翻訳|minstrel
ラテン語のministerium(勤務)あるいはministerialis(勤務する者)から派生したフランス語メネストレルménestrelに由来する語で,中世においては,一般に職業芸人,とくに音楽家を意味した。
11世紀末から南フランスでトルバドゥール,12世紀末からは北フランスでもトルベールと呼ばれ,おもに領主,貴族,騎士などの特権階級に属する詩人兼作曲家たちによって,世俗語による単旋律世俗歌曲がその芸術的開花をみたが,メネストレルは,放浪芸人ジョングルールとは異なり,封建領主,貴族などの一定のパトロンに雇われ,彼らの城館でおのおの得意な楽器を演奏したり,トルバドゥールやトルベールの作品を歌ったり,伴奏したりする人々を指した。彼らは13世紀中ごろからメネトリエmenestrier(現,ménétrier)とも呼ばれ,14世紀に入るとこの呼名が一般化した。メネストレルやメネトリエの実態について今日詳細に知ることはほとんど不可能であるが,14世紀にはメネトリエを中心とした職業音楽家の組合メネストランデーズménestrandaiseが組織され,また定期的な集会が開かれたり,音楽教育を目的とした学校が設立されたという記録がある。
一方イギリスでは,ミンストレルという語をより広い意味で用いることが多く,宮廷歌人バード,ジョングラー(ジョングルール),音楽家以外の軽業師などを含めることもあった。いずれにせよ,イギリスでもフランスの影響下にミンストレルの伝統が成立し,13~15世紀にかけて宮廷や都市を舞台にミンストレルたちが活躍した。
器楽奏者としてミンストレルが演奏した楽器は,フィドル,リュートなどの弦楽器やショーム,バッグパイプ,トランペットなどの管楽器のほか,ハーディ・ガーディやシンバルなど各種の打楽器など多岐に及び,一般にさまざまな楽器を適当にこなしたジョングルールに比べ,各人が得意な楽器を選んで腕に磨きをかける傾向があった。しかし演奏についての詳細にも,ほとんど記譜されることもなく,しばしば即興的に演奏されたであろう楽曲についての詳細にも不明な点が多い。
16世紀になると前述したようなミンストレルの活動はしだいに衰退し,17世紀以後事実上消滅したが,ミンストレルの語は,中世的な意味から拡大されて,広く,またときに理想化されて,音楽家や歌手,詩人に用いられ,一方ではさらに〈ミンストレル・ショー〉におけるような大衆演芸人にも用いられ今日に及んでいる。またフランス語メネトリエは17世紀中葉以降,村々で結婚式などでの余興音楽を受け持つ楽師たち,とくにバイオリン弾きを示す語として用いられた。
執筆者:笠羽 映子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
中世ヨーロッパで活躍した職業音楽家、芸人。フランスではメネストレルménestrelまたはメネストリエménestrierとよばれた。王侯貴族などに抱えられて、とくに騎士歌人らの作品を演奏したと考えられ、特定の楽器の演奏技巧に長(た)けた者が多かった。中世後期には、都市に定着して組合を組織する場合がしばしばみられた。しかし、その実態は地域や時代によって違いがあり、演奏の形態などははっきりとしたことがわかっていない。またイギリスでは、上流の騎士歌人やジョングルール(jongleur主人をもたない職業的芸能人)なども含めてよぶことが多かった。17世紀以後はみられなくなるが、ミンストレルの語は、民衆音楽家という広い意味で用いられ続けた。
[今谷和徳]
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