日本大百科全書(ニッポニカ) 「アリソン」の意味・わかりやすい解説
アリソン
ありそん
James Patrick Allison
(1948― )
アメリカの免疫学者、分子生物学者。テキサス州アリス生まれ。1969年テキサス大学オースティン校卒業、1973年同大学から生命科学の博士号を取得。1974~1977年スクリプス・クリニック研究財団(現、スクリプス研究所)の博士研究員、1977~1983年テキサス大学MDアンダーソンがんセンター助教授、1983~1984年同大学準教授、1985~2004年カリフォルニア大学バークレー校教授、2004~2012年メモリアル・スローン・ケタリングがん研究センターのがん免疫治療センター長などを歴任。2012年からテキサス大学MDアンダーソンがんセンター教授。1997~2012年にはハワード・ヒューズ医学研究所の研究員も務めた。
長年、免疫細胞の司令塔であるTリンパ球(T細胞)の働きの解明と、がんに対する戦略的な免疫療法の確立に取り組んできた。1990年代、カリフォルニア大学バークレー校にいたアリソンらの研究チームは、Tリンパ球の表面にあるタンパク質「CTLA-4」(cytotoxic T-lymphocyte antigen 4:細胞傷害性Tリンパ球抗原4)に着目し、CTLA-4が免疫細胞の働きを抑えるブレーキ役となることをつかんだ。他の研究者も同様の成果をあげ、多くの研究者が、免疫細胞が自己を攻撃する「自己免疫疾患」の治療につなげようと研究に取り組んでいたが、アリソンは早くからがん治療への応用を考えていた。CTLA-4に対する抗体(抗CTLA-4抗体)を投与することで、CTLA-4のブレーキをはずし免疫細胞を活性化させれば、がん細胞を攻撃できるのではないかという仮説をたて、1994年に最初の動物実験を実施。がんを移植したマウスに抗CTLA-4抗体を投与すると、がん細胞は消失した。人間での治験を重ね、2010年には進行した皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫(しゅ))の患者に抗CTLA-4抗体を投与したところ、他の薬で治療効果のなかった患者の腫瘍(しゅよう)がなくなるなど、劇的な効果が確認された。翌2011年、抗CTLA-4抗体は、抗体医薬品「イピリムマブ」(商品名「ヤーボイYERVOY」)として、アメリカ食品医薬品局(FDA)から販売承認された。ヨーロッパ医薬品庁(EMA)では2011年、イギリス国立医療技術評価機構(NICE)では2012年、日本でも2015年(平成27)に販売承認された。メラノーマ以外にも転移性の腎(じん)細胞がんにも適用拡大されている。
ヤーボイは、京都大学名誉教授で免疫学者の本庶佑(ほんじょたすく)らがTリンパ球で発見した「PD-1」に対する抗体(抗PD-1抗体)の医薬品「ニボルマブ」(商品名オプジーボ)と並び「免疫チェックポイント阻害薬」とよばれる。免疫反応を増強することに力点を置いた従来の免疫療法と異なり、がん細胞などに対する免疫の抑制(ブレーキ)を排除して免疫力を高める新しい免疫療法である。この新しい免疫療法は、外科手術、抗がん剤(化学療法)、放射線治療に次ぐがん治療の第四の柱として位置づけられている。
2014年ガードナー国際賞、2015年ラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞、2016年トムソン・ロイター引用栄誉賞、2017年ウルフ賞(医学部門)などを受賞。2018年には「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」で、本庶佑とノーベル医学生理学賞を共同受賞した。
[玉村 治 2019年3月20日]