アイヌ文化法、アイヌ文化振興法などと略称される。正式名称は「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」で、1997年(平成9)7月1日に施行された。この法律は、第一条の目的から、定義、国及び地方公共団体の責務、施策における配慮、基本方針、基本計画、指定等、業務、事業計画等、報告の徴収および立入検査、改善命令、指定の取消し等、罰則にいたる第十三条および附則からなっている。その第一条には「アイヌの人々の誇りの源泉であるアイヌの伝統及びアイヌ文化が置かれている状況にかんがみ、アイヌ文化の振興ならびにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び知識の啓発を図るための施策を推進することにより、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、あわせて我が国の多様な文化の発展に寄与することを目的とする。」とされている。
つまり、アイヌを日本の法律のうえではじめて民族として認めており、アイヌの人たちが伝統的な文化を持続していくことを国と地方公共団体が保証し、その実行を容易にする施策を講じなければならないとしている。さらに、アイヌだけでなく広く日本国民にアイヌの民族と文化の存在について普及・啓発を行うことを義務づけている。また制定にあたって「アイヌの人々の先住性は歴史的事実」とする付帯決議がなされた。
この法律に基づいた施策を実施する母体となる財団法人「アイヌ文化振興・推進機構」(本部・札幌市)が発足し、事業をはじめた。なかでも注目される事業は、1998年4月から、ラジオでアイヌ語学習(テキストあり)の放送が開始されたことである。しかし放送は、1998年現在、北海道内に限られており、これをふくめた各種普及・啓発事業の全国的展開が望まれる。
この法律の施行によって、1899年(明治32)に制定された「北海道旧土人保護法(旧土法)」とこれに関連する法律は廃止された。すなわち、旧土法は北海道という地域に対する立法であり、その延長線に新法も位置付けられている。しかし、この法律は全国的なアイヌ文化の普及・啓発を推進することをうたっており、これを地方公共団体が活発に行うことによって、新たな法的な展開の余地を残していると思われる。それには、今後、アイヌ自身による方向付けと意思の表明など、具体的な行動によって日本社会の理解を深める必要がある。
[大塚和義]
(2019-4-23)
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…したがって,民族としてのアイヌはすでに滅びたといってよく,厳密にいうならば,彼らは,もはやアイヌではなく,せいぜいアイヌ系日本人とでも称すべきものである〉(平凡社《世界大百科事典》旧版,1955年刊)と記さざるをえなかった。しかし,後述のように,1984年北海道ウタリ協会が〈アイヌ民族に関する法律(案)〉(通称〈アイヌ新法〉)を採択し,政府に〈アイヌ新法〉の制定を求める運動を展開して以来,アイヌ民族の歴史や文化,さらにはアイヌ民族の現状に対する国民の関心がしだいに高まり,こうした状況を大きな背景としてアイヌ民族の歴史や現状に対する認識も大きく変化してきた。したがってここでは〈アイヌ〉を,主として北海道に居住する日本の先住少数民族,と定義しておく。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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