石炭化学(読み)セキタンカガク

デジタル大辞泉 「石炭化学」の意味・読み・例文・類語

せきたん‐かがく〔‐クワガク〕【石炭化学】

石炭の性質・構造などの研究や、石炭を原料とする各種工業製品を作る研究など、石炭に関係する諸化学の総称。

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精選版 日本国語大辞典 「石炭化学」の意味・読み・例文・類語

せきたん‐かがく‥クヮガク【石炭化学】

  1. 〘 名詞 〙 石炭の成因・性質・構造・反応などを化学的に研究する学問。広義には、石炭を原料とし、化学的操作によって各種の製品を製造する石炭化学工業を含めていう。〔技術革新(1958)〕

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百科事典マイペディア 「石炭化学」の意味・わかりやすい解説

石炭化学【せきたんかがく】

石炭を原料とする有機合成化学。1856年英国のW.H.パーキンが,石炭の乾留で得られるコールタールの成分であるベンゼントルエンから最初の合成染料モーブを製造した。これがきっかけとなってタール系合成化学が生まれ,染料,香料,医薬,爆薬などが人工的に作られるようになり,今日の有機合成化学の基礎が築かれた。次いで20世紀に入ると,石炭と石灰石からカーバイドが作られ,これに水を作用させて得られるアセチレンを原料としてアセトアルデヒド酢酸アセトンなどを作るアセチレン系合成化学が興った。同じころ,石炭やコークスのガス化によって得られる水性ガスを原料としてのメタノールメチルアルコール),アンモニアなどの製造も行われるようになった。その後,石炭をより効率よく合成化学原料とするための新しい加工法が追求され,酸化分解,水素化分解などの方法の開発が進められている。前者は石炭の微粉末をアルカリ水溶液や希硝酸に混ぜ,加熱しながら空気を吹き込んで石炭分子を酸化分解する方法で,一酸化炭素や芳香族カルボン酸などを得る。後者は石炭微粉末を重質油と練り混ぜ,触媒の存在下で高温高圧にして水素と反応させて石炭分子の分解と水素化を行わせるもので,ベンゼン,フェノールナフタレンなどを得る。しかし戦後,化学工業の主原料は石炭から石油に転換し,近年はアセチレン,石炭タールを原料とする合成化学の大部分石油化学方式に変わっている。→石炭液化石炭化学工業石炭乾留石炭ガス

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改訂新版 世界大百科事典 「石炭化学」の意味・わかりやすい解説

石炭化学 (せきたんかがく)
coal chemistry

石炭を原料として各種の化学製品を生産する化学技術の体系をいう。石炭は,19世紀から20世紀の前半にかけて,化学工業,とくに有機合成化学工業の最大の原料であった。製鉄業の興隆とともに,鉄鉱石の還元剤としてのコークスの需要が増え,石炭乾留事業もまた繁栄した。その副産物である石炭ガスガス軽油コールタールなどは産業廃棄物としてその処分に窮したことさえあったが,その有用成分の分離,精製,利用の化学技術が進歩した結果,染料,医薬,その他を生産する芳香族系有機合成化学の花が開いたのである。それだけでなく,石炭を部分酸化法によって完全ガス化すれば一酸化炭素と水素から成る合成ガスが得られ,これからメタノールやアンモニアが合成される。また石炭からカーバイドをつくり,これからアセチレンが得られる。アセチレンはエチレンとならんで脂肪族系有機合成化学の重要な基礎原料となる。これらの化学技術がつぎつぎに開発され,石炭化学工業は,第2次大戦前および戦後しばらく,欧米先進諸国および日本の化学工業の主流であった。

 ところが,第2次大戦後,中東地域において世界最大級の油田が発見,開発され,この石油が世界各国に安価に供給されるようになり,石炭から石油へというエネルギーの流体化革命が進むにしたがって,化学工業原料もまた石炭から石油への転換を余儀なくされた。その理由は,石炭が固体で取扱いが不便であり,灰分その他の不純物含有量が多いうえ,その生産コストが高く,採鉱技術の機械化,自動化にも限界があって,人件費の上昇などを吸収することができないこと,などであった。

 この経済的理由については,最近ようやく事情が変化しつつある。すなわち,石油資源の有限性が認識され,また産油国によるカルテル的結束が強化されて,石油価格が1970年代に急上昇した結果,少なくとも発熱量基準では石炭が石油よりも割安になってきた。そこで,石炭がエネルギー源としても,化学工業原料としても,復活する可能性が生まれた。しかし,これからの石炭化学の技術体系は昔のままではありえない。現代の産業,社会の構造に適合した新しい展開が必要であろう。その新しい姿がどのようなものになるかは,なおしばらくの推移をみなければ推測できないが,石炭ガス化石炭液化といった流体エネルギーへの変換の新しい技術体系と密接に関連した形での石炭化学になるものと考えられる。

 これまでの伝統的な石炭化学技術の体系の概要を図1に,また,現在開発中の技術を含めこれからの新しい石炭化学技術の体系の概要を図2に示す。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「石炭化学」の意味・わかりやすい解説

石炭化学
せきたんかがく
coal chemistry

石炭の化学的な性質、化学構造、物理化学的特性を研究し、さらにその成果を石炭の有効利用技術開発に応用するための学問領域をいう。すなわち、石炭の液化、ガス化、熱分解、燃焼などの反応機構解析を通じて有用で高付加価値な化学原料化やエネルギー変換のための基礎理論を提供することが石炭化学の目的となる。石炭化学では活性基の反応、溶剤抽出、抽出分解、水素化分解、重縮合、酸化分解、塩素化分解などの反応が研究対象となる。

 一方、石炭物理は石炭の物理的な性質を究明し、物性や構造を解明しようとするもので、光学的、電磁気的、機械的、界面的などの性質が対象となる。しかし石炭の成因に関する研究や高分子的構造について考えるときには物理化学的な取扱いが必要となるため、石炭化学と石炭物理を含めて石炭科学という。ときには石炭科学と石炭化学工業の両者を含めた総称として石炭化学が使用されることもある。これは、石油化学の基礎理論の確立が先行し、それに対比して石炭化学が理解されるようになってきたものの、石炭化学では究明されていない面が多く、用語の概念が固まっていないためである。

 石炭は化石資源のなかでもっとも複雑な構造を有する天然の高分子有機化合物であり、研究意欲を刺激された多くの研究者によって構造の解明が行われしだいに明らかにされてきたが、まだ不十分な点が多い。よりいっそう石炭の本質を明らかにすることによって、石炭の構造に立脚した合理的な利用法も可能になるわけである。

[上田 成・荒牧寿弘]

『舟阪渡・横川親雄著『石炭化学』(1960・共立出版)』『黒川真武・馬場有政・本田英昌・大内公耳著『石炭・石炭化学』(1963・日刊工業新聞社)』『村田富二郎著『石炭化学』(1964・勁草書房)』『下野克己著『戦後日本石炭化学工業史』(1987・御茶の水書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「石炭化学」の意味・わかりやすい解説

石炭化学
せきたんかがく
coal chemistry

石炭を原料として,いろいろの化学製品をつくる化学をいい,その工業を石炭化学工業という。石炭化学工業は石炭の乾留で得られるコールタールからベンゼン,トルエン,ナフタリン,アントラセンなどの芳香族化合物をつくる工業と,石炭やコークスから得られる水性ガスからメタノール,ホルムアルデヒド,アンモニアなどをつくる工業とに大別できる。これらの石炭化学工業は石油化学の発展とともにその地位を譲ったが,石油資源の問題もあり,石炭のガス化,液化などの研究は続いている。

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化学辞典 第2版 「石炭化学」の解説

石炭化学
セキタンカガク
coal chemistry

石炭の資源的特徴を踏まえ,エネルギーや化学原料・機能性素材として効率よく,しかも環境に調和した方法で利用するための化学,あるいはその学問体系.

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