アムラン(読み)あむらん(英語表記)Octave Hamelin

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アムラン」の意味・わかりやすい解説

アムラン
Hamelin, Octave

[生]1856.7.22. リオン,ダンジェ
[没]1907.9.8. ユシェ
20世紀前半のフランスを代表する哲学者。高校の哲学教授を歴任後,1884年ボルドー大学教授。 1903年エコール・ノルマル・シュペリュール (高等師範学校) ,05年ソルボンヌ大学講師。 07年長年の研究の成果たる『表象の主要要素についての試論』 Essai sur les éléments principaux de la représentation,および副論文としてのアリストテレス『自然学』第2巻の翻訳と注解とを公刊し,学位論文としてソルボンヌ大学に提出。『試論』は主査 E.ブートルーとの間に激しい論戦を引起した。好敵手 H.ベルクソンが科学批判から直観主義をとったのに対し,古典研究を根底とする観念論に立って表象を唯一の哲学の対象とした。その出発点にあるのは師 C.ルヌービエカント主義であるが,総合的方法によって表象を体系化したところにその独自性がある。措定は必ずその反対措定の排除のうえに成り立つという事実から,定立,反定立,総合の3契機を関係と名づけ,その弁証法を用いて範疇を必然的連鎖のもとにおいた。関係と数,時間と空間,運動と質,変質と種化,因果性と目的性,そして至高の総合としての人格の 11がその範疇である。人格性を至高の実在,根源的統一とみるその哲学は,真の意味で開かれた創造の哲学であり,弟子ル・センヌのたどった実存哲学に近い。アムランは晩夏の避暑地の海でおぼれかかった2人を救いながら,みずからは死んだ。死後高等師範学校での講義ノートから『デカルトの体系』 (1911) ,『アリストテレスの体系』 (20) ,『ルヌービエの体系』 (27) など『試論』の根底となった研究が公刊された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アムラン」の意味・わかりやすい解説

アムラン
あむらん
Octave Hamelin
(1856―1907)

フランスの哲学者。メーヌ・エ・ロアール県に生まれる。ソルボンヌ大学を卒業後、ボルドー大学教授を経て、1905年母校教授となる。主著『表象の主要な諸要素についての試論』(1907)は近代観念論のもっとも大胆な著作の一つと評価された。彼は師ルヌービエの批判主義を継承して、実在は表象からなると考える。しかし、すべての表象は、それと反対対立の関係にある表象を排除する限りで、これら二つの観念を部分とする全体において、初めて意味をもつ。それゆえ二つの相対立する観念は第三の観念を要求する。これが彼の総合的方法である。ベルクソンに匹敵する大哲学者と期待されていたが、主著の刊行後5か月で急逝した。ほかに遺稿『デカルトの体系』(1910)、『アリストテレスの体系』(1920)、『ルヌービエの体系』(1927)がある。

[坂井昭宏 2015年5月19日]

『澤瀉久敬編『現代フランス哲学』(1968・雄渾社)』

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