女史箴図(読み)じょししんのず

精選版 日本国語大辞典 「女史箴図」の意味・読み・例文・類語

じょししんのず ヂョシシンのヅ【女史箴図】

中国東晉顧愷之(こがいし)筆と伝えられる絹本着色の絵巻宮廷女官の守るべき作法を一節ごとに絵にあらわしたもので、六朝絵画の高い水準と様式、また、当時の風俗を知る資料として重要。原本は失われ、唐初の模本ロンドン大英博物館にある。

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デジタル大辞泉 「女史箴図」の意味・読み・例文・類語

じょししんず〔ヂヨシシンヅ〕【女史箴図】

東晋顧愷之こがいし筆の画巻西晋張華宮中の女官に心得を説くためにまとめた「女子箴」をもとに、一節ごとに絵で表したもの。大英博物館に初唐の模本が伝わる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「女史箴図」の意味・わかりやすい解説

女史箴図
じょししんず

その画論によって、古今に絶する画聖とうたわれた中国東晋(とうしん)時代の顧愷之(こがいし)の画巻。西晋の張華(ちょうか)(232―300)が宮廷に仕える婦女に倫理道徳を説くためにまとめた書『女史箴』を絵画化したもので、女史とは王妃側近にはべり、文字を知り、記録をつかさどる女官のことである。

 顧愷之筆の原本は失われ、初唐の模本と推定されるものがロンドンの大英博物館に所蔵されている。図は巻物形式をとり、長さ349.3センチメートル、幅24.8センチメートル、細かい織り目の絹地に描かれている。全9図あるが、最初の1図のみ本文を欠く。全図とも線描を主とし、淡彩を施しているが、人物画は筆者のもっとも得意としたものであるため、神気が横溢(おういつ)し、中国絵画史を代表する名品とされてきた。東北大学図書館には、小林古径(こけい)と前田青邨(せいそん)が1916年(大正5)に渡英して直接模写したものが所蔵され、ほかに制作年代の下る別種の模本が北京(ペキン)の故宮博物院にある。

[永井信一]

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改訂新版 世界大百科事典 「女史箴図」の意味・わかりやすい解説

女史箴図 (じょししんず)
Nǚ shǐ zhēn tú

《博物志》の著者としても知られる中国,西晋の張華の《女史箴》(《文選》巻五十六)を絵画化した作品。《女史箴》とは張華が後宮の記録をつかさどる女官である女史に名をかりて,楚の荘王の夫人樊姫(はんき),斉の桓公の夫人衛姫などの古の模範的な女性の徳行を挙げ,后妃の戒めとした文章。張華は女史による箴言という体裁をとることによって恵帝の賈后一族の専権を風刺しようとしたといわれる。現在大英博物館に所蔵される作品は東晋の顧愷之(こがいし)の原画を唐代に模写したものとされる。ただ,《女史箴》前段に対応する樊姫・衛姫などをかいた部分は失われ,前漢元帝のときの馮婕妤(ふうしようよ),成帝のときの班婕妤の逸話に対応する部分から始まっている。伝統的な勧戒画に属するものとはいえ,文学の絵画化という意味で《洛神賦図》とともに注目に値する作品であり,六朝時代の画風を知るうえで最も重要なものの一つである。
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山川 世界史小辞典 改訂新版 「女史箴図」の解説

「女史箴図」(じょししんず)

東晋の顧愷之(こがいし)作と伝えられる画。「女史箴」は晋の張華(ちょうか)が婦人道徳を説いた文章で,これを数段に分け挿図をつけたもの。唐初を下らない時期の模本とみられる。

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旺文社世界史事典 三訂版 「女史箴図」の解説

女史箴図
じょししんず

女史箴は,晋 (しん) の張華がつくった,宮女に教える訓言で,これを1節ごとに絵に表し,原文の一部を付したもの
宋代から東晋の顧愷之 (こがいし) 筆といわれた『女史箴図』(大英博物館蔵)は,貴重な史料であるが,唐代のすぐれた模写といわれている。

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世界大百科事典(旧版)内の女史箴図の言及

【顧愷之】より

…彼の絵の本領は対象の精神性を写しとろうとする晋初以来の伝統にのっとった肖像画にあり,疾風迅雷と評されたすばやい流麗な筆線でモデルの個性や雰囲気を巧みに表現したもので,隋・唐の文献の伝える仙人,美人,鳥獣などの画目ではすでにイメージの大きなずれが生じている。大英博物館蔵《女史箴(じよししん)図巻》,北京故宮博物院蔵《列女伝図巻》は後世の模本ではあるが,風刺的風俗画,説話画的表現の豊かな反面,古拙な要素も残していて,原本の顧愷之筆の伝称を信じさせるに足る作品といえよう。【古原 宏伸】。…

【女史】より

…唐代女史の一つに彤史(とうし)という官があるのは,女史が彤管(赤い軸の筆)を用いたことに由来する。西晋張華の〈女史箴〉は賈皇后の不品行を風刺するために後宮女姓の訓戒を説いたもので,これがさらに《女史箴図》を生んだ。【谷川 道雄】。…

※「女史箴図」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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