改訂新版 世界大百科事典 「アトランティス伝説」の意味・わかりやすい解説
アトランティス伝説 (アトランティスでんせつ)
プラトン晩年の対話編《ティマイオス》と《クリティアス》とを唯一の典拠とする伝説で,おそらく彼の創作と考えられる。かつてアテナイの政治家であり詩人でもあったソロンがエジプトに旅行した折,その地の神官が昔のアテナイ人の勇敢さをたたえ,古い記録に基づいて彼に語って聞かせた体裁をなしている。それによると,ソロンの時代をさかのぼる9000年以前,ギリシア人が〈ヘラクレスの柱〉と呼んだジブラルタル海峡のかなたにアトランティスAtlantisという名の島があった。それはアジアとリビュアつまりアフリカを合わせたよりも大きく,ポセイドン神の5組の双生児が島を10分して支配していた。最年長の初代の王アトラスにちなんで島は命名され,そのまわりの海も〈アトラスの海〉(つまり大西洋のこと)と呼ばれたという。整然たる都市計画と強力な軍事組織を備え,ヨーロッパやリビュアの一部まで支配下に置いていたが,彼らはさらにヨーロッパとアジアとを一挙に隷属させようとして侵攻した。当時のアテナイ人は勇敢に戦い,これを撃退し,アトランティスにまで攻めのぼったが,大地震と大洪水とが重なり,一昼夜にしてこの島は海中に没し去ったという。
ヨーロッパ中世においてはこの島は実在したものと信じられ,以来アメリカ大陸,スカンジナビア,カナリア諸島など,現実の大陸や島に比する試みがなされてきた。最近では,前15世紀の中ごろ,猛烈な火山の爆発によって,島に営まれていたミノス文明を火山灰の中に埋めつくし,島そのものの姿を一変させるとともに,誘発した地震と大津波とによってクレタ島にまで甚大な破壊的影響を与えたことが知られるエーゲ海のサントリニ島(古名テラ島)とこの伝説を結びつける考古学者の説がある。
執筆者:辻村 誠三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報