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エステル ester

翻訳|ester

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

エステル
ester

有機酸または無機酸アルコールから水がとれてできる形の化合物総称。低級脂肪酸と低級アルコールのエステルは芳香があり,人工果実エッセンスの原料や有機溶媒に使われる。二塩基酸以上のエステルには,酸のカルボキシル基すべてがエステル化された中性のエステルと,カルボキシル基が1つ以上残っている酸性エステルとがある。高級脂肪酸とグリセリンのエステルは油脂と呼ばれる。エステルを加水分解すると酸とアルコールになる。無機酸のエステルは有機酸エステルと比べて製法,性質が異なる。そのうち硫酸と高級アルコールのエステルは界面活性剤として使われる。

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栄養・生化学辞典の解説

エステル

 酸とアルコールが脱水縮合した化合物の総称.

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世界大百科事典 第2版の解説

エステル【Esther】

旧約聖書の中の5巻(メギロート)に属する歴史小説《エステル記Book of Esther》の女主人公。物語のできごとはペルシア王クセルクセスのスーサの宮廷で起こった。ユダヤ人であるモルデカイの養女エステルは,その美しさのゆえに王妃ワシテに代わって王妃とされる。一方モルデカイは大臣ハマンに対して敬礼を拒否し,これを怒ったハマンはユダヤ人を迫害する詔勅を獲得する。その日付はくじ(プル)によってアダルの月(太陽暦の2~3月)の13日と決まる。

エステル【ester】

アルコールやフェノールが有機酸および無機酸と脱水縮合してできる化合物の総称で,その構成成分によって分類される。 1848年にドイツの化学者L.グメリンが酢酸エチルのことをEssigäther(Essig(酢)+Äther)と名づけたのがエステルの名のはじまりである。二塩基酸以上の酸のエステルには中性エステルと酸性エステルが存在する。たとえば,硫酸のエステルにR2SO4(中性)とROSO3H(酸性)の2種類がある。

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大辞林 第三版の解説

エステル【ester】

酸とアルコールとから水がとれてできる化合物の総称。普通、カルボン酸のエステルをさす。比較的分子量の小さいエステルは、芳香をもつものが多く、人工果実香料の原料となる。脂肪酸とグリセリンとのエステル(グリセリド)は、油脂として動植物に広く存在する。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

エステル
えすてる
ester

有機酸または無機酸とアルコール(またはフェノール)が1分子の水を失って縮合した形の化合物の総称。エステルは、母体となる酸の名前を前にして、アルコールのヒドロキシ基を取り除いた部分のアルキル基名をそれに続けて記すことにより命名される。たとえばCH3COOC2H5は酢酸+エチル(基)で「酢酸エチル」、PO(OCH2CH2CH2CH3)3はリン酸+三つ(トリ)のブチル(基)で「リン酸トリメチル」と命名する。エステルは表1のように酸の種類によって分類することができるほか、アルコールのエステルかフェノールのエステルかによっても区別される。したがってエステルの種類は非常に多い。なお塩酸HClや臭化水素酸HBrのエステルにあたる化合物はハロゲン化アルキル(RX。Xはハロゲン、すなわちフッ素F、塩素Cl、臭素Br、ヨウ素I)とよばれていて、普通はエステルには含めない。単にエステルという場合には、狭い意味でカルボキシ基(カルボキシル基)-COOHをもつ有機化合物であるカルボン酸のエステルのみをさす場合が多い。
 また、酸が多塩基酸である場合には、酸性水素の一部だけがエステルになった酸性エステルと、すべての酸性水素がエステルになった中性エステルとがある。
[廣田 穰・末沢裕子]

カルボン酸エステル

カルボン酸のカルボキシ基とアルコールまたはフェノールのヒドロキシ基-OHが1分子の水を失って縮合した形の化合物である。
 アルコールのエステルは、カルボン酸とアルコールを硫酸などの強酸の存在下において脱水縮合させてつくることができる。たとえば、酢酸エチルは酢酸とエタノール(エチルアルコール)から次の反応でつくることができる。

 カルボン酸やアルコールは天然にはエステルの形で存在する場合が多い。比較的分子量が小さい炭素数の少ない低級カルボン酸エステルは、一般に芳香をもっていて植物の精油中の芳香成分として知られている。また高級脂肪酸のグリセリンエステルは油脂や脂肪の成分として広く動植物体内に含まれていて、グリセリドとよばれている。[廣田 穰・末沢裕子]

製法

エステルを合成する反応をエステル化とよんでいる。普通のアルコールとカルボン酸からエステルをつくるには、カルボン酸の量に比べてかなり多い量のアルコールをカルボン酸と混ぜて、これに少量の硫酸を加えるか、または塩化水素を吹き込み加熱する。フェノールのエステルは、カルボン酸とフェノールの反応では得られず、カルボン酸無水物またはカルボン酸塩化物とフェノールとを反応させると得られる。[廣田 穰・末沢裕子]

性質

中性エステルは、一般に芳香のある液体で、炭素数の少ない低級のものは揮発性が大きい。水には溶けにくいが、アルコール、アセトンなどの有機溶媒によく溶ける。炭素数の多い高級カルボン酸や高級アルコールのエステルは固体である。エステルの沸点は、カルボン酸部分が同じであればアルコールのアルキル鎖が長くなるにしたがって高くなり、アルコール部分が同じであればカルボン酸の鎖が長くなるにしたがって高くなる。
 エステルの反応としてもっとも重要なのは加水分解である。この反応はエステル化の逆反応で、エステルからカルボン酸とアルコールとを生成する。エステル化と同じように硫酸、塩酸などの強酸を触媒としても進行するが、水酸化ナトリウムなどの塩基を反応させるほうが反応は速く進む。

 水酸化ナトリウム水溶液での加水分解では、カルボン酸のナトリウム塩ができるので、カルボン酸を得るには塩酸などを加えて酸性にする。

 さらにエステルとアンモニアとの反応によりアミドを生成するアンモノリシス反応も知られている。
 エステルは水素化アルミニウムリチウム、金属ナトリウムとアルコール、銅‐酸化クロム触媒を用いた水素化により、アシル基RCO-部分が第一アルコールRCH2OHに還元される。Rは炭化水素基である。この反応の例を示すと、次のようになる。

 ここまで主として一塩基酸(モノカルボン酸)と一価アルコールのエステルについて述べてきたが、多塩基酸や多価アルコールのエステルも数多く知られている。これらのうちで、三価アルコールであるグリセリン(グリセロール)と高級脂肪酸のエステルは脂肪および油脂の成分として広く動植物界に分布しているので重要である。また「テトロン」などの商標名で市販されている合成繊維も、二塩基酸であるテレフタル酸と二価アルコールであるエチレングリコールがエステルとなって鎖状に連なった構造で、ポリエステル繊維とよばれている。
 分子内にアルコールのヒドロキシ基とカルボキシ基の両方をもつヒドロキシ酸では、両方の置換基が適当な位置にあると、分子内でエステル化をおこして環状のエステルをつくる。このような分子内環状エステルをラクトンという。ラクトンはヒドロキシ基がカルボキシ基の炭素から数えて4番目の炭素上にあるカルボン酸の場合にもっとも生成しやすい。[廣田 穰・末沢裕子]

用途

工業上での用途をもつエステルとしては、先に述べた油脂のほかに香料として食品、化粧品、せっけんなどに添加されているエステル、さらにはポリエステル繊維、ポリエステル樹脂がある。このほかに合成樹脂の原料となる酢酸ビニル、メタクリル酸メチルなどの単量体、可塑剤となるフタル酸エステル、溶剤として使われる酢酸エチル、酢酸アミルなどの低級エステルをあげることができる。[廣田 穰・末沢裕子]

風味

エステルの一部は香料として加工食品や菓子作りに用いられる。また、天然にはバナナ、リンゴなど多くの果物の芳香成分として存在し、風味の大きな役目をもつ。しょうゆ、酒などの醸造品にも芳香成分として含まれ、料理の風味づけに役だつ。エステルは蒸発しやすく、加熱調理の際、蒸発し、香りが失われやすい(表2)。[河野友美・山口米子]

無機酸エステル

「エステル」という用語は、狭い意味ではカルボン酸エステルをさすことが多いが、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸もアルコールやフェノールとエステルをつくる。これらの無機酸のエステルは、カルボン酸エステルなどの有機酸エステルに対して、無機酸エステルと総称される。
(1)硫酸エステル 硫酸H2SO4とアルコールとのエステルであり、硫酸の水素原子をアルキル基(一般式CnH2n+1)で置き換えた構造をもっている。硫酸は二塩基酸であるので、水素が一つだけアルキル基で置換され、まだ酸性の水素が残っている酸性エステルRSO4Hと、水素が2原子ともアルキル基で置換された中性エステルR2SO4とがある。
 中性エステルである硫酸ジアルキルは硫酸とアルコールとの反応では少量しか生成しない。

したがって、硫酸エステルを合成するには塩化スルフリルSO2Cl2とナトリウムアルコキシド(たとえばC2H5ONa)との反応を用いるほうがよい。工業的には、硫酸をアルケンに付加させてつくっている。

硫酸ジメチルは(CH3)2SO4の式で表される無色の重い液体で、メチル化剤として重要である。この化合物はきわめて有毒であり、皮膚につけると壊死(えし)をおこし、死に至ることがある。
 硫酸ジエチル(C2H5)2SO4は硫酸ジメチルに似た無色の液体で、エチル化剤として用いられている。硫酸にエタノールまたはエチレンを溶かすと、液が冷たい場合には、溶かしたエタノールの大部分が酸性エステルの硫酸水素エチル(エチル硫酸ともいう、化学式はHOSO2OC2H5)として存在する。これを加熱して140℃ぐらいの温度にすると、脱水反応がおこってジエチルエーテルC2H5OC2H5を生成し、温度を160℃以上に上げると、さらに脱水が進んでエチレンを生成する。硫酸水素エチルなどの酸性硫酸エステルもアルキル化剤としての作用をもつが、これらを純粋に分け取るのはむずかしい。
(2)リン酸エステル リン酸H3PO4とアルコールとのエステルであり、硫酸の場合と同じように酸の水素が残っている酸性エステルと酸の水素がすべてアルキル基になった中性エステルとがある(リン酸は三塩基酸)。糖のリン酸エステルは生物学的にも重要であり、糖の代謝や多糖類の生合成に関与している。RNA(リボ核酸)やDNA(デオキシリボ核酸)はリボースやデオキシリボースのリン酸エステルが核酸塩基と結合した化学構造をもっている。とくに、核酸塩基アデニンと糖とリン酸が結合しているアデノシン三リン酸(ATP)はエネルギーが高く活性なリン酸エステル結合をもっていて、動物の筋肉収縮など生物体内のエネルギー源となっている。
 工業的に重要なリン酸エステルとしてリン酸トリブチル[CH3(CH2)3O]3PO(略称TBP)とリン酸トリクレシル(CH3C6H4O)3PO(略称TCP)をあげることができる。リン酸トリブチルはナトリウムブトキシドと塩化ホスホリルPOCl3との反応によりつくられ核燃料ウランの精製や核燃料処理の際の抽出溶媒としての用途をもっている。沸点289℃の無色の液体であり、水には溶けにくいが有機溶媒には溶ける。リン酸トリクレシルはポリ塩化ビニルなどの可塑剤として使われている。
 リン酸およびチオリン酸エステルには「有機リン殺虫剤」とよばれて農薬として使われていたものも多かったが、毒性が大きいため、その一部は使用禁止になっている。
(3)硝酸エステル 硝酸HNO3とアルコールのエステルであり、硝酸とアルコールとから1分子の水がとれて縮合して生成する。

 加熱したり衝撃を与えたりすると爆発をおこすものが多く、とくに多価アルコールであるグリコール、グリセリン、セルロースなどの硝酸エステルは爆発力が強いので爆薬として用いられている。
 硝酸メチルCH3ONO2は無色の液体で、爆薬やロケット用燃料としてドイツで使われたが、蒸気圧が高い欠点がある。硝酸エチルは沸点87.5~87.7℃の液体で硝酸メチルと同様に爆発性が強い。
(4)そのほかのエステル これまで述べたもの以外にも取り上げるべき重要な化合物が二、三ある。その一つは炭酸エステルである。炭酸O=C(OH)2は二塩基酸であるが、酸性エステルROC(O)OHは不安定で存在せず、中性エステルO=C(OR)2(Rは炭化水素基)だけが実在する。炭酸エステルで重要なものは、炭酸エチレンCO(OCH2)2で高分子化合物の溶剤や実験室で炭酸エステルをつくる原料としての用途をもっている。また、炭酸グアヤコールは白色の結晶で殺菌剤、去痰(きょたん)剤として医薬の用途をもっている。
 また、カルバミン酸H2NCOOHのエステルであるカルバミン酸エステルH2NCOORは、別名ウレタンとよばれ、エチルエステル(カルバミン酸エチルH2NCO2CH3CH2)は催眠作用がある。合成繊維や合成ゴムなどに使われるポリウレタンは置換カルバミン酸エステル構造が鎖状に連なって高分子になっている。

 さらに亜硝酸HNO2のエステルはR-O-N=Oの一般式で表され、ニトロ化合物

の異性体である。亜硝酸エチルCH3CH2ONOはエタノールに亜硝酸ナトリウム水溶液と硫酸とを反応させると得られる黄色の液体で血管拡張薬として用いられる。亜硝酸イソアミル(CH3)2CHCH2CH2ONOも同様の方法で合成できる淡黄色の液体で、やはり血管拡張薬として狭心症などに用いられるほか、ニトロソ化合物やオキシムを合成する際のニトロソ化剤としての用途をもつ。[廣田 穰・末沢裕子]
『小竹無二雄監修『大有機化学4 脂肪族化合物3』(1959・朝倉書店)』

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