アフォーダンス(読み)あふぉーだんす(英語表記)affordance

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アフォーダンス」の意味・わかりやすい解説

アフォーダンス
あふぉーだんす
affordance

知覚研究で知られるアメリカギブソンJames Jerome Gibson(1904―1979)によって提唱された概念環境がそこに生活する動物に対してアフォード(提供)する「価値」や「意味」のこと。歴史的にみると、ギブソン以前の考え方は、環境からの刺激生体がその内部に取り込んでからさまざまな処理をして、意味や価値をみいだすというものであった。たとえば当時の視覚研究においては、網膜外界の情報を写したものであり、認知システムは網膜情報のみを用いて知覚を行っているという考え方が主流であった。ギブソンの貢献は、そうした考え方からの脱却にある。ギブソンは、アフォーダンスは環境の側にあり、認知主体はそれを探すだけだというのである。たとえば、地面傾斜の情報はそもそも地面の側にあり、主体が視覚情報から計算するのではないということだ。これと同様の考え方は「環世界」や「オートポイエーシス」にみられる。

 ただ、ギブソンの考え方は情報源を環境の側に限定している点が、少し行き過ぎと思われる。実際には「価値」や「意味」は、主体と環境との相互作用によって明らかになると考えるのが正しい。たとえば、森を歩いているときに、木の切り株をみつけたとする。ギブソンに従えば、木の切り株は「座る」という行為人間にアフォードしていることになるが、実際に「座る」かどうかは、座る側の人間の身長体重に依存するであろう。

 なお、アメリカの認知科学者ノーマンDonald A. Norman(1935― )はデザインの分野で同じ用語を使い始めた。よいデザインとはその使い方をアフォードするものでなければならないという。たとえば、ドアについた縦の取っ手は引くことを、横の取っ手は押すことをアフォードしているという。

[中島秀之 2019年7月19日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アフォーダンス」の意味・わかりやすい解説

アフォーダンス
affordance

これまでの間接的認識論では,環境からきた物理的な刺激を感受し,意味のあるイメージに仕上げると考えたが,環境はそれぞれ特定の性格を与えられた場所として存在している。つまり環境が動物の行為を直接引き出そうと提供 (アフォード) している機能をさす。言い換えると,ある物のもっている「食べられる」という属性は,主体の食欲とは無関係に存在するということ。知覚心理学者 J.ギブソンが提唱した造語。情報は環境 (状況) のなかに実在しており,人間はその情報を識別することで,それらのもつ意味や価値を見出すことができるというもの。

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