伝達麻酔ともいわれるもので、神経幹に局所麻酔薬を注射することによって、その神経の支配領域の麻酔を得る方法である。この方法は、手術時の麻酔ばかりでなく、ペインクリニックにおける痛みの治療にも広く用いられる。注射する部位は、全身の末梢(まっしょう)神経幹、神経叢(そう)、および神経節など、安全に針が届くところならどこでもよいが、現在しばしば行われているのは次のようなものである。
(1)三叉(さんさ)神経ブロック 三叉神経痛の治療や顔面の手術に用いられる。
(2)後頭神経ブロック 頭痛の治療に用いられる。
(3)星状神経節ブロック 頭部、顔面、および上肢の血管拡張を目的としたもので、頭痛、顔面痛、顔面麻痺(まひ)、上肢の血行障害の治療など適用範囲が広い。
(4)腕神経叢ブロック 上肢の手術に用いられる。
(5)指ブロック ひょうその手術に用いられる。
(6)肩甲上神経ブロック 五十肩の治療に用いられる。
(7)傍脊椎(ぼうせきつい)ブロック 脊椎のわきのところで脊髄から出る神経をブロックする方法であり、体のあらゆる部位の痛みの治療に用いられる。
(8)肋間(ろっかん)神経ブロック 肋間神経痛の治療に用いられる。
(9)腰部交感神経節ブロック 下肢の循環障害の治療に用いられる。
(10)腹腔(ふくくう)神経叢ブロック 癌(がん)などによる内臓痛の治療に用いられる。
神経ブロックに使用する局所麻酔薬は、その作用時間は長くても4~5時間であるにもかかわらず、神経ブロックの鎮痛効果はずっと長く効く。この理由は、痛みは一つの悪循環を形成しており、ブロックによってこの悪循環が断たれるためと考えられている。
[山村秀夫・山田芳嗣]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…一方,麻酔薬を手術部位そのものに注射浸潤させる局所浸潤麻酔や,麻酔薬を皮膚や粘膜の表面に塗布する表面麻酔は,一般に狭義の局所麻酔とよばれている。伝達麻酔は末梢神経の走行あるいは神経叢に直接局所麻酔薬を注射してその支配領域を麻酔するもので,神経遮断(神経ブロック)ともよばれる。脊髄腔に局所麻酔薬を注入し,脊髄神経根部を麻痺させる脊椎麻酔や腕神経叢ブロックによる上肢の麻酔は,よい例である。…
…具体的には悪性腫瘍の神経組織への浸潤,骨破壊,機械的圧迫,伸展などによるいわゆる癌性疼痛,疾患により神経が変性を起こし痛みが慢性化する帯状疱疹後神経痛,中高年者に多い変形性脊椎症で起こる腰背部痛,自律神経反射によってもたらされる血流障害,筋萎縮が原因となる慢性痛,顔面の発作的痛みを起こす三叉(さんさ)神経痛などが代表的な疾患例である。
[痛みの診断と治療]
痛みの診断は問診,神経学的診察,神経ブロックなどによって行う。まず,問診によって,痛みの部位や内容,たとえば鈍い痛み,鋭い痛み,ひりひりする痛みなどの患者の表現から,痛みの内容を推定する。…
…局所麻酔の種類には,(1)表面麻酔topical anesthesia,(2)粘膜表面に塗布する浸潤麻酔infiltration anesthesia,(3)狭義の局所麻酔(局所に浸潤注射する),(4)伝達麻酔conduction anesthesia(末梢神経の走行経路に局所麻酔薬を注射して神経伝達を遮断する。神経ブロックnerve blockとも呼ばれる),(5)脊椎麻酔spinal anesthesia(脊髄くも膜下腔に局所麻酔薬を注入して脊髄前根,後根を遮断する),(6)硬膜外麻酔epidural anesthesia(脊椎の硬膜外腔に局所麻酔薬を注入して脊髄前根,後根を遮断する)がある。 局所麻酔は,意識下で手術が可能であり,自発呼吸が維持されている,手術部位の確実な鎮痛が得られる,手術野の自発運動の抑制と手術侵害による自律神経反射の抑制などが利点となる。…
※「神経ブロック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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