〈哲学者の石〉ともいう。賢者・哲学者はともに錬金術師の意。錬金作業の最終段階で析出すべき概して赤色粉末状の物質で,卑金属を金に変え,金の量を無限に増やすなどの変成能力をもつとされた。また人間を若返らせ病気を癒す万能薬ともみなされた。具体的物質というより,自然の根底に潜む精髄を凝縮した比喩的実体である。原物質prima materiaが混沌状態で含む四大(土,水,火,空気)を,〈賢者の石〉は精錬,純化した形で含んでいる。したがってそれは大宇宙に対する小宇宙であり,万物の生命を蔵する種子として,根源的な作用力をもつ。物質と肉体と魂に同時に働きかけてこれを治癒し向上させる救済力の象徴として,種々の図像で表された。
→錬金術
執筆者:有田 忠郎
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錬金術においてもっとも重要な役割を演じた空想的産物。ギリシア語でlithos tēs philosophiasといい、たぶん1世紀ごろに考え出された。以後、錬金術作業では卑金属(銅・鉄・鉛・錫(すず))から貴金属(金・銀)をつくる際の最高の動因であり霊薬であるとされた。またこの石はすべての病気を治し、長命を保つとされた。この石についての記述は、固くて暗赤色、ケシの花のような色、ざくろ石のような色、光り輝く黄色など、学者によってまちまちである。賢者の石の製造法や作用に関しては、実験に基づくものではなく、技術的な価値もない。単なる詐欺師的な錬金術師たちの思索の産物にすぎない。なお、この石と同じ働きをするものとして、エリキサ、第五元素などの名称も使われた。
[平田 寛]
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…〈精〉について記述した《エメラルド碑板》という作者不明の短い文書も見逃すわけにはいかない。〈上のものは下のもの,下のものは上のもの……〉という謎めいたアラビア語で書かれた完全無欠な〈精〉は,ヘルメス・トリスメギストスの教えるものであり,錬金術師は,この〈精〉を〈賢者の石(哲学者の石)〉〈凝固したプネウマ〉としてとり出すことを願った。これがまたアリストテレス以来の第五元素の観念と結びつくことになる。…
※「賢者の石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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