アコウ(英語表記)Ficus superba Miq.var.japonica Miq.

改訂新版 世界大百科事典 「アコウ」の意味・わかりやすい解説

アコウ
Ficus superba Miq.var.japonica Miq.

暖地の海岸に生えるクワ科イチジク属の常緑高木。他樹の上に生育し,気根や枝葉で包んで宿主を絞殺してしまうこともある。高さ20mにも達し,幹や枝から気根を垂らす。葉は全縁で厚く,表面にはつやがあり,常緑であるが,新葉の出る前に一斉に葉の落ちる傾向がある。葉や枝を傷つけると白い乳液が出ること,枝をとり巻いて托葉の落ちた跡があることは,イチジク属の特徴である。雌雄同株。果囊(かのう)は,葉の茂みの下で,古い葉腋(ようえき)に数個ずつ束生する。かなり太い枝につくことも多い。果囊内には雄花と2種類の雌花がある。熟した果囊を割ると,花柱が短く,柄の長い雌花には丸い穴があいていて,中は空であることが多い。これはアコウコバチが寄生していたものである。このコバチが脱出し,若い果囊に産卵に入る時に花粉を媒介する。もう一方の花柱が長く,柄の短い雌花には,花柱が産卵管より長く産卵がうまくいかないため種子ができる。熟した果囊は食べられる。暖帯南部から熱帯,本州(和歌山県,山口県祝島),四国から台湾,中国南部,インドシナ半島からマレー半島にかけて分布し,防潮,防風用として人家のまわりに植えられる。

 同属のガジュマルF.microcarpa L.f.(英名Chinese banyan)も気根を垂らす巨大な常緑樹である。アコウに比べ葉が小型で葉柄が短く,果囊も小型で柄はほとんどない。雌雄同株。防風,防潮用のほか,木陰樹としても利用される。釈尊がその樹の下で悟りを開いたと言われる菩提樹は,日本の寺院に植えられているボダイジュTilia miqueliana Maxim.ではなく,インドボダイジュF.religiosa L.(英名bo-tree)で,気根を垂らす,巨大な雌雄同株のイチジクである。イヌビワF.erecta Thunb.は日本の暖地に普通に生える落葉低木で,果囊は黒く熟して食用になる。イヌビワコバチが受粉に関係する。
イチジク
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アコウ」の意味・わかりやすい解説

アコウ
あこう / 雀榕
[学] Ficus subpisocarpa Gagnep.
Ficus superba (Miq.) Miq. var. japonica Miq.

クワ科(APG分類:クワ科)の常緑高木。アコギともいい、高さ20メートル、径1メートル以上にもなる。幹や枝から気根を垂らす。熱帯、亜熱帯では他樹に半寄生状となり枯らしてしまうこともある。樹皮は灰褐色。葉は互生し、楕円(だえん)ないし長楕円形で長さ10~15センチメートル、薄い革質で全縁、葉柄は約3センチメートル。亜熱帯以南では季節を定めず、一斉に落葉後ただちに新葉を出すことがある。新芽は早落性の托葉(たくよう)に包まれる。隠頭花序は枝上の古い葉腋(ようえき)に束生し、球形で径は約1センチメートル、淡紅色に熟し、柄は1センチメートルほど。和歌山以西の南側の海岸地に生育し、中国南部、インドシナ、タイ、マレー半島にかけて分布する。日よけや防風用に植える。近縁のガジュマルF. microcarpa L.f.も絞殺木。屋久島(やくしま)、種子島(たねがしま)以南、沖縄では石灰岩地によく生え、熱帯アジアからオーストラリア北部にまで分布。幹からアコウより著しい気根を出し、地面に達すると太くなり支柱根となる。葉は革質で光沢があり、倒卵形ないし長楕円形、長さ5~8センチメートル。腋生(えきせい)の隠頭花序は淡黄ないし淡紅色に熟する。日よけや防風用としてはアコウよりじょうぶ。キクラゲを植え付けて栽培する榾木(ほたぎ)に利用する。材は漆器に用いる。名は沖縄の方言による。中国名は榕樹。

[島袋敬一 2019年12月13日]

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普及版 字通 「アコウ」の読み・字形・画数・意味

黄】あこう(くわう)

額(ひたい)に塗る黄色の化粧粉。唐・盧照鄰〔長安古意〕詩 片片たる行雲、鬢(せんびん)(薄く結った髪)にき 纖纖(せんせん)たる(細い)初(眉)、に上(のぼ)る

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咬】あこう(かう)

やかましくみだらな音楽。漢・張衡〔東京の賦〕咸池(かんち)(古楽の名)は度を咬に齊(ひと)しうせず、而れども衆聽するは或いは疑ふ。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アコウ」の意味・わかりやすい解説

アコウ
Ficus superba var. japonica

クワ科の大型高木で,四国や九州南部,琉球列島など,西南日本の暖地海岸に生じる。樹高 20mにもなり,四方に広げた枝から糸状の気根を多数垂らす。同属のガジュマルイチジクなどと同様に傷つけると白いゴム状の乳液を出す。葉は長い柄があって互生し,長さ 10~15cmの楕円形で質は厚く,インドゴムノキの葉に似る。雌雄異株。幹の葉腋に短い柄をもった球形の果嚢 (花嚢) を1~3個ずつつけ,内部はイチジクと同様に多数の淡紅色の小花が密に詰っている。熟すると果嚢全体が淡紅色となり,径 1.5~2cmで内部に種子 (正確には痩果 ) を蔵する。

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百科事典マイペディア 「アコウ」の意味・わかりやすい解説

アコウ(植物)【アコウ】

アコギとも。クワ科の常緑高木。和歌山,四国(太平洋岸),九州,東南アジアなど暖地の海岸にはえる。幹や枝から気根を下垂する。葉は互生し,質厚くなめらかで,楕円形をなし,葉や茎を傷つけると白い乳液が出る。雌雄同株。花序(果嚢も)はイチジクに似るが小さい。防潮,防風,生垣に用いる。

アコウ(魚)【アコウ】

アコウダイ(魚)

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世界大百科事典(旧版)内のアコウの言及

【アコウダイ(緋魚)】より

…カサゴ目フサカサゴ科の深海魚(イラスト)。アコウまたはメヌケ,メヌキなどともいわれる。近縁種にオウサガ,サンコウメヌケ,バラメヌケがおり,一括してメヌケと呼ばれることが多い。…

【キジハタ】より

…本州中部以南,朝鮮半島南部,中国に分布し,日本では瀬戸内海や日本海沿岸に多い。大阪府,和歌山県をはじめ瀬戸内海沿岸,九州北部の各地でアコ,アコウなどと呼ばれる。また,長崎県でアカアゴまたはアカアラ,富山県魚津,四方でアカラ,和歌山県田辺でアズキアコウなどと呼ばれる。…

【イチジク(無花果)】より

…そのやり方には,イチジクと同じように雄株と雌株があるもの(雌雄異株,イヌビワとイヌビワコバチはその例)と,すべての株が同じ型の果囊をつける雌雄同株のものとがある。雌雄同株のアコウでは,果囊の内部には雄花のほかに,長花柱,短花柱の2種類の雌花があり,コバチが受粉・産卵することにより,長花柱花では種子が,短花柱花では虫こぶができ,種子と虫こぶがほぼ同数となる。【上条 一昭】【岡本 素治】
[象徴]
 地上の楽園(エデン)において,アダムとイブは知恵の木の実を食したために,裸であることに気づいて恥じ,イチジクの葉で腰を隠した(《創世記》3:7)。…

※「アコウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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