アタカマ砂漠(読み)あたかまさばく(英語表記)Desierto de Atacama

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アタカマ砂漠」の意味・わかりやすい解説

アタカマ砂漠
あたかまさばく
Desierto de Atacama

南アメリカ、チリ北部にある南北約1200キロメートル、東西150~300キロメートルにわたる長大な砂漠。太平洋沿岸のチリ海岸山脈(高度2000メートル前後)とアンデス主脈の間を1000メートル前後の高度をもって南北に延びる山間盆地にあり、北はチリ、ペルー国境(南緯約18度)付近から、南はコピアポ(南緯約27度)付近にかけて広がる。北端部のアリカ市の北を流れるリュータ川以南の約1000キロメートルの間には、アンデス主脈に発しこの砂漠を横断して太平洋に達する川はロア川1本しかない。一年中低湿度で空気の澄んだ晴天が続く極端な寡雨地域であり、中心部には無植生の荒野が広がっている。しかし、その北半部のロア川以北の地域は、かつてミモザ科の低木タマルゴがまばらに生育していたことからタマルガル平原とよばれる。アタカマ砂漠の西に隣接する沿岸地方も砂漠であるが、低温の海水の影響を受けて霧や雲に覆われることが多く、また気温の日較差、年較差も小さいという特殊な西岸砂漠気候を示す。一部には霧の水分を吸って生育するロマ植生がみられる。アタカマ砂漠東方のアンデス山脈西斜面も砂漠であるが、高度2000メートル以上では低温でかつ夏期に若干の降雨があるため、短草がまばらに生育する。

 アタカマ砂漠における主要な生産活動は鉱産資源の採掘である。銀の産出は19世紀後半には世界産出量の7分の1に達していたが、現在ではその比重は小さい。チリの輸出総額の約35%(2003)を占める銅は、チリ中部とともにアタカマ砂漠地方で産出され、主要鉱山としてはチュキカマタ、エル・サルバドルがある。とくに前者は世界最大級の露天掘り銅山である。雨のない気候下で各種の可溶性塩分が析出し堆積(たいせき)物を固結して生成されたチリ硝石は、アタカマ砂漠の各所で採掘され、窒素肥料および火薬原料として大量に輸出されてきた。しかし空中窒素固定法の開発により、1920年をピークにその重要性は低下した。硝石の副産物であるヨードに関しては、現在でも世界需要の半分近くをここで賄っている。アタカマ砂漠最北部のタラパカ地方はかつてペルーに、その南のアントファガスタ地方はボリビアに属していたが、硝石をめぐって発生した太平洋戦争(硝石戦争)の結果、1883年以降チリの領土となった。

[松本栄次]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アタカマ砂漠」の意味・わかりやすい解説

アタカマ砂漠
アタカマさばく
Desierto de Atacama

チリ北部の太平洋岸に連なる乾燥地帯。ペルーとの国境付近から南へ,サラド川とコピアポ川の分水界付近まで約 1000kmにわたって延びる細長い地帯で,東はアンデス山脈によって限られる。西部は標高約 1500mの海岸山脈となっており,その西斜面は大部分急崖をなして太平洋にのぞみ,海岸平野はない。海岸山脈の東側に南北に連なる内陸凹地は標高 900m以上の高原地帯で,一連の塩原扇状地から成り,扇状地の一部は砂丘の発達した砂砂漠となっているが,大部分は礫砂漠である。南アメリカ西岸,南緯5~30°に連なる乾燥地帯の一部で,世界で最も降水量の少い地域の一つとなっているが,これは,北東のアマゾン低地からの湿った空気がアンデス山脈によってさえぎられるとともに,冷たいペルー海流の影響で沿岸の海水の温度が低く,海面から上方にいくにつれて気温が高くなるという気温の逆転が生じるためである。この気温の逆転層内では大気はきわめて安定し,霧や雲は発生しやすいが,雨はほとんど降らない。気温も寒流の影響で同緯度の他地域に比べて低く,沿岸のアントファガスタで年平均気温約 17℃。鉱物資源に富む地域で,特にチリ硝石として知られる硝酸ナトリウムをめぐって,19世紀にチリ,ボリビア,ペルーが抗争を繰返したが,1879~84年の太平洋戦争の結果,ペルーとボリビアの一部がチリに編入され,アタカマ砂漠は全域チリ領となった。硝石資源は 19世紀後半以降組織的に開発され,世界市場を独占,沿岸のイキケ,トコピヤ,アントファガスタ,タルタルなどに積出港が建設され,これらの港と内陸部を結ぶ鉄道が敷設された。しかし第1次世界大戦中,空中窒素の固定技術が開発され,硝石に対する需要が急速に減少した結果,最盛時に年 300万tに上った産出量は 1960年代末には 78万tに減少。現在は硝石に代って銅鉱床の開発が中心で,アンデス西麓のチュキカマタで大規模に採掘されるほか,沿岸のパポソでも採掘され,チリの重要な産業となっている。ほかにわずかながら農業も行われ,内陸凹地北部のピカでレモン,ロア川沿岸の灌漑地帯でジャガイモ,アルファルファなどが栽培される。人口は近年減少しつつある。

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