一般に花は開花した後,受粉,受精し実と種子になるが,中には閉じたまま自家受粉し実となるものがあり,このような花を閉鎖花という。閉鎖花の要因は不明だが,環境条件の悪化に対する適応性をもつものと思われる。スミレ類には美しく開花する花と,白っぽく小さい閉鎖花とがある。この閉鎖花の萼の中では花弁は小さくなり,おしべは5本のうち2本だけが発達し,しかも葯はめしべの柱頭に密着していて,確実に受粉され,ほとんどすべての閉鎖花が実になり,正常な花より結果率もよい。萼は閉じたままなので,他の花の花粉が入ることもない。スミレ類やコミヤマカタバミでは春は正常な花がつき,日の長さが長くなってから閉鎖花をつける。キツリフネの閉鎖花は,逆に春につくられ,夏は正常な花がつく。水田,溝などにはえるミゾハコベは水上に出た部分に正常な花がつくが,全体が水につかってしまうと閉鎖花ができるという。ミゾソバやヤブマメの場合は,閉鎖花は土の中につくられる。
執筆者:福岡 誠行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
花被(かひ)片が開かず、つぼみのまま自家受粉・自家受精し、結実に至る花をいう。一般に花の各部分は退化し、雄蕊(ゆうずい)(雄しべ)や雌蕊(雌しべ)の数も少なく、また、それらの中につくられる花粉や胚珠(はいしゅ)の数も少ない。普通、雄蕊の葯(やく)と雌蕊の柱頭は接近し、葯は裂開せず、花粉は葯の中で発芽する。花粉管は葯壁を破って伸長し、柱頭から雌蕊の中に入って受精する。
閉鎖花は自家受粉のために特殊化した花であるが、正常花との間にはさまざまな段階が認められる。シロカネソウ属、カタバミ属、スミレ属などの被子植物に広くみられるが、なかには、春には正常花をつけ、夏になると閉鎖花を形成するものも多い。バイカモ(池や小川に生える水草)では、花は水面に出て開くが、水かさが増すと花は水中にあって開花せず、閉鎖花となって受粉・受精する。
[田村道夫]
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