核燃料サイクル(読み)かくねんりょうさいくる

日本大百科全書(ニッポニカ) 「核燃料サイクル」の意味・わかりやすい解説

核燃料サイクル
かくねんりょうさいくる

原子炉で使う核燃料の流れをさす。このシステムは、規模、費用の点で巨大なものとならざるをえない。

[桜井 淳]

日本の核燃料サイクル

鉱山から鉱石(粗鉱)を掘り出して精錬し、精鉱(U3O8)にするが、日本で使われている核燃料は、海外の企業によってこれらの処理がなされている。その後、これらは海外でウランへと転換される。転換されたウラン(UF6)は濃縮されなければならないが、これは欧米の企業や日本原燃(JNFL)によって行われている。この濃縮ウラン(UF6)は再転換されるが、この過程は三菱(みつびし)原子燃料とアメリカのジョイントコンバージョン社などによって行われている。再転換された濃縮UO2粉末は燃料に加工される。加工は、三菱原子燃料、グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン(GNFJ)および原子燃料工業によって行われている。燃料棒に使用するジルカロイ被覆管は、三菱マテリアル、住友金属工業(現、日本製鉄)および神戸製鋼所でつくられたものである。加工された燃料棒は燃料集合体に組み立てられる。

 原子力発電所で燃やした使用済み燃料集合体は、核燃料再処理工場で再処理されるが、この過程は、日本原燃、英国核燃料会社(BNFL)およびフランス核燃料公社COGEMA)で行われている。再処理で抽出されたプルトニウムは加工工程に、減損ウランは転換工程に運ばれて、ふたたび燃料として使用される。また再処理で出た放射性廃棄物は、長期にわたって管理される。

 先進国といえども、原子炉から核燃料サイクルに至る全システムを一国で維持することは困難であって、国際間の協力が重要である。日本においても、軽水炉の核燃料サイクルが実規模で完成しているわけではなく、研究開発中、実証運転中の部分もある。現在運転中の軽水炉の燃料は、カナダ、イギリス南アフリカオーストラリアニジェール、フランス、アメリカから電力会社が輸入し、燃料加工会社に支給している。アメリカから輸入する濃縮ウランは六フッ化ウラン(UF6)であり、専用容器に入れられて輸送されてくる。たとえば加圧水型原子炉の燃料集合体は、三菱原子燃料などが製作している。まず、関西電力などがアメリカから輸入した濃縮ウランが支給され、三菱原子燃料はこれを酸化物にして、酸化ウランペレットに加工している。このペレットを、被覆管に封入して、燃料棒にする。このような燃料棒を束ねて燃料集合体にするが、完成した燃料集合体は各原子力発電所まで陸上輸送される。100万キロワット級原子力発電所では、加圧水型原子炉と沸騰水型原子炉とも、約4万本の燃料棒で炉心を構成する。軽水炉で3年間燃やした燃料集合体は炉心から取り出され、原子力発電所内の貯蔵プールで半年以上にわたり保管したのち、海上輸送により使用済み燃料として核燃料再処理工場に運び込む。さらに150日間ほど貯蔵プールに保管してから、再処理を行う。日本の各原子力発電所からの使用済み燃料の一部は、1977年(昭和52)より動力炉・核燃料開発事業団(のちの核燃料サイクル開発機構、現・日本原子力研究開発機構)の再処理工場で処理されている。

[桜井 淳]

再処理の考え方

日本政府は、原子力発電所の使用済み燃料を再処理してウラン、プルトニウム、高レベル廃棄物に分離し、このうちウランとプルトニウムはふたたび核燃料として利用するという、いわゆる核燃料リサイクル政策をとり、これに基づいて青森県六ヶ所村に再処理工場をはじめとする核燃料施設が建設されている。しかし、このような核燃料リサイクル政策はかならずしも世界の趨勢(すうせい)ではなく、イギリス、フランス、日本を除く多くの国々が使用済み燃料を再処理せずに、そのまま貯蔵しておく、いわゆるワンス・スルー方式を採用している。

 すなわち、アメリカではカーター政権時代に再処理凍結の方針が定められて以来、取り出した燃料を空気中で(乾式で)監視しながら貯蔵する施設が建設された。ドイツは統一直後に建設中の再処理工場をキャンセルして貯蔵方式に切り替え、カナダは当初からワンス・スルー方式を採用してきた。その理由は、プルトニウムの利用が技術的にも経済的にも困難であり、再処理工場にトラブルが多発するなどその技術が未完成であり、また安全上からみてもワンス・スルー方式のほうが優れていると判断したからにほかならない。

[桜井 淳]

核燃料サイクルにおける安全性の問題

核燃料サイクルのなかでは、原子力発電所と再処理工場の安全性に、とくに注意を向けなければならない。とりわけ再処理工場は、核燃料サイクルのかなめである。核燃料サイクルを確立するためには、再処理技術と廃棄物管理技術を完全なものとしなければならない。再処理技術はマンハッタン計画(第二次世界大戦中のアメリカの原爆製造計画)において開発されたものである。戦争という異常事態のなかで、敵に先んずるために、なにがなんでもプルトニウムだけを取り出せ、という至上命令で強引に開発された。この再処理技術は、プルトニウム以外を無用の廃棄物として扱う技術であった。ウラン濃縮、原子炉、再処理といった技術は、すべて軍事用に開発されたもので、現在の軽水炉を中心とした原子力発電の技術は、この軍事技術をそのまま転用したものである。

 原子炉から取り出された使用済み燃料は、遮蔽(しゃへい)容器(キャスク)に入れられて再処理工場へ輸送される。再処理工場に運び込まれると、この遮蔽容器は燃料取り出しプールの中に沈められる。使用済み燃料は、水中操作で遮蔽容器から取り出されて、燃料貯蔵プールに移される。使用済み燃料には莫大(ばくだい)な放射能がある。そこで、比較的半減期の短い原子核を崩壊させるため、この燃料貯蔵プールに約150日間保管される。燃料貯蔵プールから取り出された使用済み燃料は、遠隔操作によって剪断(せんだん)室へ移され、燃料集合体1体分の燃料棒が、剪断機で一度にその被覆管ごと長さ数センチメートルに剪断される。このとき、燃料棒の中に封じられていた希ガスが大量に放出される。放出される希ガスはおもに半減期約11年のクリプトン85で、半減期約12年のトリチウムも放出される。

 再処理工場の安全性で問題となるのは、放射能放出に伴う環境への影響である。使用済み燃料の剪断片は、溶解槽の中に落ちるが、この溶解槽の中には90℃の硝酸が入っており、剪断片の中身の燃料部が硝酸に溶けて、被覆管のみ残ることになる。この被覆管は強い放射能を帯びているので、中レベル廃棄物となる。これは長期間にわたって管理される。燃料が溶け込んだ硝酸溶液は、溶媒抽出法によって、まずウランやプルトニウムの溶液と、ストロンチウムやセシウムなどの核分裂生成物を含む溶液に分離され、前者は次の分離工程へ送られ、後者は高レベル廃棄物として管理されることになる。

 ウランとプルトニウムが混合した溶液中のプルトニウムは、それを還元することで、ウランから分離される。これらの溶液は、イオン交換や溶媒抽出によって精製され、一般的にプルトニウムは硝酸プルトニウム溶液、ウランは三酸化ウランとして貯蔵される。日本ではプルトニウムの単体分離を禁止している。このように再処理工場は、化学工場としての側面と、大型ホット・ラボ(高放射性物質を取り扱う施設)としての側面をもっている。

[桜井 淳]

プルトニウム燃料のリサイクル

日本原子力研究開発機構の再処理工場で得られたウランやプルトニウムは、軽水炉にはリサイクルされていないが、高速実験炉「常陽」の燃料には部分的に含まれている。なお、新型転換炉「ふげん」は世界で初めてプルトニウムを本格的に使用した原子力発電所であったが、2003年(平成15)に運転を終了した。

 現在運転中の軽水炉の燃料は基本的には約3%の濃縮ウランであるが、2009年からプルトニウムがリサイクルされ始めた。プルトニウム燃料の軽水炉への利用(プルサーマル)が注目されるのは、次の理由による。

(1)日本でプルトニウムは、日本原子力研究開発機構の新型転換炉「ふげん」と高速実験炉「常陽」で実験的に使われただけで、一般の電力会社の軽水炉ではまだ使われ始めたという段階である。

(2)ウランを燃やして得られるプルトニウムは、開発が大幅に遅れ、経済的ではない。2000年代なかばに実用化が予想されていた高速増殖炉の燃料として蓄えておくしかなかったが、高速増殖炉は先進国では閉鎖の方向に向かっている。しかし、すでに商業化されている軽水炉に暫定的にプルサーマルという形で利用できれば、プルトニウムの効率利用とウラン資源の節約につながる。

 日本原子力研究開発機構は、イギリス、ベルギーからプルトニウム酸化物を購入している。イギリスからのプルトニウムの中には、日本原子力発電のガス炉の使用済み燃料から回収されたプルトニウムも含まれている。日本では、プルトニウム燃料の加工は日本原子力研究開発機構だけにしか許可されていなかったが、2010年の時点では日本原燃がウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料加工工場を建設中である。イギリスやベルギーから購入したプルトニウムで、高速実験炉「常陽」の燃料を製作しているが、部分的には日本の軽水炉の使用済み燃料の再処理で回収したプルトニウムも含まれている。

 日本の核燃料サイクルは、まだ研究開発の段階である。本格的な再処理や高レベル廃棄物管理が行われるようになるまでには、今後数十年にも及ぶ期間を必要とする。また、核燃料サイクルの技術は核兵器製造技術との関連が深いだけに、国際政治の中心的な問題にもなっている。

 1997年(平成9)3月11日、動力炉・核燃料開発事業団東海再処理工場の低レベル放射性廃棄物アスファルト固化施設内で発生した火災・爆発事故は、事業団の事故隠し問題ともあいまって、多くの人々に原子力開発のあり方への不信感を与え、また再処理技術の未熟さを強く印象づけた。1999年9月30日に茨城県東海村で発生したジェー・シー・オー(JCO)の臨界事故は、長期にわたる保安規定違反および安全規制違反によるものであり、国民の不信感を決定的なものにした。これらの事故を契機に、日本の核燃料サイクル政策のあり方があらためて問われている。

[桜井 淳]

『大熊由紀子著『核燃料――探査から廃棄物処理まで』(1977・朝日新聞社)』『中島篤之助・市川富士夫著『核燃料サイクルをめぐって――核燃料再処理と放射性廃棄物』(1978・公害対策技術同友会)』『高木仁三郎著『核燃料サイクル施設批判』(1991・七つ森書館)』『鎌田慧著『六ヶ所村の記録――核燃料サイクル基地の素顔』(講談社文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「核燃料サイクル」の意味・わかりやすい解説

核燃料サイクル
かくねんりょうサイクル
nuclear fuel cycle

ウランやトリウム,プルトニウムが,原子炉での燃料として製造,使用,再処理される一連のプロセスをいう。具体的には,ウランの原鉱石からの精錬・抽出過程,原子炉で反応したあとの「燃えかす」(使用済み燃料)から未反応のウランや原子炉中で生成したプルトニウムを再処理によって取り出す過程などを含むが,さらに,ウラン燃料にプルトニウムを混ぜて軽水炉で燃やすプルサーマル,燃えないウラン 238を炉中の高速中性子をあてて燃えるプルトニウム 239に効率よく変える高速増殖炉をサイクルに組み込むことにより,核燃料利用効率はより高まるとされている。天然ウラン系,濃縮ウラン系,トリウム系,プルトニウム系など,使われる燃料の種類によって,具体的なプロセスはそれぞれ異なっている。

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