改訂新版 世界大百科事典 「オニノヤガラ」の意味・わかりやすい解説
オニノヤガラ (鬼の矢幹)
Gastrodia elata Blume
花茎1mに達する大型の腐生ランで,ナラタケの菌糸と共生している。和名は茎を鬼の使用する矢にたとえたもので,別名ヌスビトノアシともいう。ラン科植物。地下に長さ約10cm,楕円体状の塊茎がある。花茎は高さ100cmに達し,黄褐色でまばらに5~6個の鱗片葉をつける。6~7月,先端にやや密に20~40花をつける。小花柄は子房よりも長く,花は黄褐色,直径7~8mm,萼片および花弁は癒着して筒状である。唇弁は長さ約8mm,花筒の内から先端が出る。花粉塊は2個。全体が緑色のものをアオテンマf.vividis Makinoと呼ぶ。琉球を除く日本各地,中国,台湾に分布し,落葉林の林床や湿原に生える。アイヌは塊茎を煮たり焼いたりして食用にしたという。
近縁のものはすべて腐生ランである。ナヨテンマG.gracilis Blumeはまれにしかない植物で,小花柄が子房よりも長い。ハルザキヤツシロランG.nipponica(Honda)TuyamaとアキザキヤツシロランG.verrucosa Blumeは,草丈が花時10cm未満の小型の植物である。
執筆者:井上 健
薬用
根茎を漢方で天麻(てんま)という。バニリルアルコールvanillyl alcohol(胆汁分泌作用,てんかん発作抑制作用あり),ビタミンA様物質を含む。高血圧症と高脂肪症に天麻だけの煎剤が使われる。鎮静,鎮痙薬として頭痛,めまい,耳鳴り,メニエール症候群,高血圧症による手足のしびれや目のかすみ,脳溢血による半身不随,言語障害等々に,またてんかん,小児のひきつけ,関節リウマチなどの疼痛に用いられる。
執筆者:新田 あや
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報