アメリカの物理学者。9月10日オハイオ州ウースターに生まれる。ウースター・カレッジ(父エリアス・コンプトンElias Compton(1856―?)が哲学教授で学長であった)、プリンストン大学大学院で学び、ミネソタ大学物理学講師、ウェスティングハウス研究所研究員を経て、国立研究会議研究員としてケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所のラザフォードのもとで研究(1919~1920)。1920年セントルイスのワシントン大学の物理学教授となり、X線散乱現象を研究。1922年「コンプトン効果」を発見、A・アインシュタインの光量子仮説を土台として理論的解明に成功、有名なコンプトン散乱式を与えた。これは、X線の粒子性を明示するとともに、1920年代後半以降に展開、形成された今日の量子力学理論の実験的基礎の一つとなるものである。コンプトン効果の発見により1927年、35歳でノーベル物理学賞を受賞した。
1923年シカゴ大学物理学教授となり、物理学科主任、理学部長を務め、X線の全反射、偏光現象を研究、電子密度・電子電荷の精密な決定などを行った。また宇宙線の研究に従事、「緯度効果」を明らかにし、宇宙線と地球磁場との相互作用の研究の契機をつくった。この間、アメリカ物理学会、アメリカ科学者協会などの会長を歴任した。1941年原子爆弾計画を進める科学研究開発局の科学部門責任者となり、1942~1945年マンハッタン計画のもとに、フェルミらと共同してシカゴ大学「冶金(やきん)研究所」(機密保持のための暗号名。コンプトンが所長)における核分裂原子炉開発、およびハンフォードのプルトニウム生産原子炉(長崎原爆のプルトニウムを製造)建設の統括指導にあたり、原子爆弾の開発に尽力した。また対日原爆使用についての政府決定に兄のテーラーKarl Taylar(1887―1954)(MIT学長)とともに参画した。以上のことは、広島、長崎の凄惨(せいさん)な結果と、今日の核戦争の危険を考えるとき、科学者の社会的責任について、人類の将来にかかわる根源的問題を提起する。
第二次世界大戦後、ワシントン大学総長(1945~1953)としてセントルイスに戻り、自然哲学の特別名誉教授を務め(1953~1961)、多くの学会や委員会に奉仕した。1962年3月15日カリフォルニア州バークリーで死去。
[大友詔雄]
『A・H・コンプトン著、仲晃他訳『原子の探求』(1959・法政大学出版局)』▽『中村誠太郎・小沼通二編『ノーベル賞講演物理学4』(1979・講談社)』
アメリカの物理学者。オハイオ州ウースターの生れ。ウースター・カレッジを卒業後,プリンストン大学大学院に学ぶ。ウェスティングハウス社にいた1918年からX線散乱の研究を始め,19年イギリスのキャベンディシュ研究所にわたりγ線散乱の研究をした。20年,帰国してセントルイスのワシントン大学の物理学教授となり,単色X線を使用して再びX線散乱の実験を開始した。彼は散乱X線の波長が散乱角に依存して規則正しく変化すること,すなわち散乱角の増大に伴って散乱X線の波長が長くなることを発見,22年,散乱γ線の現象とともにこの散乱X線の現象(コンプトン効果と呼ばれる)を量子論的に解明した。X線がX線量子としてエネルギーと一定方向の運動量を運ぶ実体であることを見いだしたこの発見によって,光の粒子説は確証された。この功績により,27年にノーベル物理学賞を受賞。
その後は宇宙線の研究を行い,宇宙線の強度に対する緯度効果を明らかにした。また第2次世界大戦中は原子爆弾製造計画の指導的地位にあった。
執筆者:日野川 静枝
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… 一方,X線の発見およびその研究は物理学の進歩に大きな波及効果を及ぼした。例えば,X線の発見に刺激を受けたA.H.ベクレルは,蛍光物質の中にはX線を放射するものがあるのではないかと考え,種々の物質を用いての実験を行ったが,1896年ウラン塩からX線とは異なる放射線が出ていることを発見しているし,また1922年,A.H.コンプトンによる散乱X線のコンプトン効果の発見は,電磁波(光)の粒子性の直接の証拠となったものとして有名である。
[基本的性質]
X線の最大の特徴は,物質を透過する力(透過能という)が大きく,物質に吸収されにくいことである。…
※「コンプトン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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