改訂新版 世界大百科事典 「オニシバリ」の意味・わかりやすい解説
オニシバリ (鬼縛り)
Daphne pseudomezereum A.Gray
早春暖地の林内の適湿地で,淡黄緑色の花を咲かせるジンチョウゲ科の小低木。盛夏の約1ヵ月間だけ葉を落とすので,ナツボウズ(夏坊主)ともいう。高さ1m内外で株立ちとなる。葉は枝先に集まって互生し,長倒披針形で基部は次第に細まり,長さ5~10cm,質がうすい。8月末から9月に枝端から新しい葉とともに,帯紫黄緑色の花のつぼみが数個ずつ束生して姿を現す。翌春に開いた花は,長さ6~8mmの萼筒の先端が4裂し,筒部内側に8本のおしべが2列につき,めしべの基部を浅い杯状の花盤が囲む。外観はほぼ等しいが,雌株の花がやや小型で,初夏に楕円形で長さ約8mmの赤い液果を結び,落葉期にも残る。福島県と関東南部から九州中部までと,済州島の暖帯上部の山地に点々とみられる。南アルプスや秩父の武甲山と朝鮮半島の石灰岩地にあるチョウセンナニワズは,落葉期が冬にずれた変種である。また福井・福島県以北の本州,北海道と千島,サハリンには樹が小型で鮮黄色の花が咲く亜種ナニワズssp.jezoensis(Max.)Hamayaがある。ジンチョウゲに似て,常緑で各部がやや細めのコショウノキD.kiusiana Miq.は,花が白く液果が赤い。房総半島以西琉球諸島までと済州島に分布する。
ジンチョウゲ属Daphneの樹木は樹皮の靱皮繊維が強靱で切れにくいので,結束に用い,また和紙の原料にも混ぜるが,いずれも量が少ない。果実は色が美しいが,かむと辛く,かつ有毒なので注意が肝要である。
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報