改訂新版 世界大百科事典 「アイルランド音楽」の意味・わかりやすい解説
アイルランド音楽 (アイルランドおんがく)
アイルランドはケルト系の民俗音楽,それも特に民謡が盛んなことで知られる。それには中世初期から17世紀末にいたるバードと呼ばれる歌人の伝統や,17~18世紀にイギリスから導入されたバラッドソングの影響なども考えられるが,現存する実例の大部分は18世紀以後のものである。これら民謡はアイルランド語と英語の2種に分類され,特に前者においては抒情的な恋愛歌が多く,一方,海国でありながら舟唄が見当たらないのが目だつ。その他の民俗音楽の分野としては舞踊が盛んであるが,アイルランド古来のものよりもスコットランドやイギリスから伝えられてアイルランド化したものが多く,特にジーグ,リール,ホーンパイプの人気が高い。楽器の中では特にハープが有名であるが,ほかにフィドルやバッグパイプの一種であるウイレアン・パイプがある。民謡,舞踊とも7音音階(特にハ,ニ,ト,イを主音としたもの)が多く,6音音階や5音音階は意外に少ない。
教会音楽の伝統も古く,はじめはケルト独自の典礼を持ち,聖歌の歌唱も盛んであったらしいが,8世紀以後はベネディクト派の,12世紀以後はイギリス風ローマ典礼の音楽が主流となり,ポリフォニーも盛んに歌われていたらしい。しかし中世後期から18世紀にかけてはイギリス音楽の影響が強く,19世紀に入ってようやくピアノのための夜想曲で有名なフィールドJohn Field(1782-1837),喜歌劇《ボヘミアの少女》の作曲家バルフM.W.Balfe(1808-70),オペラ作曲家ウォーレスV.Wallace(1812-65),広範囲の分野で活躍したスタンフォードC.V.Stanford(1852-1924)らが現れた。今日,ダブリン音楽祭やコーク合唱祭など活発な音楽活動が続けられてはいるものの,現代アイルランド音楽の確立は未来の問題として残されたままとなっている。
執筆者:金沢 正剛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報