企業の資金調達において、外部金融、とりわけ金融機関借入が過大である状態をいう。企業の資金調達は、内部留保(内部金融)や株式・社債発行(資本市場調達)によるのがノーマルであるが、第二次世界大戦後は、日本の企業の内部留保の割合は低く、株式や社債による資金調達も十分ではなかった。このため、戦後の設備投資、とくに高度成長期の旺盛(おうせい)な資金需要を満たすためには、間接金融方式が優位である日本の金融構造の下では、銀行借入が過大となるのもやむをえない状況であった。この資金需要はおもに都市銀行の貸出によってまかなわれ、都市銀行の貸しすぎ(オーバーローン)は日本銀行借用金によって充足された。このようにオーバーボローイングは、企業が安い資金調達方法を模索し、その結果、比較的低コストの銀行借入に依存したためにおきたものである。とくに企業の外部資金調達に占める銀行借入金の割合は1970~1974年(昭和45~49)には83.9%を占めたが、その後、株式・社債発行による資金調達に力を入れて体質改善に努めた結果、1980~1983年には64.7%にまで下がってきた。さらに、金利自由化が進むなかで資金調達の証券化が進み、コマーシャルペーパー(CP)や増資・転換社債・ワラント債発行などのエクイティファイナンス(株式市場を活用する資金調達)の伸長から、大企業を中心として資本市場からの資金調達が大きくなり、オーバーボローイングの解消もみられる。しかし中小企業の資金調達は銀行借入が主でオーバーボローイングといえる。
[村本 孜]
『鈴木淑夫著『現代日本金融論』(1974・東洋経済新報社)』▽『鹿野嘉昭著『日本の金融制度』第2版(2006・東洋経済新報社)』
企業の資金調達において,外部資金とくに金融機関からの借入金に過度に依存する状態をいう。日本では,高度成長期に企業の投資意欲がきわめて旺盛であったため,投資支出は自己資金を大きく上回り,その資金不足の大部分が金融機関借入金によってまかなわれた。これは,第2次大戦後,企業と金融機関とくに銀行との関係が密接になり,借入金による資金調達は起債・増資に比べて企業にとってはるかに容易であり,しかも税制上も有利であることによるものである。こうして企業の資本構成の面では,自己資本の過小,他人資本の過大というアンバランスが著しくなった。この点で企業の財務体質ないし不況抵抗力が弱まるなどの弊害が指摘されるが,銀行のオーバーローンとともに,高度成長期における日本の金融構造の特色の一つになっている。しかし1970年代後半には,企業の投資活動が低調になり,半面,企業収益も漸次好転し,企業金融が緩和してきた。これにともなって,転換社債,株式時価発行,外債発行など資金調達方式が多様化し,金融機関借入依存度は低下してきている。
執筆者:石田 定夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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