改訂新版 世界大百科事典 「ユノ」の意味・わかりやすい解説
ユノ
Juno
古代ローマ人の最高の女神。ユピテルの妃。ギリシア神話のゼウスの妃ヘラと同一視された。彼女はもともと女性の結婚生活と密接な関係をもつ女神で,広く女性の崇拝を集めていたが,しだいに職能を発展させ,ついにはレギナRegina(〈女王〉)の称号の下に,ユピテル,ミネルウァと並んでローマ市のカピトリウム丘のユピテル神殿にまつられる国家的大女神となった。結婚の女神としては,ドミドゥカDomiduca(〈花嫁を花婿の家へ導く婦人〉),プロヌバPronuba(〈新婦を新婚部屋へ導く婦人〉),出産の女神としてはルキナLucina(〈子どもを光明の中へ出す女〉)などの呼称があり,一般に6月(彼女の名を冠してユニウスJunius月と呼ばれ,そこから英語のJuneなどが来ている)が結婚の好期とされた。またカピトリウム丘の北側の頂上にある彼女の神殿ではモネタMoneta(〈忠告者〉)と呼ばれたが,のちここに貨幣鋳造所が置かれたため,彼女の称号は貨幣の意となり,英語moneyなどの語源となった。
彼女の祭儀のうち,大祭は旧暦の元日にあたる3月1日のマトロナリアMatronalia祭で,この日,女性たちは奴隷に食事を供し,既婚女性が既婚男性から贈物を受けた。また7月7日のノナエ・カプロティナエNonae Caprotinaeの祭では,婢女たちがイチジクの木の下で石合戦をし,卑わいなことばでお互いをののしりあって遊んだ。たぶん,古い豊穣祈願の儀式のなごりであろう。このほか,女性はみずからの誕生日にユノ・ナタリスJuno Natalis(〈誕生日のユノ〉)に犠牲を捧げる習慣であった。
執筆者:水谷 智洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報