駿河湾から日向灘沖の海底に延びる溝状の地形(トラフ)に沿って発生する地震。おおむね100~150年間隔で起き、マグニチュード(M)8~9級の地震が30年以内に起きる確率は70~80%とされる。政府は2012年、最大32万3千人が死亡するとの想定を公表。今月8日の日向灘を震源とするM7・1の地震発生を受け、気象庁は「発生可能性が平常時に比べて相対的に高まっている」として初めて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を出した。
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駿河湾(するがわん)から遠州灘(えんしゅうなだ)、熊野灘、紀伊半島の南側の海域および土佐湾を経て日向灘(ひゅうがなだ)沖までの広い領域の南海トラフに沿って、フィリピン海プレートの西南日本の下への沈み込みによっておこるマグニチュード9クラスのプレート間巨大地震で、科学的に想定しうる最大規模の地震とされている。
2011年(平成23)の東北地方太平洋沖地震は、これまで予想されていなかったマグニチュード9クラスの地震であった。同地震の震源域では、太平洋プレートが日本列島に向かって年間約10センチメートルの速度で移動し、日本海溝から日本列島の下に沈み込んでいる。太平洋プレートの沈み込みにより日本列島がのる陸側プレートとの境界部分では歪(ひず)みが蓄積され、その結果日本列島は西へ押し込まれている。プレート境界に蓄積されたエネルギーは、ときおり発生するマグニチュード7、8クラスの地震によるプレート境界の滑りだけでは解消されないことはかなり前から知られていたが、蓄積された歪みエネルギーは地震をおこさずに、ゆっくりとプレートの境界がときどき滑る現象(スロースリップまたはゆっくり地震とよばれる)により解消されているという解釈が、研究者の間では支配的であった。しかし実際には、歪みは数百年間にわたって蓄積され、東北地方太平洋沖地震により一挙にそのエネルギーが解放されたことが明らかとなった。
フィリピン海プレートの動きにより、東海地震や南海地震が繰り返し発生している南海トラフ沿いの領域でも、同様の現象がおこりうるのではと考えられたのが、南海トラフ巨大地震である。しかし、フィリピン海プレートの南海トラフからの沈み込みは年間約4センチメートルで、太平洋プレートの動きの半分以下と小さく、100年から200年の間隔で発生している東海地震や南海地震によるプレート間の滑りにより、蓄積されたエネルギーはほとんど解放されており、長期間にわたって歪みエネルギーが蓄積され続けるような現象は存在しないという見方も強い。また巨大地震に伴う大きな津波の痕跡(こんせき)もみつかっていないことから、その存在を疑う研究者は少なくない。ただ、その存在を完全には否定できないことから、政府は南海トラフ巨大地震対策特別措置法を成立させ、対策を進めている。
[浜田信生]
(フリーランスライター 葛西奈津子 / 2013年)
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