ウツボカズラ(その他表記)pitcher plant
Asiatic pitcher plant
Nepenthes rafflesiana Jack

改訂新版 世界大百科事典 「ウツボカズラ」の意味・わかりやすい解説

ウツボカズラ
pitcher plant
Asiatic pitcher plant
Nepenthes rafflesiana Jack

葉の中央脈がつる状に細長くのび,その先端に捕虫袋をつくり,落し穴式に小動物を捕らえ,消化吸収するウツボカズラ科の食虫植物。茎は低木にからんでよじ登り,4~15mとなる。葉は互生し,葉身は長楕円形,長さ10~30cm,幅5~10cm,葉柄は長さ5~15cmで,狭い翼がある。捕虫袋は2形性で,植物体下方の袋は卵形で,外側に2本の発達したひれ状の翼をもつ。上方の袋は漏斗形で,外側の2本の翼は狭い。口部は滑らかな縁飾りをもち,上辺には蜜腺をもつ蓋がある。袋内の消化腺群から消化酵素を含む強酸性の粘液を分泌する。古くなった袋では雨水流入により粘液が希薄となり,バクテリアや小型の水生動物の生活場所となっていることが多く,特に蚊の発生源として問題になる。この袋を,矢を入れて腰につける武具靫(うつぼ)に見立ててウツボカズラの名がついた。雌雄異株で,総状花序は枝先にでき,小さな花を密生させる。実は蒴果(さくか)で,多数の糸くず状の微小種子を生産する。

 マレーシアや,スマトラからニューギニアにかけての熱帯の島々の標高0~1200mに分布する。道路沿いや伐採あと,林縁,沼地など日照条件のよい場所で,湿度が高く,貧栄養な土壌を好んで生育場所とする。

 日本や欧米では観賞用植物として温室栽培される。原産地では整腸などの民間薬として使われるが,その効果についての医学的証明はまだない。また,つるは結束用に,捕虫袋を容器として使うことがある。

ウツボカズラ科はウツボカズラ属1属からなり,約70種が知られている。いずれもウツボカズラと同じで捕虫袋を有するが,N.rajah Hook.f.(ボルネオ,キナバル山特産)のように袋の容積が1lを超えるような大型のものから,N.gracilis Kolthalsのように小さく,見ばえのしない捕虫袋まで,その形態や色彩はさまざまである。ボルネオ島を中心に熱帯アジアの島々に広く分布するが,遠くインドのアッサム地方,セーシェル諸島,マダガスカル島にも隔離的に分布する。垂直分布において,70%近くの種は標高1500~3000mの雲霧帯にみられ,残りの種は低地の熱帯多雨林帯にみられる。ほとんどの種は貧栄養な湿地を好むが,N.veitchii Hook.f.のように一部の種は樹上や岩上に着生生活をする。互いに近縁で,ほとんどの組合せで容易に雑種をつくり,園芸品種も多数つくりだされている。

 オーストラリア特産の食虫植物であるフクロユキノシタに近縁と考えられ,またユキノシタ科との類縁も考えられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウツボカズラ」の意味・わかりやすい解説

ウツボカズラ
うつぼかずら / 靭葛
pitcher-plant
[学] Nepenthes

ウツボカズラ科(APG分類:ウツボカズラ科)ネペンテス属の総称。属名はギリシア語のne(無)とpenthos(憂い)とからなる。温室植物として利用され、食虫植物として有名。多くはつる性で地生種、着生種のほか直立性のものもあり、走出枝は分枝する。葉の中央脈は伸長してつるとなり、その先端が膨らんで捕虫袋をつくり、蓋(ふた)をつける。袋の形態、色彩は分類の要素となり、蓋の形態、つき方は、小形のもの、半開性、直立性のものなど種々である。雌雄異株。花は総状花序または円錐(えんすい)状総状花序をつくり、花弁はなく、内面に蜜腺(みつせん)をもつ。蒴果(さくか)は紡錘形または卵形で乾くと裂開する。種子は糸状。捕虫袋の口部内壁に蜜腺があり、袋内にタンパク分解酵素や酸を分泌し、分泌液やバクテリアの働きで、入り込んだ虫体やタンパクを分解、吸収同化する。栽培には高温多湿を好むものが多く、18℃以上、湿度90%以上がよい。繁殖は普通は挿木により、葉を1枚つけ節間中央部で切り、ミズゴケに挿す。芽は葉腋(ようえき)のやや上方にあり、そこ以外からは不定芽を発生せず、芽のない穂木では発根しても伸長しないので注意を要する。ボルネオ島を中心としたインド洋季節風地帯で、年降水量が2000ミリメートル以上の地域に分布し、65種が知られる。海辺に生育するものから、ビエイラルディのように、標高3250メートルあたりに生育するものまである。

 日本には多くの種類が導入され、代表種であるウツボカズラN. rafflesiana Jack ex Hook.や、ヒョウタンウツボカズラN. hybrid Mastなどが一般に普及し、後者は低温にも耐え、着袋もよく人気がある。

[冨樫 誠 2020年12月11日]


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百科事典マイペディア 「ウツボカズラ」の意味・わかりやすい解説

ウツボカズラ

ウツボカズラ科のつる性木本(もくほん)。東南アジアを中心に分布し,およそ70種が知られる。代表的な食虫植物で,葉の主脈がのびてつるになり,その先端に捕虫嚢を1個つける。捕虫嚢は種によって大きさ,色,形などの変化に富む。袋の下部に水液がたまり,はいった虫を内面にある腺から分泌する消化酵素で溶解して養分とする。雌雄異株。日本や欧米では観賞用に栽培され,園芸品種も多数つくられている。名は捕虫嚢の形を矢を入れる靫(うつぼ)に見立てていう。
→関連項目熱帯植物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウツボカズラ」の意味・わかりやすい解説

ウツボカズラ(靫蔓)
ウツボカズラ
Nepenthes; nepenthes

ウツボカズラ科の食虫植物で約 70種があり,中国南部からマレー半島,ボルネオ,スマトラなどに自生するつる性の小低木。観賞用に温室で栽培され,また多数の園芸品もある。葉は互生し,狭い長楕円形で長さ 10~15cm。中肋が葉端から突き出て長く伸び,その先が上を向いた壺形の捕虫嚢に発達する。壺の一方には翼があり長い毛が並び,口の上にふたのような付属物があるが開閉はしない。ふたと壺の入口に蜜腺があり虫を誘い,また壺の入口が滑りやすいので,虫は壺の中に落込む。壺の底には消化液が分泌されていて虫は消化吸収される。捕虫嚢の大きさ,形,色,模様などは種類によりさまざまである。雌雄異株で,枝先に長さ 10~25cmの総状花序を生じ,直径 8mmほどの黒紫色の単性花が密生する。ウツボカズラの名は,捕虫嚢を靫 (うつぼ) という矢を入れる武具になぞらえたものである。

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世界大百科事典(旧版)内のウツボカズラの言及

【サラセニア】より

…葉が瓶子(へいし)体をつくり,落し穴式に小動物を捕らえる,北アメリカ東部原産の食虫植物(イラスト)。和名を瓶子草という。高さ30~90cm。茎は地表面をはい,葉は瓶子葉と剣葉の2形性である。瓶子体は獲物を奥部へ誘導し,かつはい出させないような仕組みとして,内部に密に逆毛をもつ。消化酵素を分泌しないので,微生物の助けで獲物の消化吸収を行う。春,1~3本の花茎を出し,頂端に下向きの,緑,黄または紫色の1花をつける。…

【食虫植物】より

…すべて独立栄養者として,葉や茎にクロロフィルをもち光合成を行う一方,従属栄養的な性質ももち,獲物の小動物から窒素やリン等を摂取する。世界で,モウセンゴケ科(モウセンゴケ属約90種,モウセンゴケモドキ属1種,ハエトリグサ属1種,ムジナモ属1種),サラセニア科(サラセニア属8種,ランチュウソウ属1種,キツネノメシガイソウ属約10種),ウツボカズラ科(ウツボカズラ属約70種),フクロユキノシタ科(フクロユキノシタ属1種),ビブリス科(ビブリス属2種),ディオンコフィル科(トリフィオフィルム属1種),タヌキモ科(ムシトリスミレ属47種,タヌキモ属約150種,ゲンリセア属約15種,ビオブラリア属1種,ポリポンポリックス属2種)が知られる。日本にも2科4属21種の自生が認められる。…

※「ウツボカズラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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