ウェスカー(読み)うぇすかー(英語表記)Arnold Wesker

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウェスカー」の意味・わかりやすい解説

ウェスカー
Wesker, Sir Arnold

[生]1932.5.24. ロンドン
[没]2016.4.12. ブライトン
イギリス劇作家。労働者階級,特に自身のユダヤ系としての生い立ちにかかわる人々の日々の暮らしを探究し,1950年代後半イギリス文学の「怒れる若者たち」の一人に位置づけられた。調理師など多数の職業を転々としながら,先鋭な社会的関心を身につけた。40作をこえる戯曲を書き,特に労働者階級の生活を扱ったウェスカー三部作と称される『大麦入りのチキンスープ』Chicken Soup with Barley(1958),『根っこ』Roots(1959),『ぼくエルサレムのことを話しているのだ』I'm Talking about Jerusalem(1960)によって認められた。1963年,イギリス空軍での勤務経験を元に執筆した "Chips with Everything"(1962)が初めてブロードウェーで公演された。ほかの戯曲作品に第一作の『調理場』The Kitchen(1957。1961映画化),『四季』The Four Seasons(1965),ウィリアム・シェークスピアの『ベニスの商人』を登場人物であるユダヤ人の金貸しシャイロック視点から再考した "The Merchant"(1977。のち "Shylock"に改題)などがある。詩,短編小説エッセイも手がけ,自叙伝 "As Much as I Dare"(1994),小説 "Honey"(2005)などの著作もある。2006年ナイトに叙された。(→イギリス文学

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウェスカー」の意味・わかりやすい解説

ウェスカー
うぇすかー
Arnold Wesker
(1932―2016)

イギリスの劇作家。ロンドン東部の庶民街に住む東欧系ユダヤ人移民の子に生まれる。雑多な仕事を体験し、空軍除隊後は映画学校に学んだ。初稿の『調理場』が『オブザーバー』紙の戯曲公募で入賞(1956)し、『大麦入りのチキンスープ』は恩師である映画批評家兼監督のリンゼイ・アンダーソンLindsay Anderson(1923―1994)の紹介で初演(1958)された。続く『根っこ』(1959)、『僕はエルサレムのことを話してるんだ』(1960)とともに三部作とよばれ、進歩的な彼の家庭環境を舞台に、社会のありようを考えた写実的な作品である。1959年に初演された『調理場』(改訂版1961)は、大ぜいの働く職場により「まるで調理場のような人間世界」を情感豊かに、躍動的に、ときには悪夢のように現前させた。階層的な軍隊生活に取材した『いずれもチップス付き』(1962)、2人の若い男女の愛の『四季』(1965)などを発表する間、バートランド・ラッセルらとともに反核運動に参加し、また旧機関車車庫を改装したラウンド・ハウス(円形劇場足場に「芸術を労働者に」というセンター42運動で活躍するが、『老人達』(1972)では彼を育てたロイヤル・コート劇場に復帰した。ほかに、『友達』(1970)、『ジャーナリスト』(1972)、『結婚披露宴』(1974)、シェークスピア『ベニスの商人』の改作『商人』(1976)やテレビ台本などがある。中期までの作品はほとんど邦訳上演され、彼も再度来日している。

[森 康尚]

『木村光一他訳『A・ウェスカー全作品』全3巻(1964~68・晶文社)』

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