イワナ(読み)いわな

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イワナ」の意味・わかりやすい解説

イワナ
いわな / 岩魚
嘉魚
[学] Salvelinus pluvius

硬骨魚綱サケ目サケ科に属する渓流魚。北海道では、近縁種アメマスオショロコマもイワナとよぶことが多い。本州にすむイワナはアメマスの地方的な型とみる考えもあり、この場合、学名はS. leucomaenisとなる。便宜上イワナとアメマスを分けると、イワナの分布北限は太平洋側で利根(とね)川上流、日本海側で米代(よねしろ)川上流と推測される。さらに本州にすむイワナには、関東地方と日本海側各地の渓流にすむニッコウイワナの系列と、東海地方の山岳部、木曽(きそ)三川の上流のイワナおよび紀伊半島山岳部をあわせた渓流にすむヤマトイワナの系列、山陰地方と広島県の渓流にすむゴギの3系列が考えられる。前記三者の特徴を示すと、イワナ類に共通する背部の帯黄茶褐色と白点および体側のパーマークのほか、ニッコウイワナはおもに側線下に瞳(ひとみ)よりやや大きい橙黄(とうこう)色の円点があるのに対し(アメマスは白点のみ)、ヤマトイワナは背部の白点が不鮮明の傾向があり、側線の上下に瞳より小さい朱紅色の円点をもつ。ゴギはニッコウイワナの特色のほかに頭部にも白点をもつ。しかし、これらの特性には地方的変異が多い。ヤマメより上流の冷水域にすみ、水生、陸生の昆虫など小動物を食べ、大形のものは体長30センチメートルを超え、湖沼にすむものはさらに大形になる。通常2年以上で成熟し、10~11月に平瀬の砂礫(されき)底に産卵する。近縁種にアメマス、オショロコマのほか、カワマス、アルプスイワナおよびレイクトラウトがある。渓流釣りの対象として価値が高い。

[久保達郎]

料理

肉はヤマメに次いで佳良で、夏から秋にかけて味がいい。塩焼きにされ、またみそ汁の実にしてもよい。骨は柔らかい。悪食であるから天然ものの内臓は食べない。最近は養殖もしている。

多田鉄之助

釣り

都道府県別に各河川の禁漁期間および解禁期間が定められるが、春から初秋までが、ほぼ解禁期間となる。イワナ釣りは、山あいの渓流、しかも上流部で釣るので、単独行は避けて2人以上の釣行と、基礎的な登山知識や技術および登山装備も必要になる。竿(さお)は先調子の4~5メートルのものが標準で、道糸に目印をつけたミャク釣りが一般的である。水面を飛び交う昆虫も捕食するので、これに似せた羽毛などでつくった擬餌鉤(ぎじばり)の毛鉤釣りも、初夏のころからは楽しめる。

 渓流釣りは、イワナに限らず下流から上流へと釣りあがるのが普通である。これは魚が上流に頭を向けて泳いで餌(えさ)を探しているため、下流から近づいたほうが、警戒心を与えることが少ないためである。魚信は目印の変化や道糸の張りぐあいなどでとるが、早くあわせず、一呼吸おいてからあわせるタイミングがよい。人影や物音に敏感なので、極端に魚のいる近くで竿を出すのは不利である。餌は川の石に付着しているカゲロウ類の幼虫のほか、ミミズなどがとくに食いもよい。

[松田年雄]


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改訂新版 世界大百科事典 「イワナ」の意味・わかりやすい解説

イワナ (岩魚)
Japanese char
Salvelinus pluvius

サケ目サケ科イワナ属の1種。最上流水域に生息する代表的な淡水魚で,ヤマメよりもさらに奥深い谷川に多く,渓流釣りの好対象として釣人たちから注目されている。和歌山ではキリクチ,中国山地ではゴギ,福井ではイモウオと呼ばれ,これらはそれぞれ独立した分布をする同一種内の別系群と考えられる。体長は30cmほどになり,体側に小判形のパー・マークparr markという斑紋をもち,また,小さな淡灰色の円点があり,側線より下にはさらに小さな朱点が混在する。これらの斑点には個体によって変異が認められ,それぞれが異なった種類(エゾイワナ,ニッコウイワナ,ヤマトイワナ)とする説があるが,変異に北から南への傾向性が存在するため同一種内の地方的変異とする説があり一定しない。九州,四国には分布しない。一年中水温が15℃以下の冷水域に生息し,そのために氷河期以降高所に陸封されたとの説もある。満3年で成熟し,産卵期は10月中旬から11月上旬で,より上流の小さな沢に入り込み,流れの穏やかな浅所の砂れき底にすり鉢状のくぼみをつくり産卵する。産卵後くぼみの上流側から砂れきを舞い上げて卵を覆う。卵は約1ヵ月半後に孵化(ふか)が始まり,孵化直後の仔魚(しぎよ)はしばらく産卵床の石の間に潜んでいる。ヤマメと異なり,卵黄を吸収し餌をさがすようになっても石などの隙間にいることが多く,4月から5月にかけて下流に向かう。渓流の岩陰や倒木の陰などに身を潜め水生昆虫の流下を待ち瞬時に飛びつき摂食する。警戒心の強い魚として定評があるが,生息空間が十分大きい場合には底層と表層を使い分けており,水面に落下する陸生昆虫などを表層付近で待伏せする個体もある。ときにはヘビ,カエルなども食べる悪食で貪欲(どんよく)である。餌釣りと擬似餌釣りがあり,擬似餌は鳥の羽毛などを使いその精緻(せいち)さ,有効性が競われる。ヤマメよりも劣るが美味であり,塩焼き,照焼きまた素干しも珍味である。なお,イワナ属には他にアメマスオショロコマカワマスなどがある。
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百科事典マイペディア 「イワナ」の意味・わかりやすい解説

イワナ

サケ科の魚。全長30cmほどになる。体は黄褐色,背側面に淡黄褐色の円状斑紋が散在。斑紋は個体によって変異が認められ,それぞれが異なった種類(エゾイワナ,ニッコウイワナ,ヤマトイワナ)とする説があるが,地方的変異とみる説もあり一定しない。九州,四国には分布しない。日本産淡水魚中最も高地の渓流にすむ。陸封種で降海型は知られていない。近縁種にアメマス,オショロコマ,カワマスなどがある。ヤマメとともに谷川の釣の好対象となり,美味。
→関連項目アメマス

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イワナ」の意味・わかりやすい解説

イワナ

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