改訂新版 世界大百科事典 「ナデシコ」の意味・わかりやすい解説
ナデシコ (撫子)
pink
Dianthus
ナデシコ科ナデシコ属Dianthusの植物の総称。この属はユーラシアの半乾燥地域を中心に,北アメリカの北部やアフリカに300種あまりが分布する。多くは多年草で,対生する葉は線形になり,陽地乾性的な環境によく適応している。日本にはカワラナデシコD.superbus L.var.longicalycinus(Maxim.)Williams,シナノナデシコD.shinanensis Makino,フジナデシコD.japonicus Thunb.,それにヒメハマナデシコD.kiusianus(Yatabe)Makinoの4種が自生している。カワラナデシコは明るい原野や河原に多いナデシコ科の多年草で,秋の七草の一つ。単にナデシコとも,またトウナデシコに対してヤマトナデシコとも呼ばれる。茎は基部から立ち上がり,高さ30~50cm,上部で多くの枝を出す。葉は線形で対生し,長さ5cm前後。7~10月,茎の先に径4cmほどの花をつける。萼は筒になり長さ約3cm,基部には3対の鱗片状の苞がある。花弁は桃色で,先は細かく切れ込む。花柱は2本,おしべは10本。果実は萼筒よりわずかに突き出て,先は4裂する。種子は多数で,黒くて平たい。本州,四国,九州および中国大陸に分布する。種子は漢方で瞿麦子(くばくし)と呼び,利尿,淋病に用い,また通経剤ともなるという。本州の北部と北海道には,ヨーロッパからアジア大陸に広く分布していてカワラナデシコの基本変種とされるエゾノカワラナデシコvar.superbus(英名はsuperb pink)がある。中国では,全草を乾燥したものを尿量増加などの薬として用いる。フジナデシコ(ハマナデシコ)は暖かい地方の海岸近くの岩場の上などに生える多年草で,茎は太く直立し高さ約50cm,葉は長楕円形でやや厚くつやがあり,混み合ってつくことが多い。7~11月,茎の先に径1.5cm前後の紫色をおびた桃色の花をかたまってつける。
執筆者:三木 栄二
園芸種
ナデシコ属の植物は,赤色,桃色などの花もきれいなため,数十種が園芸植物として栽培され,ダイアンサスの総称名で呼ばれる。また種間の交雑が容易で,多くの雑種起源の園芸品種も育成され,八重咲きの品種も多く作出されている。開花期は多くのものが初夏であるが,夏から秋にかけて開花するものもあるし,園芸的には,カーネーションのように通年開花をするような栽培方法もとられている。おもな栽培品種群には次のようなものがある。
(1)カーネーション 温室植物として扱われるが,種間交配で小輪多花の露地植えの品種も育成されている。地中海沿岸原産。
(2)セキチクD.chinensis L.(英名Chinese pink,Indian pink) 多年草だが,園芸的には一年草あるいは二年草として扱われることも多い。やや大型で高さ20~50cmになり,稜のある茎は有毛。花径は2~3cm,茎頂に1~2個をつける。中国原産で,江戸時代に日本で,四季咲きのトコナツvar.semperflorens Makino,細裂して糸状に長く伸びた花弁を有するイセナデシコvar.laciniatus Koern.などの品種群が育成された。ヨーロッパではセキチクを基本にした大型の花をつける品種が多く育成されており,その赤,桃,藤,白色などの多彩な花色からrainbow pinkの英名で呼ばれている。
(3)タツタナデシコD.plumarius L. 芳香の強い小型のナデシコで,花の中央部に暗紫色の斑紋があることが多い。茎の基部はやや木質化してよく分枝し,クッション状に茂る多年草で,高さ30cmほどになる。ヨーロッパからシベリア地域原産で,古くから栽培化され,多くの品種があるが,それらは英名ではgarden pink,cottage pinkと呼ばれる。またヒメナデシコD.deltoides L.(英名maiden pink,meadow pink,spink)は茎の基部がはい,前者よりもさらに低いクッション状に茂り,耐寒性もある。イギリスから北ヨーロッパ地域原産である。ナデシコ属植物には同じようにクッション状に生育する種は多く,それから育成された品種群は英名ではrock garden pinkと呼ばれて,岩石園をかざり,小型鉢物としても栽培されている。小型でかわいらしい桃色の花をつけるものが多い。
(4)ビジョナデシコD.barbatus L.(英名sweet William,bunch pink) ヒゲナデシコあるいはアメリカナデシコとも呼ばれ,多くの花が高さ30~70cmになる茎頂部に群がり咲く。ヨーロッパ南部から東部原産の多年草だが,栽培は二年草として扱われ,多くの品種があり,切花にもされる。
栽培
ナデシコ類は日当りと排水のよいところでよく生育する。とくに山野草の栽培は,富士砂や桐生砂に赤玉土を等量に混ぜた通気のよい用土を用いる。園芸種の栽培も,これに準ずる。繁殖は実生,株分け,挿芽によるが,トコナツなどの固定種はもっぱら挿芽法によって育苗する。また茎葉に蠟物質をもつ種類は,雨や多湿を嫌う。
執筆者:堀田 満+浅山 英一
ナデシコ科Caryophyllaceae
双子葉植物の1科で,約80属2000種を有する。ほとんどのものが草本で,北半球の温帯を中心に分布する。代表種には春の七草の一つであるハコベ,秋の七草の一つであるナデシコなどがある。葉は多くは単葉で,鋸歯がない。托葉をもつ群ともたない群に大別され,日本のものは托葉をもたないものが大部分である。托葉をもたない群はさらに,萼片が互いに合着して筒状になる群と,離れている群に分けられる。萼片は4ないし5枚,花弁も4ないし5枚で,ときに欠く場合があり,先はしばしば凹入し,細かく裂けることもある。花は2出集散花序につくのが基本とされるが,葉腋(ようえき)に単生するものや穂状につくものもまれではない。おしべは1から10本まで。子房は上位,花柱は2から5本,花柱の内面は小突起で覆われた柱頭となる。種子は子房の基部から突き出た胎座の回りにつくため,中心胎座目の一員とされる。果実は多くは蒴果(さくか),まれに液果,瘦果(そうか)。アカザ科,ツルナ科,サボテン科など,乾燥気候に適応分化している植物群に類縁がある。また,サクラソウ科とは胎座の形態が似ているので,類縁があると考える研究者もいる。赤い花の色素はアントシアンではなく,β-シアニンで美しく,多くの観賞植物がある。中国から伝わり,古くから日本でも栽培されていたセキチク,センノウ,ガンピなどや,ヨーロッパ原産で,現在,日本でも広く栽培されているカーネーション,カスミソウなどがある。観賞用とされるものは,ほとんど托葉をもたず,萼片が合着する群の植物である。サポニンなどの配糖体やアルカロイドを含むため,ナデシコ属,ハコベ属,サポナリア属,バッカリア属などの植物の一部が薬用に用いられる。また柔らかく毒がないものは,ハコベなどが小鳥の餌に用いられるほか,ヨーロッパではオオツメクサ属の植物の一部が餌料として栽培されるし,若芽を食用にするものもある。
執筆者:三木 栄二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報