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石炭を原料として各種の化学製品を生産する化学技術の体系をいう。石炭は,19世紀から20世紀の前半にかけて,化学工業,とくに有機合成化学工業の最大の原料であった。製鉄業の興隆とともに,鉄鉱石の還元剤としてのコークスの需要が増え,石炭乾留事業もまた繁栄した。その副産物である石炭ガス,ガス軽油,コールタールなどは産業廃棄物としてその処分に窮したことさえあったが,その有用成分の分離,精製,利用の化学技術が進歩した結果,染料,医薬,その他を生産する芳香族系有機合成化学の花が開いたのである。それだけでなく,石炭を部分酸化法によって完全ガス化すれば一酸化炭素と水素から成る合成ガスが得られ,これからメタノールやアンモニアが合成される。また石炭からカーバイドをつくり,これからアセチレンが得られる。アセチレンはエチレンとならんで脂肪族系有機合成化学の重要な基礎原料となる。これらの化学技術がつぎつぎに開発され,石炭化学工業は,第2次大戦前および戦後しばらく,欧米先進諸国および日本の化学工業の主流であった。
ところが,第2次大戦後,中東地域において世界最大級の油田が発見,開発され,この石油が世界各国に安価に供給されるようになり,石炭から石油へというエネルギーの流体化革命が進むにしたがって,化学工業原料もまた石炭から石油への転換を余儀なくされた。その理由は,石炭が固体で取扱いが不便であり,灰分その他の不純物含有量が多いうえ,その生産コストが高く,採鉱技術の機械化,自動化にも限界があって,人件費の上昇などを吸収することができないこと,などであった。
この経済的理由については,最近ようやく事情が変化しつつある。すなわち,石油資源の有限性が認識され,また産油国によるカルテル的結束が強化されて,石油価格が1970年代に急上昇した結果,少なくとも発熱量基準では石炭が石油よりも割安になってきた。そこで,石炭がエネルギー源としても,化学工業原料としても,復活する可能性が生まれた。しかし,これからの石炭化学の技術体系は昔のままではありえない。現代の産業,社会の構造に適合した新しい展開が必要であろう。その新しい姿がどのようなものになるかは,なおしばらくの推移をみなければ推測できないが,石炭ガス化,石炭液化といった流体エネルギーへの変換の新しい技術体系と密接に関連した形での石炭化学になるものと考えられる。
これまでの伝統的な石炭化学技術の体系の概要を図1に,また,現在開発中の技術を含めこれからの新しい石炭化学技術の体系の概要を図2に示す。
執筆者:冨永 博夫
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石炭の化学的な性質、化学構造、物理化学的特性を研究し、さらにその成果を石炭の有効利用技術開発に応用するための学問領域をいう。すなわち、石炭の液化、ガス化、熱分解、燃焼などの反応機構解析を通じて有用で高付加価値な化学原料化やエネルギー変換のための基礎理論を提供することが石炭化学の目的となる。石炭化学では活性基の反応、溶剤抽出、抽出分解、水素化分解、重縮合、酸化分解、塩素化分解などの反応が研究対象となる。
一方、石炭物理は石炭の物理的な性質を究明し、物性や構造を解明しようとするもので、光学的、電磁気的、機械的、界面的などの性質が対象となる。しかし石炭の成因に関する研究や高分子的構造について考えるときには物理化学的な取扱いが必要となるため、石炭化学と石炭物理を含めて石炭科学という。ときには石炭科学と石炭化学工業の両者を含めた総称として石炭化学が使用されることもある。これは、石油化学の基礎理論の確立が先行し、それに対比して石炭化学が理解されるようになってきたものの、石炭化学では究明されていない面が多く、用語の概念が固まっていないためである。
石炭は化石資源のなかでもっとも複雑な構造を有する天然の高分子有機化合物であり、研究意欲を刺激された多くの研究者によって構造の解明が行われしだいに明らかにされてきたが、まだ不十分な点が多い。よりいっそう石炭の本質を明らかにすることによって、石炭の構造に立脚した合理的な利用法も可能になるわけである。
[上田 成・荒牧寿弘]
『舟阪渡・横川親雄著『石炭化学』(1960・共立出版)』▽『黒川真武・馬場有政・本田英昌・大内公耳著『石炭・石炭化学』(1963・日刊工業新聞社)』▽『村田富二郎著『石炭化学』(1964・勁草書房)』▽『下野克己著『戦後日本石炭化学工業史』(1987・御茶の水書房)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
石炭の資源的特徴を踏まえ,エネルギーや化学原料・機能性素材として効率よく,しかも環境に調和した方法で利用するための化学,あるいはその学問体系.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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