エッセネ派(読み)えっせねは(英語表記)Essenes

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エッセネ派」の意味・わかりやすい解説

エッセネ派
えっせねは
Essenes

ユダヤ王国のハスモン王朝期(紀元前142~前63)に成立したとみられるユダヤ教一派。この時代のユダヤ教は王権と祭司権をめぐる抗争と呼応して、パリサイ、サドカイ両派に代表される宗派を生むが、エッセネ派は俗をいとい穢(けがれ)を断って、厳格規律のもとにひたすら禁欲的な宗教生活に生きる宗派であった。その名称は「敬虔(けいけん)な人」「聖なる者」を意味し、その存在はイエス・キリストと同時代のユダヤ人思想家フィロンや歴史家ヨフスらによって知られていたが、実態は不明であった。ところが1945年、死海近傍のクムラン洞穴中の文書発見に始まる死海写本の発掘調査によって、エッセネ派の共同生活址(し)が出土し、クムラン文書そのものが同派の日常生活での聖書研究と写本作成努力の結果であることがわかった。出土品の「宗規要覧」「会衆規定」などは、厳格な階級制、禁欲主義、財産の共有など同派の規律、日常生活や信仰の実態を明らかにし、『旧約聖書』と『新約聖書』をつなぐ、驚くべき宗団の存在を示している。

[秋輝雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エッセネ派」の意味・わかりやすい解説

エッセネ派
エッセネは
Essenes

前2世紀~1世紀末,イエスとほぼ同時代のユダヤ教三大教派の一つで,パリサイ派サドカイ派と並ぶ。パレスチナに初めて現れたのは,前2世紀のハスモン家 (ユダヤ人祭司) の反乱の終り頃といわれるが,前1世紀末までには,その中心集団が死海の北西沿岸に共同生活を形成していた。派としての規模は小さく,会員はおもに農耕を中心として,厳格,敬虔な宗教生活を営んでいた。当時には珍しく,奴隷制を否定し,みずからの労働によって生活の糧を得,それを共有するという共産社会を形成していた。その禁欲的な宗教生活は,修道院と同様である。宗教観はサドカイ派よりもパリサイ派に近いが,独自の信念戒律をもっていた。生活の中心は詳細なトーラー研究に費やされ,会員は全生涯をそのために捧げた。日常生活のけがれを純化することを目指し,集団受洗といった儀式的純化が強調された。エッセネとは,「敬虔なもの」,あるいは「静かなるもの」といった意味と考えられるが,語源に関しては諸説がある。 1947年に死海の北西のクムランの洞穴で発見された「死海文書」 Dead Sea Scrollsは,この派のものとされる。

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