明治三三年三月一〇日公布
改正大正二年、大正一五年
第一条 政事ニ関スル結社ノ主幹者(支社ニ在リテハ支社ノ主幹者)ハ結社組織ノ日ヨリ三日以内ニ社名、社則、事務所及其(そ)ノ主幹者ノ氏名ヲ其ノ事務所所在地ノ管轄警察官署ニ届出ツヘシ其ノ届出ノ事項ニ変更アリタルトキ亦(また)同シ
第二条〔1〕政事ニ関シ公衆ヲ会同スル集会ヲ開カムトスル者ハ発起人ヲ定ムヘシ
〔2〕発起人ハ到達スヘキ時間ヲ除キ開会三時間以前ニ集会ノ場所、年月日時ヲ会場所在地ノ管轄警察官署ニ届出ツヘシ
〔3〕届出ノ時刻ヨリ三時間ヲ過キテ開会セス若(もしく)ハ三時間以上中断スルトキハ届出ハ其ノ効ヲ失フ
〔4〕法令ヲ以テ組織シタル議会ノ議員選挙準備ノ為(ため)ニ選挙権ヲ行フヘキ者及被選挙権ヲ有スル者ニ限リ会同スル所ノ集会ハ投票ノ日ヨリ前五十日間ハ本条第二項ノ届出ヲ要セス
第三条 公事ニ関スル結社又ハ集会ニシテ政事ニ関セサルモノト雖(いえども)安寧(あんねい)秩序ヲ保持スル為届出ヲ必要トスルモノアルトキハ命令ヲ以(もっ)テ第一条又ハ第二条ノ規定ニ依(よ)ラシムルコトヲ得(う)
第四条 屋外ニ於(おい)テ公衆ヲ会同シ若ハ多衆運動セムトスルトキハ発起人ヨリ十二時間以前ニ会同スヘキ場所、年月日時及其ノ通過スヘキ路線ヲ管轄警察官署ニ届出ツヘシ但(ただ)シ祭葬、講社、学生、生徒ノ体育運動其ノ他慣例ノ許ス所ニ係ルモノハ此(こ)ノ限ニ在ラス
第五条〔1〕左ニ掲クル者ハ政事上ノ結社ニ加入スルコトヲ得ス
一 現役及召集中ノ予備後備ノ陸海軍軍人
二 警察官
三 神官神職僧侶(そうりょ)其ノ他諸宗教師
四 官立公立私立学校ノ教員学生生徒
五 女子
六 未成年者
七 公権剥奪(はくだつ)及停止中ノ者
〔2〕未成年者ハ公衆ヲ会同スル政談集会ニ会同シ若ハ其ノ発起人タルコトヲ得ス
〔3〕公権剥奪及停止中ノ者ハ公衆ヲ会同スル政談集会ノ発起人タルコトヲ得ス
第八条〔1〕安寧秩序ヲ保持スル為必要ナル場合ニ於テハ警察官ハ屋外ノ集会又ハ多衆ノ運動若ハ群集ヲ制限、禁止若ハ解散シ又ハ屋内ノ集会ヲ解散スルコトヲ得
〔2〕結社ニシテ前項ニ該当スルトキハ内務大臣ハ之(これ)ヲ禁止スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ違法処分ニ由(よ)リ権利ヲ傷害セラレタリトスル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第一四条 秘密ノ結社ハ之ヲ禁ス
第一七条〔1〕左ノ各号ノ目的ヲ以テ他人ニ対シテ暴行、脅迫シ若ハ公然誹毀(ひき)シ又ハ第二号ノ目的ヲ以テ他人ヲ誘惑若ハ煽動(せんどう)スルコトヲ得ス
一 労務ノ条件又ハ報酬ニ関シ協同ノ行動ヲ為(な)スヘキ団結ニ加入セシメ又ハ其ノ加入ヲ妨クルコト
二 同盟解雇若ハ同盟罷業ヲ遂行スルカ為使用者ヲシテ労務者ヲ解雇セシメ若ハ労務ニ従事スルノ申込ヲ拒絶セシメ又ハ労務者ヲシテ労務ヲ停廃セシメ若ハ労務者トシテ雇傭(こよう)スルノ申込ヲ拒絶セシムルコト
三 労務ノ条件又ハ報酬ニ関シ相手方ノ承諾ヲ強ユルコト
〔2〕耕作ノ目的ニ出ツル土地賃貸借ノ条件ニ関シ承諾ヲ強ユルカ為相手方ニ対シ暴行、脅迫シ若ハ公然誹毀スルコトヲ得ス
(『旧法令集』による)
集会、デモ、結社などの形態による市民の政治活動を規制し、また、労働・農民運動の抑圧を目的として、1900年(明治33)に制定された法律。その後若干の改正を経たが、1945年(昭和20)11月21日にGHQ(連合国最高司令部)の命令で廃止されるまで存続した。本法は二つの部分からなっている。
第一の政治活動規制部分は、自由民権運動抑圧のために1880年(明治13)に制定された集会条例をその起源としており、たびたびの改正を経て本法に至った。その内容は以下のようなものである。〔1〕政治集会の開催、政治結社の結成の場合には届出が義務づけられ、当局は「安寧秩序ヲ保持スル為(ため)必要ナル」場合は、自由にこれら集会や結社を禁止・解散させることができた(1~4条・8条)。このため社会主義を標榜(ひょうぼう)する結社などは事実上合法的活動を禁止された。社会民主党(1901)、日本社会主義同盟(1921)に対する結社禁止処分、また三・一五事件を契機とした1928年(昭和3)の労働農民党、日本労働組合評議会などの結社禁止がその代表的例である。また秘密結社も禁止された(14条)。〔2〕軍人、警察官、宗教者、教師、学生などは政治結社に入ることを禁ぜられ、また未成年者と並んで女子は結社ばかりか、集会に参加することも禁ぜられた(5条)。この差別に対しては反対運動が繰り返され、1922年(大正11)ようやく女子の政治集会参加禁止だけは削除された。〔3〕ほかにも集会での発言に対する制限や、警察官の監視などが規定されている。
本法の第二の部分は、労働・農民運動規制である(17条)。この部分はとりわけ、制定当時ようやく台頭し始めた労働者の運動を萌芽(ほうが)のうちに抑圧しようと、本法で初めて登場した。第17条は労働者などの団結や争議行為そのものを禁止してはいないが、そのために「他人ニ対シテ暴行、脅迫」などをすること、とりわけストライキのために「他人ヲ誘惑若(もしく)ハ煽動(せんどう)スルコト」を処罰することにより事実上それらを禁止するものであった。そのため、労働者からは、この第17条廃止の要求が強く、とりわけ第一次世界大戦以降の強い運動により適用の制限がなされるようになり、1926年ついに同条は削除された。
[渡辺 治]
集会・結社・言論の自由の制限と社会・労働運動の取締りなどを目的とした治安立法。日清戦争後,日本資本主義の発展とともに労働運動は黎明(れいめい)期を迎え,労働組合期成会の結成(1897)を起点に労働組合運動の発足と争議の多発化,社会主義研究会の結成(1898)による社会主義の普及が始まった。明治政府は自由民権運動抑圧に用いた刑法270条や集会及政社法,治罪法などでは事態に対応できないと考え,新たな治安立法を作成し1900年3月に公布した。それは政事に関する結社,集会の届出制(1,2条),屋外の多衆運動の届出制(3条),軍人,警官,女子などの政事結社加入の禁止,女子の政談集会への参加の禁止(5条,この項は1922年に削除),警官による集会の禁止権と内務大臣の結社禁止権(8条),集会言論の諸制限(10,11,12,13,16条),秘密結社の禁止(14条),と各処罰等を規定していた。最も重要な条項は17条で労働組合への加入,争議行為,団体交渉に関連する暴行・脅迫,それらの誘惑・煽動さらに小作争議の禁止が規定されていた。これらの犯罪は労使双方を処罰することとし,いちおう公平を装っているが,労働者農民の抑圧を目的としていたことは明白である。17条に違反した者は1ヵ月以上6ヵ月以下の重禁錮に処し,3円以上の罰金を付加する(30条)という重科であった。この17,30条は1926年に削除された。
治安警察法は1900年6月に公布された行政執行法とともに早速その威力を発揮し,11月の鉄工組合争議の弾圧を手始めとして労働組合運動抑圧の武器となった。さらに社会主義研究会から社会主義協会の結成へと進んだ社会主義運動が01年5月,日本最初の社会主義政党である社会民主党を創立するや,警視庁は8条によって即日解散を命じ,以降社会主義政党抑圧の武器ともなった。25年治安維持法が制定されるとその役割を譲ったが,45年11月ポツダム勅令第63号によって廃止されるまで存続した。
執筆者:橋本 哲哉
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第2次大戦前において集会・結社や社会運動・労働運動を取り締まった法律。日清戦争後の労働運動の高まりに対処するため,1900年(明治33)2月,第2次山県(やまがた)内閣の第14議会で成立,集会及政社法の廃止に代わって翌年3月公布・施行された。全33条。政治結社・集会の届出義務,現役軍人・警官・僧侶・神官・教員・女子・未成年者の政治結社加入禁止,女子・未成年者の政談集会への参加禁止,警官の集会解散権と内務大臣の結社禁止権,争議行為の煽動(せんどう)禁止などを定めている。01年社会民主党が結党早々治安警察法により禁止された。女子の政治活動や労働争議への参加の抑圧に反対運動が高まり,22年(大正11)女子の政談集会禁止条項が,26年には争議煽動禁止条項が削除された。治安維持法とともに社会・労働運動の取締りに威力を発揮したが,第2次大戦後の45年(昭和20)11月,GHQの指示にもとづき廃止された。
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…政府は女性の政治活動を禁じたのである。 第1次大戦が終結し,国内にはデモクラシーの高まりがみられ,国外では先進諸国で婦人参政権が実現しつつあるという状況のなかで,平塚らいてう,市川房枝は1919年,〈新婦人協会〉の結成を発表し,奥むめおは治安警察法第5条の修正を求める請願を第42帝国議会に提出。1900年に公布された治安警察法は,集会及政社法を引き継いだもので,第5条では,女性の政治結社への加入,政談集会への出席,その発起人になることを禁じた。…
…また統治機構を社会関係・階級関係に結びつける機構の法的保障として,1899年の農会法,1900年の産業組合法,1902年の商業会議所法などがある。これと対応して,一方では1900年の治安警察法,行政執行法など治安立法が,他方では1911年の工場法(1916施行)などの社会政策立法が展開された。(4)第4期は,確立した法体制が動揺と再編成を迫られた時期であり,最初の本格的な政党内閣としての原敬内閣の成立をみた1918年から31年の満州事変の発生に至る。…
※「治安警察法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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