日本大百科全書(ニッポニカ) 「イェリネク」の意味・わかりやすい解説
イェリネク
いぇりねく
Elfriede Jelinek
(1946― )
オーストリアの作家。シュタイアーマルク州ミュルツツシュラークに生まれる。父はチェコ系ユダヤ人、母は裕福な家庭の出身で、ウィーンで育つ。幼いころからピアノを習い、ウィーン音楽学校で作曲を学んだ。ウィーン大学に進み、演劇と芸術史を専攻する。また、早くから詩を書き始め、1967年に最初の詩集を発表した。学生運動に参加し、社会批判の姿勢を強め、1970年には風刺小説『われわれは餌(えさ)だ、ベイビー!』wir sind lockvögel baby!を出版する。その後も小説、戯曲など多くの作品を執筆、ハインリッヒ・ベル賞(1986)、ドイツ最高の文学賞ビューヒナー賞(1998)など、多くの文学賞を獲得している。2004年ノーベル文学賞を受賞、女性の文学賞は10人目である。
彼女の作品は、性をテーマとして、社会に挑戦する攻撃的な内容のものが多い。そのため、作品に対する評価は、つねに賛否両論の渦となり、とくに保守層からの激しい批判にさらされた。彼女自身も反権力の態度を鮮明にしており、オーストリアの連立政権に極右自由党が参加した際には、自作の戯曲のオーストリアでの上演を禁止することを発表、抗議行動にも参加している。
彼女の自伝的小説『ピアニスト』Die Klavierspielerinは映画化され、2001年のカンヌ国際映画祭グランプリを獲得している。また、邦訳された作品には『ピアニスト』のほかに、『したい気分』Lust、『トーテンアウベルク――屍(かばね)かさなる緑の山野』Totenaubergがある。
[編集部]
『熊田泰章訳『トーテンアウベルク――屍かさなる緑の山野』(1996・三元社)』▽『中込啓子訳『ピアニスト』(2002・鳥影社)』▽『中込啓子・ブール訳『したい気分』(2004・鳥影社)』