天皇制国家の下で、その国家に反対する社会運動ならびに思想の取締りを担当した警察の組織と活動。国家的治安の維持にあたる政治警察をフランスやドイツでは高等警察(フランス語でla haute police、ドイツ語でHoch Polizei)と称していた。日本では、この高等警察の任務の主たる部分をなす反体制運動の取締りをもっぱら行う機構が、そこから分離独立して特別高等警察となったのである。警察活動のこの部門は、「特高」とよばれて悪名をはせ、天皇制警察の代名詞のようになっている。
高等警察からの特別高等警察の分立は、1910年(明治43)の大逆(たいぎゃく)事件を契機として翌年8月に警視庁に特別高等課(以下、特高課、特高警察と略す)が設けられたのを嚆矢(こうし)とする。以後、同課は、12年(大正1)10月に大阪府に、22年以降北海道、京都府のほか七県に順次設置され、三・一五事件を機に28年(昭和3)には残りの全県に設置された。特高警察の生涯はいくつかの時期に区分してみることができる。
[渡辺 治]
警視庁に設置された当初の特高課は、特高、検閲の二係をもつだけであり、同盟罷業の取締り、爆発物取締り、出版物の検閲を担当した。特高警察のこの時代の活動は、主として、特別要視察人名簿にリストアップされた社会主義などの活動家たちを監視することにあった。
[渡辺 治]
特高警察の活動が本格化するのは、ロシア革命を機に労働・農民運動、さらには社会主義、共産主義の運動が広範に展開されるに至ってからのことである。とくに、それら運動の取締りを名として1925年(大正14)に制定された治安維持法は特高警察の最大の武器となり、同法による28年の三・一五検挙は「特高」の名を一躍高からしめた。以後特高警察は従来高等警察の行っていた事務を次々に吸収し、組織的にも肥大化の一途をたどる。その結果、たとえば、警視庁では32年(昭和7)、特高、外事、労働、内鮮、検閲、調停の六課を擁して特別高等警察部ができた。さらに、1930年代前半に軍人・右翼による暗殺・クーデターの試みが頻発するに伴い、特高警察はこの取締りをも担当するようになる。
[渡辺 治]
1937年(昭和12)日中全面戦争勃発(ぼっぱつ)以降、特高警察は従来の活動に加え、さらに反戦・反軍的活動の取締りに乗り出した。キリスト者などの宗教団体の取締りもこのような見地からいっそう厳しく行われるようになった。戦争が進むにつれ、特高警察は、一方では運動や組織とは無縁な庶民の言動にまで目を光らせるとともに、時の政権の反対者の抑圧・監視活動をも行うようになる。こうした特高警察は、敗戦直後の45年10月4日付で出されたGHQ(連合国最高司令部)の指令「政治的市民的及び宗教的自由に対する制限の撤廃に関する覚書」により解体された。
[渡辺 治]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
社会主義運動取締りを主目的とする警察機構。略称は特高。大逆事件後の1911年(明治44)8月警視庁に新設された特別高等課に始まる。順次,大阪・北海道・神奈川・愛知などに拡大し,1928年(昭和3)の3・15事件後に全国化した。33年に始まる共産主義者の大量転向後,自由主義者や宗教家・在留外国人などにも治安維持法違反などの容疑による取締りを強化。同機構が収集した広い分野にわたる情報の一部は,内務省警保局で特高月報などに編集・掲載され,内部閲覧に供された。おもに高等文官試験合格後の若い内務省官吏が特別高等課などに配属された。第2次大戦後の45年10月GHQ覚書で解体が指示され,警察首脳部と特高関係の警察官は休職となり,機構は解体された。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…1918年米騒動後に成立した原敬内閣のもとでは,大正デモクラシー状況に対応しようとする動きが本格化し,警視庁においても〈警察の民衆化〉と〈民衆の警察化〉が提唱された。しかし22年ころから〈力の警察〉を強調する方向がおこり,これは25年の治安維持法制定,28年の特別高等警察(特高)の全国的大拡充を経て,しだいに強まっていった。32年特別高等警察部を設置して特高機構を拡充。…
…その構成員を指すこともある。特別高等警察が正式名称である。 大逆事件の翌年,政治警察である高等警察からわかれ警視庁官房に特別高等課が設置され,内務省警保局保安課に専任職員がおかれ,一体となって社会主義運動取締りにあたった。…
※「特別高等警察」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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