綾羅木郷遺跡(読み)あやらぎごういせき

国指定史跡ガイド 「綾羅木郷遺跡」の解説

あやらぎごういせき【綾羅木郷遺跡】


山口県下関市綾羅木にある弥生時代前期~中期の集落跡。響(ひびき)灘の海岸から東へ約250mにあり、綾羅木郷台地下層の珪砂(けいしゃ)の採掘によって遺跡の南半分が破壊されたため、北半分だけが1969年(昭和44)に国の指定史跡になり、遺跡の保存と産業開発の問題が議論された経緯がある。この遺跡の特徴は、1000基を超える貯蔵穴とこれらを取り囲む環濠にある。環濠は4ヵ所で確認され、断面がV字状で幅2m以上、深さ約3mという大規模なもので、これまでの調査では台地上に住居跡は見つかっていない。貯蔵用竪穴(たてあな)からは米や麦などの穀物、イチイガシや桃、栗などの種子が炭化した状態で発見され、イノシシやシカ、タヌキ、クジラなどの獣骨、マダイハマグリシジミ、サザエなどの魚介類など食料の残滓(ざんし)も発掘されている。土製品は2000点を超え、大型の甕(かめ)や壺、土錘(どすい)、紡錘車(糸つむぎ器具)、陶塤(とうけん)と呼ばれる卵形の土笛、人面土偶などがある。石器も多く、農具、武具、漁具、装身具などがある。金属器には鎌や刀子などがあげられる。弥生時代前期の西日本特有の特徴を持ち、出土品はその時代の文化複合様子を推定するうえで重要な資料となっている。隣接する下関市立考古博物館では、出土品の展示ばかりでなく、定期的に一般教養講座や土笛や勾玉(まがたま)作りの体験教室も行っている。JR山陰本線梶栗郷台地(かじくりごうだいち)駅」から徒歩約5分。

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改訂新版 世界大百科事典 「綾羅木郷遺跡」の意味・わかりやすい解説

綾羅木郷遺跡 (あやらぎごういせき)

山口県下関市大字綾羅木にある弥生時代の遺跡。響灘に面する海岸より東約250m,比高10m内外の洪積台地上に位置する。範囲は東西・南北とも約500m。1900年頃,その北東の一角で土器などが発見され,56年の発掘,60-70年の緊急発掘調査により,911にのぼる弥生時代の貯蔵用竪穴と数条の溝が見いだされた。竪穴は前期前半および中期初頭のもの若干を含むが,大多数は前期後半に属し,その頃の人口急増を示す。中期中葉以後の遺構・遺物は全くなく,集落の廃絶を示す。出土した土器の量はおびただしく,山口県西部における弥生前期の土器型式の基準となっている。伴出品として2個の塤(けん)(土笛)がある。古墳時代に入って居住は再開し,台地北西部には小規模な前方後円墳も営まれた。なお,台地の洪積層中から数点の旧石器が採集されている。遺跡南半部は土砂採掘によって破壊され,北半部のみ史跡として保存されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「綾羅木郷遺跡」の意味・わかりやすい解説

綾羅木郷遺跡
あやらぎごういせき

山口県下関市綾羅木町の郷台地にある弥生(やよい)時代の集落址(し)。綾羅木古砂丘とよばれる標高8~13メートルの洪積世台地にある。北西方の高い地域(標高16メートル)に、若宮(わかみや)古墳とよばれる前方後円墳がある。1965年(昭和40)から調査され、数百を超える弥生時代の貯蔵穴群が、この古墳地区の東方、標高8~13メートルの台地上に密集的に分布していた。土器からみると、弥生前期から中期に及ぶ時期のものである。多量のイネの籾(もみ)(日本型)のほかにムギ、アズキが出土している。精神生活をうかがいうるものとして、陶塤(とうけん)(土製の卵形の笛)のほかに男性シンボルとしての石根、女性シンボルを刻した凹石が少なからず出土している。台地の一部に再葬骨を納めたとみられる納骨所がみいだされているが、郷台地弥生人の最盛期の墓域の一部としては遺跡北方の梶栗浜(かじくりはま)の葬地が考えられる。1969年国の史跡に指定。

[國分直一]


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百科事典マイペディア 「綾羅木郷遺跡」の意味・わかりやすい解説

綾羅木郷遺跡【あやらぎごういせき】

下関市西部,綾羅木にある弥生(やよい)時代の遺跡(史跡)。綾羅木川北岸の洪積台地に位置し,貯蔵用の竪(たて)穴が900基以上発掘された。打製石鏃(せきぞく),磨製石鏃,磨製石斧(せきふ),石庖丁,土製紡錘車,弥生土器,土笛などが出土。柱穴遺構もある。

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