日本大百科全書(ニッポニカ) 「オルフェ」の意味・わかりやすい解説
オルフェ
おるふぇ
Orphée
フランスの作家ジャン・コクトーの一幕劇。1925年9月執筆、1926年6月ピトエフ一座により、パリ芸術座で初演、1927年出版。ギリシア神話のオルフェウス伝説を現代化してコクトー自身の詩観を述べた作品。詩人オルフェは不思議な白馬の告げる予言に迷い、妻ユリディスは毒殺される。詩人の名声をねたむ一派の謀略だが、ガラス屋に化身した天使ウルトビーズの援助で、妻を死の世界から連れ戻す。その途中、不注意のため妻はふたたび死に、オルフェは惨殺されるが、その結果、現世を超越した別世界で幸福な生活が始まる。
生と死の領域を往来する鏡、美しい死神の行う手術、天使のガラス売りが空中に浮かぶ奇跡、ものいうオルフェの首など舞台幻覚をたっぷり使った「演劇の詩」である。「オルフェはぼくのファウストだ」と作者がいうように、この主題は後の自作の映画『オルフェ』(1949)に発展し、最後の映画『オルフェの遺言』(1959)に至って完成する。
[曽根元吉]
映画
フランス映画。1949年作品。1951年(昭和26)、日本公開。脚本・監督はジャン・コクトー。ギリシア神話のオルフェウス伝説を題材に、コクトーが現代化した戯曲『オルフェ』(1925年執筆)を、ふたたび主題として取り上げ映画化した。詩人オルフェ(ジャン・マレー)が、カフェで逢った王女(マリア・カザレスMaria Casares、1922―1996)と愛と死=詩を巡って苦悶(くもん)する恋愛譚(たん)。オルフェは、死の国から妻ユリディスを見ないという条件で地上に戻るが、車のラジオで暗号を受信するとき、妻をバックミラー越しに見てしまい、彼女は消える。サンジェルマン・デ・プレ界隈の風俗から始まり、疾走するオートバイの使者におびえ、王女の優雅な美しさに魅せられ、呪文のような詩を聞き、生と死の通路を往還するのがオルフェである。処女作『詩人の血』(1930)以来、鏡、時間の逆行、スローモーションなどをさらに反復、大胆に展開した本作の主題は、遺作『オルフェの遺言』(1959)で無時間の夢想へと至る。
[坂尻昌平]
『寺川博訳『オルフェ』(『コクトー名作集』所収・1979・白水社)』▽『堀口大学訳『オルフェ』(『ジャン・コクトー全集7』所収・1983・東京創元社)』