精選版 日本国語大辞典 「チオシアン酸」の意味・読み・例文・類語
チオシアン‐さん【チオシアン酸】
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H-S-C≡Nという構造をもつ化合物。ロダン酸rhodanic acidとも呼ばれる。遊離酸としてはイソチオシアン酸S=C=N-Hも考えられるが,前記の構造であろうとされている。常温で無色の気体で,刺激臭がある。遊離の酸は不安定で分解しやすいが,薄い水溶液は0℃において比較的安定である。水溶液は強い一塩基酸となる。チオシアン酸カリウムに硫酸水素カリウムを作用させると得られる。塩類は安定で多くの種類が知られている。また,チオシアン酸のエステルに相当するものとして,有機チオシアン化物R-SCNも存在する。
化学式KSCN。融点172.3℃の無色の結晶。潮解性があり水によく溶ける。シアン化カリウムと硫黄を混ぜて熱するか,またはチオシアン酸アンモニウム水溶液に水酸化カリウムを作用させると得られる。染料や医薬品の製造原料として用いられる。
化学式NH4SCN。融点149.6℃の無色の結晶。二硫化炭素とアンモニアから工業的に製造されている。Fe3⁺イオンの検出(弱酸性溶液中で鉄(Ⅲ)塩により赤色を呈する)や銀の容量分析など,分析試薬として使うことが多い。
水銀(Ⅰ)塩Hg2(SCN)2は光や熱に対して不安定で分解しやすい無色の結晶。水銀(Ⅱ)塩Hg(SCN)2は165℃で分解する針状結晶。水にかなり溶けにくいが,過剰のSCN⁻イオンが存在すると[Hg(SCN)3]⁻,[Hg(SCN)4]2⁻型の錯イオンを形成して溶けるようになる。熱で分解する際に体積が著しく膨張する。この性質を利用して花火やおもちゃに使われる。
執筆者:小林 啓二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
シアン酸HOCNの硫黄置換体である。化学式HSCN。式量59.1。チオシアン酸水素HSCNおよびその水溶液をこのようによぶ。細粉にして乾燥したチオシアン酸カリウムと硫酸水素カリウムを反応させ、発生する気体を冷却するとチオシアン酸水素が得られ、これを水に溶解するとチオシアン酸が得られる。俗称ロダン酸rhodanic acid、硫青酸。天然にはタマネギなどに遊離の酸として存在し、塩やエステルとしても広く存在する。チオシアン酸水素は融点-110℃の物質であるが、-90℃~-85℃で重合して無色の結晶性物質となっている。室温では分解して暗赤色となる。チオシアン酸とイソチオシアン酸HNCSの互変異性が可能で、気相や四塩化炭素溶液では後者が存在する。RSCNとRNCS(Rはアルキル基)のエステルが知られる。水にはよく溶け、強い一塩基酸。希薄水溶液は安定で、直線形のチオシアン酸イオンSCN-を生じている。チオシアン酸イオンは鉄(Ⅲ)イオンにより血赤色を呈し、確認試験に用いられる。チオシアン酸イオンが配位した金属錯体が多数知られている。カリウム塩はシアン化物を硫黄(いおう)と融解して得られる。銀塩は水に難溶。
[守永健一・中原勝儼]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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