アメリカ、ソ連、イギリス3国が1963年8月5日にモスクワで調印した「大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約」(PTBT)の略称(1963年10月10日発効)。2010年1月時点での締約国は125か国、ほかに署名のみの未批准国11か国。「部分的」というのは禁止対象から地下核実験が除外されているからである。地下実験は、当時の地震波による探知技術では自然地震と区別がむずかしく探知不能、したがって禁止できないというのがその理由であった。1954年のビキニ水爆実験を契機に放射能汚染への懸念から、核実験禁止を求める世論が世界的に高まり、国際的な交渉課題となった。1962年のキューバ危機で核戦争の瀬戸際を経験した米ソは、すでに交渉で細部まで詰めていたこの問題を取り上げ、緊張緩和への足がかりとして双方が規制したくない地下実験を除いて合意した。米ソにとっては技術的に地下核実験が可能になっていたから、この条約は核兵器開発の支障にならなかった。逆にこれ以降本格的に核兵器開発に乗り出そうとする国にとっては、この条約に加盟することは核兵器開発そのものを禁止されるに等しかった。当時、最初から地下実験を行うことは技術的に困難だったからである。この意味でPTBTには核拡散防止のねらいも含まれており、核開発で後発のフランス、中国は加盟しなかった。当初この条約を核時代最初の核兵器にかかわる取り決めとして核軍縮への第一歩になると受け取った人々は、この条約を歓迎した。しかしその後も核実験の回数は増え、核軍備競争もむしろ激化した。このため軍縮への期待はより大きな失望となり、条約に対する批判が高まった。ただ、この条約が第1条に将来の目標として包括的な核実験禁止を掲げたことには大きな意味があった。地下を含むすべての核実験が禁止されれば核開発に歯止めがかかるからで、これ以後核軍縮へのステップとして、核兵器国には包括的核実験禁止が求められるようになったのである。しかしその歩みは冷戦期には遅々としていた。PTBT調印からおよそ10年後、米ソは地下核実験制限条約(TTBT、1974年7月3日)、続いて平和目的地下核爆発制限条約(PNET、1976年5月28日)に調印した(発効はいずれも1990年12月10日)。前者は爆発威力150キロトン以上の核兵器の地下実験を禁止し、後者は同規模以上の平和目的と称する核爆発を禁止している。ただし150キロトンという爆発威力は核弾頭が小型化しつつあった当時では非常に高い上限であり、ほとんど制限を意味しなかった。両条約調印後、米ソは1977年から包括的核実験禁止条約(CTBT)の交渉を開始したが、それが条約案として合意されたのはおよそ20年後、冷戦が終結した後の1996年であった。この条約は宇宙、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間における核兵器実験、その他の核爆発を禁止する。2010年5月時点で、署名国182、批准国は153か国に達するものの、条約は発効していない。それはこの条約の発効条件がジュネーブの軍縮会議構成国のうち国際原子力機関(IAEA)「世界の動力用原子炉」表に掲載された44か国すべての批准、という厳しいものになっているからである。CTBTは途上国を含む核開発能力をもつ多くの諸国が相互に核実験を牽制(けんせい)、抑制しあうという性格が強い。発効要件国のうち、署名のみで批准していないのがアメリカ、中国、インドネシア、エジプト、イラン、イスラエル、未署名国は北朝鮮、インド、パキスタンで、批准国は35か国にとどまる。とくに中東、南アジアの安全保障環境の改善がなければ当面発効の展望は開けない。
[納家政嗣]
『黒澤満編著『軍縮問題入門』新版(2005・東信堂)』▽『浅田正彦・戸崎洋史編『核軍縮不拡散の法と政治』(2008・信山社出版)』
大気圏内,宇宙空間および水中における核兵器実験を禁止する条約。核実験禁止交渉の成果として生まれた条約で,地下以外の核爆発を禁止した。1963年,米英ソが調印して発効。地下実験を禁止していないため核兵器の開発防止効果は少ない。2003年現在の当事国(批准未了国を含む)は,およそ130カ国。新たにこれを強化し,すべての核実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)が,1996年に国連総会で採択されている。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
(坂本義和 東京大学名誉教授 / 中村研一 北海道大学教授 / 2007年)
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