物体の温度をあげていくと(暗いところで見れば600℃くらいから)鈍い赤色に光り始め,やがて青白色を呈し,ついには白熱化する。これは,物体の放射する光の波長が温度の上昇につれて短いほうに変位していくためである。とくに黒体からの放射ないしは空洞放射では簡明な法則性があり,絶対温度Tの熱平衡状態では,(放射の単位体積につき)各波長λに対して単位波長幅当りの放射エネルギー(スペクトル密度)ut(λ)が最大となる波長λmはTに反比例し,λmT=一定となる。これがウィーンの変位則である。右辺の定数は,光速c,プランク定数h,ボルツマン定数kという三つの基本定数で表され,(ch/k)/4.9651=2.8978×10⁻3m・Kである。この法則はS.P.ラングリーやH.F.ウェーバーらにより1880年代の半ばから実験的に推測されていたが,93年にW.ウィーンが理論的に証明した。彼は,空洞放射の満ちた筒にピストンを押し込む思考実験を考えて,動くピストン面で放射が反射されるときのドップラー効果による波長変化λ→λ′を求め,他方で放射圧に抗してピストンを押し込むときする仕事とシュテファン=ボルツマンの法則とから温度変化T→T′を求めて,一般的にλ′T′=λTが成り立つことを示したのである。これは2変数の関数ut(λ)を(規格化因子Ntは別として)1変数λTの関数fできまる形ut(λ)=Ntf(λT)にまで追いつめたことである。Ntはシュテファン=ボルツマンの法則
からNt=σT5
と定まる(σはシュテファン=ボルツマンの定数)。したがって,定数σをfに含めればut(λ)=T5f(λT)と表せる。これはスケーリング則の一つであり,これをウィーンの変位則と呼ぶこともある。この結果は20世紀初頭の作用量子発見に導いた空洞放射の研究過程で大きな力になった。空洞放射のスペクトル密度ut(λ)は空洞の形にも壁の材料にもよらないから,関数fは普遍的なもので基本的重要性をもつとみなされたのである。
執筆者:江沢 洋
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絶対温度Tの黒体から放射される、エネルギー密度が最大になる波長(λmax)が、Tに反比例するという法則。1893年にウィーンが熱力学をもとに導いた。絶対温度をT(K)、放射エネルギー密度が最大になる波長をλmax(センチメートル)とすると
と表される。0.2898は比例定数である。
このことから、放射されるエネルギー密度が最大になる波長を測定することにより、その物体の温度が判明する。直接に温度を測定することができない場合、たとえば、溶鉱炉などの高温の物体の温度を正確に測定する際に重要な方法である。温度が高くなるほど放射される波長は短くなり、太陽表面温度(約5780K)では500ナノメートルになる。
[山本将史 2021年7月16日]
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