており,容易に移動でき,床から座面の高さは少なくとも35~45 cmの範囲で調節可能なものを使用する.また適当な背もたれ,肘掛けのあるものがよい. 作業台は,キーボード,書類,書見台などVDT作業に必要なものが適切に配置できる広さであり,脚周り空間は作業中窮屈でない広さを保つ.
3)作業時間:
 連続的VDT作業に常時従事する者については,単位作業時間の最小限化をはかり,非VDT作業の挿入,ローテーション化に努める.連続的VDT作業に常時従事する者については1連続作業時間を1時間以内にし,次の連続作業までの間に10~15分の作業休止時間を設け,1連続作業時間内において1,2回程度の小休止を設ける.
4)健康管理:
配置前の健康診断では,①業務歴の検査,②既往歴,自覚症状の調査,③視力検査,眼位検査,調節機能検査,屈折検査などの眼科的検査,④筋骨格系に関する他覚的検査,⑤その他医師が必要と認める検査を行う.定期健康診断では単純入力型および拘束型の作業を1日4時間以上行う者に対して③と④の検査の一部を省略して行う.[相澤好治]
■文献
相澤好治,巽 洋,他:VDT作業者の自覚症状と影響因子の検討.日本の眼科,60: 792-798, 1989.厚生労働省労働基準局長:VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて,基発0405001号,2002.前原直樹:VDT作業者の健康管理.現代労働衛生ハンドブック増補編,増補改訂第2版(三浦豊彦,他編),pp368-373,労研出版部,神奈川,1994.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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