八幡愚童訓(読み)はちまんぐどうくん

改訂新版 世界大百科事典 「八幡愚童訓」の意味・わかりやすい解説

八幡愚童訓 (はちまんぐどうくん)

鎌倉末期に成立した石清水八幡宮霊験記。《八幡愚童記》《八幡宮愚童記》などともいう。筆者は石清水八幡宮の神宮寺大乗院関係の社僧かと考えられるが,個人名を特定するまでに至っていない。同題名で内容の異なる2種類のものがある。群書類従所収本は,神功皇后のいわゆる〈三韓征伐〉と皇后の子で八幡大菩薩とされる応神天皇のこと,文永と弘安両度の蒙古襲来の状況とその襲来が大菩薩の力により平定されたこと,とくに弘安の場合に思円上人(叡尊)の祈禱によるところが大きかったことが強調されており,本書の成立に社寺の祈禱に対する朝廷の恩賞の問題がかかわっていたことがうかがえる。続群書類従所収本は,垂迹,名号,遷坐,御躰,本地,王位,氏人,慈悲,放生会,受戒,正直,不浄,仏法,後世の14章にわたり神徳霊験が説かれている。群書類従本には〈降伏事〉という見出しがみられ,かつては続群書類従本の一章をなしていたものが,蒙古襲来の祈禱とその恩賞問題を機に増補され独立したものかと思われる。両者とも伝本には時代による加筆,増補がみられ,唱導の徒がかかわっていたらしい。
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日本歴史地名大系 「八幡愚童訓」の解説

八幡愚童訓
はちまんぐどうくん

成立 鎌倉時代末期か

別称 八幡愚童記・八幡宮愚童記

解説 山城石清水八幡宮の霊験記。本県にかかわる八幡大菩薩・神功皇后などやモンゴル襲来についての記述は興味深い。「はちまんぐどうきん」とも読む。著者は不明だが、石清水八幡宮の祠官とみられる。写本には内容の異なる二系統があり、「群書類従」第一輯収録のものを甲本、「続群書類従」第二輯上収録のものを乙本と便宜的によび、ともに漢字片仮名交じり文となっている。「大宰府・太宰府天満宮史料」巻八(昭和四八年発行)は甲本を「八幡愚童記」として漢字平仮名交じり文で、日本思想大系二〇(昭和五〇年発行)は甲本を漢字片仮名交じり文、乙本を漢字平仮名交じり文として翻刻している。なお「太宰府市史」中世資料編(平成一四年発行)は日本思想大系の甲本によって一部を収録。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「八幡愚童訓」の意味・わかりやすい解説

八幡愚童訓
はちまんぐどうくん

八幡大菩薩(ぼさつ)の霊験を愚童にもわかるようにと説き示したもの。同名にして内容の異なる2種がある。(1)2巻。蒙古(もうこ)襲来に際し、石清水八幡(いわしみずはちまん)とその別宮筥崎八幡(はこざきはちまん)が示した神威発揚について説いたもの。作者は石清水八幡宮の祠官(しかん)と考えられ、成立時期は蒙古襲来からほど遠くない時期と推定される。文永(ぶんえい)の役の対馬(つしま)・壱岐(いき)入寇(にゅうこう)に関する史料としてはほとんど唯一のものである。『群書類従』所収。(2)2巻。垂迹(すいじゃく)、名号、本地など14項目にわたり、八幡神の威徳の広大無辺なことを述べたもの。作者は石清水八幡宮の祠官、成立時期は鎌倉末期とそれぞれ推定される。『続群書類従』所収。

[新井孝重]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「八幡愚童訓」の意味・わかりやすい解説

八幡愚童訓
はちまんぐどうくん

鎌倉時代後期に成立した石清水八幡宮の霊験記。『八幡愚童記』『八幡宮愚童記』などともいう。作者未詳。2巻。本地垂迹の説により書かれており,多種の異本が現存する。上巻は序,垂迹事,名号事,遷座事,御躰事,本地事,王位事,氏人事,慈悲事の8条,下巻は,放生会事,受戒事,正直事,不浄事,仏法事,後世事の6条から成る。

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旺文社日本史事典 三訂版 「八幡愚童訓」の解説

八幡愚童訓
はちまんぐどうくん

八幡の神徳を平易に説いた,子供を対象とする訓話の書
同名の書が2種ある。①快元の著という奥書があるが,真偽不詳。元寇に関する記述は史料として貴重である。
②成立年・著者不詳だが,吉田兼倶 (かねとも) の著とも推定され,室町時代に成立したもの。

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世界大百科事典(旧版)内の八幡愚童訓の言及

【両部神道】より

…両部神道関係の著は,〈雨宝童子啓白〉〈両宮形文深釈〉などと記され,またいずれも空海仮託という点に共通する特色があるが,中でも《麗気記》は内外両宮を胎蔵金剛両界に比定して,密教の両部の理論を援用して,外宮の地位の向上と伊勢両宮の神秘性を強調したものであり,文章上理解しがたい点が多く,外宮の下級祠官の手に成るものと推定する説もある。また,《八幡愚童訓》は,14世紀初頭に石清水八幡宮社僧の手になるものと考えられるが,密教的色彩のきわめて強い点で注目すべきものである。 両部神道の特色としては,特に《麗気記》に代表的にみられるように許可(こか),印信(いんじん),血脈(けちみやく)という密教の伝授の形式を重視していることである。…

※「八幡愚童訓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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