質量欠損
しつりょうけっそん
mass defect
Z個の陽子とN個の中性子とからなる原子核の質量は、単純には陽子質量のZ倍と中性子質量のN倍の和と考えられるが、実際に精密測定をしてみると、それよりも軽くなっている。この軽くなった分を質量欠損という。核子数の非常に少ない原子核は別として、平均的な質量欠損は原子核の全質量の1%弱であるが、物質全体の質量が構成される粒子の質量をあわせたものより1%も小さいという事実は重大である。質量欠損の原因は、核子を結び付けている強い力(核力)にある。原子核をばらばらの核子に引き離すために必要なエネルギー(結合エネルギー)と質量欠損とは等価である。大きい質量欠損は非常に強い結合を意味する。一核子当りの質量欠損がもっとも大きいのは、鉄の原子核である。原子核が二つに壊れる核分裂は、そのほうがエネルギー的に安定する場合におこる。すなわち、親原子核の質量欠損(結合エネルギー)よりも分裂後の娘原子核の質量欠損の和のほうが大きい場合に実際におこる。核融合はこの逆の場合である。核分裂あるいは核融合の前後における質量の差、すなわち解放された結合エネルギーは、分裂してできた粒子の運動エネルギーとなり、巨視的には熱エネルギーとなる。火力発電では石油や石炭の燃焼熱を用いているが、核分裂の連鎖反応によって生じた運動エネルギーの利用が原子力発電のエネルギー源である。
[坂東弘治・元場俊雄]
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質量欠損
シツリョウケッソン
mass defect
二通りの定義があるが,基準の取り方が違うだけで本質的には同じことになる.【Ⅰ】[同義異語]質量偏差【Ⅱ】ある原子核を構成するA個(質量数に同じ)の核子,すなわち陽子と中性子の質量の総和からその原子核の質量を差し引いた値.質量とエネルギーの同等性から,独立したA個の核子が集まってその原子核がつくられるときに放出されるエネルギー,すなわち核子の全結合エネルギーに相当する.
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質量欠損【しつりょうけっそん】
原子核を構成する核子(陽子と中性子)の質量の総和から原子核の質量を引いたもの。核子が結集して原子核を構成するとき失われる質量を意味し,核の結合エネルギーを表す(核力)。原子核の質量から核子の数(質量数)を引いたものを質量偏差,質量偏差を核子数で割ったものを比質量偏差という。
→関連項目結合エネルギー
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しつりょう‐けっそん〔シツリヤウ‐〕【質量欠損】
原子核を構成している陽子と中性子の質量の総和から、原子核の質量を引いた差。陽子と中性子とが原子核を構成するとき、結合エネルギーを得るため、ある程度の質量を失うことから生じる。
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しつりょう‐けっそん シツリャウ‥【質量欠損】
〘名〙 実際の原子核の質量数と、原子核を構成している陽子と中性子の質量の総和との差。質量の一部が原子核の結合エネルギーに転化していることにより、
前者の方がわずかに小さい。
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しつりょうけっそん【質量欠損 mass defect】
原子核の質量は,それを構成している陽子および中性子の質量の総和よりも小さくなっている。この差を質量欠損と呼ぶ。すなわち,陽子数Z,中性子数Nの原子核の質量をm(Z,N),陽子の質量をmp,中性子の質量をmpとすると,質量欠損はZmp+Nmn-m(Z,N)で与えられ,質量とエネルギーの等価性により,これに光速の2乗をかけたものがその原子核の結合エネルギーになる。非常に軽い原子核を除いて,結合エネルギーはだいたい質量数A=Z+Nに比例し,その比例係数は8MeV程度である。
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世界大百科事典内の質量欠損の言及
【エネルギー】より
…原子核の質量を精密に測定すると,例えば陽子と中性子がばらばらにあるときより,結合して重陽子になったときのほうが⊿m=0.004×10-27kgだけ質量が小さい。この質量の減り高(質量欠損という)は陽子と中性子が核力によって結合し,その位置エネルギーの低い状態,つまり全エネルギーの小さな状態に落ち着いたために生じたものと理解できる。この意味で,⊿mc2は陽子と中性子の結合エネルギーを与えていることになる。…
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